夏の渡辺謙セール総括など。

 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントさんのご招待で、「愛しのゴースト」試写へ。独特の死生観が息づくタイは、有名な死体マガジンや、救急隊や警察より早い死体カメラマンと死体博物館でも知られる死体大好きな国だ。死体に触れれば仏教的には徳を積めるからだろうが、それは農作業で酷使される牛を食わない文化にも通じ、要は功徳を施されず無念を飲んで成仏できない魂、即ち幽霊への抵抗感の強さから来ているようだ。だからこそタイ人にとって自分達の信仰心の至らなさを突きつけられる幽霊が怖いのは理解できるし、それが正調ホラーでクリアに描写されてしまうと、今の何でもありのホラー的には古く緊張を欠いたものになるのも分かる。加えてそんな伝統的な幽霊への畏怖が窺える昔話は、「ナンナーク」を代表として既に映画で何度も素材にされており、だったらコメディに料理しようというのは自然かも知れない。よって物語が「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」を想起させられるだけでなく、プラ・クルアンや高僧の扱いもどことなくキョンシー映画っぽくもある。つまり戦場から帰った主人公とその戦友、彼を待ち受ける家族の誰が幽霊か?を巡りひたすら村八分とドタバタの応酬なのだが、他にもタイ映画好みのプリミティブな障害者ネタや、時代物のはずなのに、マイケル・フェルプス、「300[スリーハンドレッド]」、スパイダーマンといった時代錯誤要素を意図的にぶち込みコメディ濃度を高める試みは字幕以外でもちゃんと聞き取れ工夫も窺える。そのドリフ的センスは好みが分かれるにしても、土葬死体を見ても誰も驚かないし、触ることにすら抵抗を抱かない描写が時折さらっと登場し、文化の違いが興味深いはずだ。中でも我が国のクズビデオバブル期に局地的知名度を上げた、インドネシア映画お馴染み、“内臓つきろくろ首女”が実はタイでも伝統的に怖がられてると分かり、かつその他の有翼の化け物や遊びをせがむただの子供などが待ち受けるお化け屋敷の場面はタイ人にとって何が怖いかよく分かる代わり、シュール過ぎて爆笑必至。それだけにエンドロールと共に描かれるぶっ飛んだ後日談は、タイ人によっては受け入れがたい結末と取る向きがあるのも配慮し、徹底的にコメディしており最もパワーを感じた。また、影の主役でもあるヒロインを演じたダビカ・ホーン(ダヴィカ・ホーネー)は資生堂のアジア向けコスメブランドのモデルだけあり、正統派美人ながら日本の持て囃したり差別したりの二極化とは違う、混血に寛容なタイの国民性が彼女からも垣間見え、俺は一目惚れしてしまったのである。


 一観客として、「トランスフォーマー/ロストエイジ」へ。シリーズ初でスター(マーク・ウォールバーグ)がいることが、彼の娘との設定に説得力ある風貌をしたニコラ・ペルツというフレッシュでも心許ない素材へのこれ以上ない援護射撃だ。しかも彼女の登場からか下ネタが減り、前シリーズより乗りやすいのもありがたい。とはいえ敵はT-1000のような可塑性あるリキッドメタルというアイディアを広げた存在であったり、必要以上に高所恐怖症を誘う描写の連発や、工場の文字がとにかくデカいという、「パール・ハーバー」ばりのマイケル・ベイイズムも健在である。また本作まで現在発生中の渡辺謙バブルの煽りを受けるとは思わなかったが、これまで観客の不安を高めてきた、ロボ関連のスカスカなメカ密度が上がり、特にコンボイはボディの刺青のようなファイヤーパターンも面積が拡大、アメリカの田舎が舞台の本作に適したダサさを醸し出した。前作で閉口した、たかがオモチャ映画にそぐわぬ長さは、されどオモチャ映画だからこそ整合をつける屁理屈に時間を要する長さであり、前作以上の長尺化に身構えていたが、思ったよりダレなくてホッとする。しかしよりシリーズが続けば、今後一層の長尺化が懸念されるので気は抜けないし、ジョン・タトゥーロ的ポジションに立つと想定されるスタンリー・トゥッチの芸達者は堪能できても、内容空っぽで三時間超えは辛いため続かないのを祈るばかりだ。「アンダーワールド」の“エリカ”以来でソフィア・マイルズのジャンル映画への帰還は喜ぶべきで、また特撮的舞台として香港はアリだが、このまま続けば中国媚びが酷くなるのは間違いなく、現時点でも「バイオハザード」以上に話に関係ないリー・ビンビンがかなりうざい。しかし、バカ騒ぎに深刻な面持ちで臨み、大して活躍しない香港の警察責任者マイケル・ウォンが「超強台風」の市長に重なり、ベイも大陸媚び映画ならではの笑いを用意したつもりにはなっているようにも見える。 


