劇場という永遠回帰装置。

 ツインさんのご招待で「サスペクト 哀しき容疑者」試写へ。最近は「アジョシ」の大成功によって(本当はその前段階で「甘い人生」などの成功があるが)、徴兵経験により身体能力的には本来申し分ないはずの韓国人俳優による暴力アクション参入が続いて嬉しい限りだ。日本のドラマ同様、一律にヌルくて下らない、韓国ドラマに見切りをつける参入は、本作のコン・ユに関してはセルフプロデュースの問題作「トガニ 幼き瞳の告発」があっただけに、その本気度に関して疑いもない。それは本作の感情を圧し殺しているがゆえの肉体、執念から生じる生身のアクションからも明白。物語自体は、妻子を殺された北朝鮮特殊工作員が、“政権交代”により粛清の対象にされかけるが、南に逃げた犯人を追い脱北し南北両方からのチェイスを描くもので、韓国に潜入してくる異人による物語のためか、「哀しき獣」を意識した邦題となっている。しかし韓国に潜入する意外に接点はなく、むしろ本作はプロによる韓国定番の復讐劇である。何度か見せる壮大な脱出アクションと、「ベルリンファイル」でも多用されていたような近接打撃を活用した、北朝鮮コマンドっぽい空想格闘術が楽しめて二度美味しい。しかもコン・ユの精悍なルックスが次第に中村雅俊に見えてくると思っていたら、「トガニ」に続いて単なる復讐ではないヒューマンな大風呂敷まで用意されている濃厚サービスが待機しているとは、さすがに海外資本も入ったノンストップ作「セブンデイズ」をものにした監督とのコラボレーションなだけのことはある。また意外な場所での希望を持たせるラストの余韻が、「〜獣」や「新しき世界」で強化されてしまった先入観をある意味補正してくれた。


 一観客として、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」へ。戦争映画として「プライベート・ライアン」と、己の「ワルキューレ」のイメージを発展させつつ、SFとして「ミッション:8ミニッツ(『恋はデジャ・ブ』)」をベースに、「スターシップ・トゥルーパーズ(とその映画的オリジンの『エイリアン2』)」を意識しつつオリジナルとして成立させたのも、原作となる日本のラノベが持ってたらしい日本人馴染みのゲーム感覚によるところが大きい(はず)。もちろんそれらの要素を視覚的に統合できると見抜いたトム・クルーズのプロデューサー資質と、ダグ・リーマンのガジェット感覚が、バーホーベンも当時実現できなかった描写を全部実現するどころか、さらに底上げしているのは言うまでもない。また舞台となるヨーロッパの景観による「ワルキューレ」想起に限らず、キーアイテムの手榴弾や田舎の廃虚という「宇宙戦争」イメージや、そもそもクルーズがインフレを起こすという「オブリビオン」へのデジャヴなど、過去のトムクル映画それぞれがただの娯楽ではなく、いずれも(恐らく彼の信教に起因した)トムクル思想の反映として重要なイメージであることも分かるようになっている。しかしそうしたシリアスな視点を廃しても、ぶっ飛んだ設定ゆえギャグも充実してて、わざわざ車に轢かれないタイミングを計るために一回死ぬ場面には本気で爆笑した。さらに毎回クルーズのキャスティング才覚に唸らされる女優チョイスも、エミリー・ブラントである点に必然性を感じたのも事実。なぜなら彼女はかつて「LOOPER/ルーパー」でも「そこでセックスしちゃダメだろ!」って局面でセックスしており、今回も「そこでキスしちゃダメだろ!」って局面でキスするため、飽きないルックス以外でも目が離せないのだ。要するに、“戦いを通し男女が生臭い仲にならない”という、「パシフィック・リム」により打ち立てられた画期的テーゼは、それもまたクルーズ思想の反映であるかのように、覆され初期化されてしまうのである。


