昆虫界/脳内/宇宙のカオス。

 東北新社さんのご招待で、「ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜」試写へ。既に教育テレビでもこのフランス発の短編シリーズは放送されてたらしいが、俺はテレビを見ないので不勉強ながら知らなかった。今回はとりわけ、番組シリーズにおけるキャラクターを共通させながら昆虫たちの生態と冒険を実景を使い撮影したストップモーション風アニメーションを新たに長編映画化したものである。短編では各昆虫のキャラとネタ重視、かつ限定空間である制約があったようだが、本作は様々な昆虫が息づくフランス郊外の森林に設定したため、「ブルー・ベルベット」冒頭のようなカオスに幕を開け、シンプルながら表情豊かな物語の主人公がてんとう虫と分かる。彼が仲間とはぐれる過程でのハエ、クモとの諍い、アリたちとの友情、敵対する赤アリとの戦争に巻き込まれた彼が、トカゲやカエルといった天敵から逃れ、恩人のアリたちを救うためのある道具の入手に奔走するまでをサイレント的手法で見せるのだ。「ジャイアント・ピーチ」風のモデルアニメにも見える質感を持つ昆虫はよく見るとCGと分かり、昆虫独特の硬質さを維持しつつ、動きや目などの限定的な表現部位を駆使、台詞もないのに非常に感情豊かな動きをつけられている。また、「バグズ・ライフ」のような戦争絡みの物語も、昆虫の視点と同化する現実の山郷の風景を実景から超接写によって昆虫と合成し、あるいはスーパーマリオネーションのようなセットを実際に組んでおり、重量感のある砂・飛沫・炎が飛び交う予想外のド迫力。さらに爬虫類や両生類は昆虫にとっては怪獣でもあるので、CGながらハリーハウゼン的に憎めない動きも堪能できる。容赦ない自然界の掟にさりげなく従ったその戦いの果てに表示される、番組に近い短編的描写を交えたエンドロールの末尾に「メビウス追悼」の文字を発見し、この志が高い良品の目指すところを理解し、CG表現における人形アニメ的描写の発展にまだ充分な期待ができることを思い知らされたのだった。


 一観客として、「LUCY/ルーシー」へ。このところのベッソン最大ヒットとの世評にも動じずニュートラルに臨めば、収拾つかずとっ散らかったせいで案外楽しめた。でも薬でぶっ飛ぶからってヒロイン名が“ルーシー”ってのは…一応脳内物質を精製した薬物原因との設定はあっても、その先取り(前借り)で覚醒する理屈はシャブ中と同じだ。さらに一応原始人は出るけど(笑)、赤ん坊にも原始人にもならない分、「2001年〜」的サイケ描写は皆無。また、どれだけ脳の覚醒範囲が広がっても、単に思考の明晰化とか脳の指令で肉体をフル活用できる程度で、思考のみで物理法則に干渉するには無理がある。だから気まぐれに対象を気絶させたり動きを封じるだけだったりなのかもしれない。ならびに一時期のアンソニー・ウォンに匹敵する最大のお目当て、チェ・ミンシクは本国の映画ほど狂ってないが、彼を立てるためのコリアンマフィアの適度なやり過ぎはもちろん、劇中強調される、包丁に似たブレードを持つ!“BASTINELLI RAPTOR”はビジュアル重視で、使い方も危なっかしく、かつ「オンリー・ゴッド」での金属箸による描写の臆面もないイタダキに見えた。しかしサポートに回る刑事が役に立たず、恋愛要素にも厳しい人材であったことは最大のオリジナリティかもしれない。男を必要とせず、神の域に近づいたヒロインを描くからこそ、意図的に見過ごされた要素とも言えるのだ。つまり本作は男を救わない「アンジェラ」といった趣もあり、これで同様に続編も作れないはず。ベッソンの撮りたい衝動も理解不能ではないけど、これだけ偏重されるとスカーレット・ヨハンソンへの過大評価も透けてしまい、単に彼女のアップを楽しみたいという向きには「ザ・スピリット」程度のお勧めではある。だがこれまで実際、ベッソンはプロレスラーの如く勿体ぶって「もう撮らない」発言を何度もしてるように、いい加減プロデューサーに専念してヨーロッパ・コープ謹製アクション量産をして欲しい気がする。


 一観客として、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」へ。製作発表の時点で、今さらスペースオペラ?と思ったし、それがシリアスでリアル一辺倒が好ましかったアメコミ映画化の流れへの、とりわけ荒唐無稽なコミックが目立つマーベル側からの反動と見ていた。それがキャスティング決定で、ゾーイ・サルダナ目当ての期待に完全に切り替わり、さらに後にようやくジェームズ・ガン作品でもあると気づいた結果の鑑賞だった。それが冒頭からいちいちサントラに爆笑しっ放しで、一切の予備知識不要な間口の広さに驚いてしまった。それでいてマニア寄りと思われていたガンの作家性も存分に発揮してるから文句つけようがない。相変わらず愛があるマイケル・ルーカーいじりに加え、グレッグ・ヘンリー(お祖父ちゃん)や、「ケヴィン・ベーコン」などの刻印もちゃんと笑いに昇華してるのだ。メンバーも割とすぐ共闘に追い込まれ、宇宙を支配する超パワーを巡り三つ、四つ巴の争奪戦になるが、事態が紛糾するほど、メンバー同士が出自の違いを乗り越える過程で、名前の間違えや仕掛けたイタズラなどの細かいディスコミュニケーションに笑ってれば自然に把握できる。また、想像以上に寡黙なヴィン・ディーゼルによる“グルート”や、「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」からの伏線で登場したベニチオ・デル・トロなど、隅々まで豪華キャストを無駄遣いし大作そのものを茶化す構造てもあるので上級者も満足だろう。中でもブラッドリー・クーパーの声だけ出演による暴言連発で、スタン・リーさえコケにする“ロケット・ラクーン”の動きはスムーズで技術的にも瞠目だった。彼に対応する毒舌動物キャラとして、どうもシークレットでもなさそうな、あの伝説のキャラの登場は、(「スーパー!」の頃から)ある意味あれだけ振っといてベーコンが結局出ないネタに匹敵する失笑!同じくスペースオペラで鑑賞意欲が減退中の「ジュピター(jupiter ascending)」への助走には充分すぎる〆である。つうか、あいつまたピンで復活するの?Minuscule ミニスキュル -小さなムシの物語- シーズン1 DVD-BOX (全78話, 248分) アニメ [DVD] [Import] [PAL, 再生環境をご確認ください]Minuscule ミニスキュル -小さなムシの物語- シーズン2 DVD-BOX (全97話, 455分) アニメ [DVD] [Import] [PAL, 再生環境をご確認ください]ジャイアント・ピーチ [DVD]ブルーベルベット (特別編) オリジナル無修正版 [DVD]スターシップ・トゥルーパーズ [DVD]LUCY/ルーシー [Blu-ray]2001年宇宙の旅 [DVD]アルタード・ステーツ 未知への挑戦 [DVD]アンジェラ スペシャル・エディション [DVD]エンター・ザ・ボイド ディレクターズカット完全版 [DVD]オンリー・ゴッド スペシャル・エディション [DVD]メダリオン [DVD]ザ・スピリット [DVD]ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー [Blu-ray]ヘンリー ある連続殺人鬼の記録 コレクターズ・エディション [DVD]スリザー プレミアム・エディション [DVD]スーパー! スペシャル・エディション [DVD]マイティ・ソー/ダーク・ワールド MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]