 一観客として、「GODZILLA ゴジラ」へ。鉄橋線路における高所恐怖症演出と渡辺謙バブルでは「TF」に共通するが、予備知識不要で臨める点はこちらを評価。実は物語の主体であるムートーの存在と特性を予告で巧みにミスリードさせ、日本や原発利権と隠蔽体質を的確に揶揄し暴くことで、日本が宣伝に乗り気でないように見えただけではなく、現実に乗り気でなかったのも分かり腑に落ちた。対するアメリカにおける核と放射性廃棄物処理という本来のテーマに躊躇なく踏み込む姿勢も、原子力政策と核開発は表裏一体という当たり前の事実を身も蓋もなくさらけ出す。プロデュースに坂野監督が関わればこそ、ゴジラの裏返しであるムートーはヘドラを想起させ、原発サイロで恍惚とする様は、公害煙を撒き散らす煙突をバキュームフェラするヘドラと見事に重なる。しかも実は古代生物らしいムートーの背景も意図的にぼかしたことで、放射線との不可分性も強調され、むしろ日本の原発事故を踏まえたリメイク版ヘドラのような趣さえある。だがゴジラが重傷を負うほど忠実ではなく、代わりにムートーの特性上ゴジラの必殺技で殺せるの?とは思ったが、俺は別に怪獣マニアではないので深く考えずエメリッヒ版より楽しんだ。また事態収拾に役立つ人間が誰もおらず、それは 「クローバーフィールド/HAKAISHA」を継承した視界狭窄描写に一役買う軍人の主人公すら例外ではないため、神頼み感もまさにゴジラ映画だ。但し、そのくせマチズモ称揚に余念がない面もあり、ポリティカル・コレクトネス的に不快ながらも海外の観客を納得させる要素として執拗に男らしさをアピール。しかも言い訳としてのジュリエット・ビノシュも用意しているが、彼女はそんな事態を想定しない場での犠牲者であり、放射線被爆の危険性に晒される戦場に置かれたものではない。依然、有事に女は最前線を免除され、男が犠牲にされる現実しか見せないのだ。“ジャンジラ市”と並び、強いて言えば目につくこうした瑕疵も作品自体のグレードには些かの影響もないが、ここまで偏愛が窺える描写の積み重ねでも、宝田明出演場面は確認できなかったので、ムカデ怪獣出現シーンと共にディレクターズ・カットか続編に活かすかで目にしたいものだ。なお個人的には、海軍参謀が「ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ」の捜査官である点にタイプキャストの妙を感じ、安心した。ナンナーク [DVD]チャイニーズ・ゴースト・ストーリー ブルーレイBox-set [Blu-ray]霊幻道士コンプリートBOX [DVD]300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]スパイダーマンTM トリロジーBOX (Mastered in 4K) [Blu-ray]トランスフォーマー/ロストエイジ ブルーレイ+DVDセット(3枚組) [Blu-ray]ターミネーター2 特別編 [DVD]ターミネーター 3 プレミアム・エディション [DVD]ターミネーター : サラ・コナー クロニクルズ 〈ファースト・シーズン〉 コレクターズ・ボックス [DVD]ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ<セカンド> セット1(6枚組) [DVD]パール・ハーバー 特別版 [DVD]アンダーワールド 期間限定スペシャルプライス [DVD]アンダーワールド 2 エボリューション コレクターズ・エディション [DVD]バイオハザードV リトリビューション [DVD]サンダーバード (2004年劇場公開版) [DVD]超強台風 [DVD]GODZILLA ゴジラ 北米版 / Godzilla [Blu-ray+DVD][Import]GODZILLA 【60周年記念版】 [DVD]クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]ゴジラ(昭和29年度作品) [60周年記念版] [DVD]ゴジラ対ヘドラ [DVD]