 一観客として、「トランセンデンス」へ。「オール・ユー・ニード・イズ・キル」はその元ネタでもある「恋はデジャ・ブ」同様に“永遠回帰”がモチーフだったがこちらもまたタイトルが示すようにニーチェネタである。かつ本作は「権力への意志」を借用し、ノーラン製作の衒学的趣味を窺わせる。にもかかわらずそのSF的試みが実のところ中途半端に挫折してしまうのは、もう一人の有力製作者ジョニー・デップが“リトビネンコ事件”を映画化したがってた欲求を婉曲に果たすというのが作品の一つの目的だったとしか思えず、事件そのものの映画化を断念したデップが本作にその要素を入れ、ポロニウムで被曝させられ死に至る時点で納得してしまってるからではないかと思われる。コンピュータに自我を取り込みネットワーク上で再生した男が自己を拡張してミサイル基地や原発からどんどん乗っ取って“スカイネット”みたいになるのかと思ったのに…。単なるコンピュータウィルスによってあっさり野望を砕かれてしまうのである。せっかくレベッカ・ホール鑑賞映画としての機能を果たしているのだから、なぜナノマシンで「バーチュオシティ」のように肉体を再構築したデップでもいいし、デップに意識を乗っ取られたクリフトン・コリンズJr.でもいいからセックスしておくべきだったし、それによってタイトル通りの“超越”は実現するはずだったのだ。「ザ・フライ」や「バーチャル・ウォーズ」を意識しながらそうしないのにはデップ演じる科学者には消極的に自殺願望があったとしか思えず、そうした設定を盛り込んでおかないともっとスケールの大きい作品にならざるを得なくなるのを危惧するかのようだった。この肩透かし感、どこかで感じたことがあるなと思ったら、なんか「ブレインストーム」に似てるんだな。しかもキリアン・マーフィポール・ベタニーも出ているせいで、「レギオン」や「プリースト」、そして「TIME/タイム」といった愛すべき小粒なエンタメ路線で尻すぼみに終わってしまっている。モーガン・フリーマンは引き続きほぼ同じ役の「LUCY/ルーシー」で似たテーマを追求できるのだからいいかも知れないが、我々観客にしてみればこの場限りなんで超越を見せて欲しかったのである。そりゃまあ「ルーシー」も行くけどさ。アジョシ スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]甘い人生 通常版 [DVD]トガニ 幼き瞳の告発 (オリジナル・バージョン) [DVD]哀しき獣 ディレクターズ・エディション [DVD]ベルリンファイル [DVD]セブンデイズ コレクターズ・エディション [DVD]新しき世界 [DVD]オール・ユー・ニード・イズ・キル 3D & 2D ブルーレイセット(初回数量限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]プライベート・ライアン [DVD]ワルキューレ プレミアム・エディション [DVD]ミッション:8ミニッツ [DVD]恋はデジャ・ブ [DVD]スターシップ・トゥルーパーズ [DVD]エイリアン2(完全版) [DVD]宇宙戦争 [DVD]オブリビオン [DVD]LOOPER/ルーパー [DVD]パシフィック・リム [Blu-ray]トランセンデンス [DVD]ツァラトゥストラ〈上〉 (光文社古典新訳文庫)ツァラトゥストラ〈下〉 (光文社古典新訳文庫)ニーチェ全集〈12〉権力への意志 上 (ちくま学芸文庫)ニーチェ全集〈13〉権力への意志 下 (ちくま学芸文庫)ターミネーター [Blu-ray]ターミネーター2 特別編 [Blu-ray]ターミネーター3 [Blu-ray]ターミネーター4 スペシャル・エディション [Blu-ray]ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ <ファースト・シーズン> コンプリート・セット (3枚組) [Blu-ray]ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ <セカンド・シーズン> コンプリート・セット (5枚組) [Blu-ray]バーチュオシティ [DVD]ザ・フライ (特別編) [DVD]バーチャル・ウォーズ [VHS]ブレインストーム [DVD]レギオン コレクターズ・エディション [DVD]プリースト [DVD]TIME/タイム [DVD]LUCY/ルーシー [Blu-ray]