「犯罪/アクション/パニック」≒人間の悪意。

 角川映画さんのご招待で、「ガンズ&ゴールド」試写へ。オーストラリアの監獄と言えば、まずジョン・ヒルコートのデビュー作「亡霊の檻」が思い浮かぶが、ああした広大な地域にも関わらず妙に欧米のそれとも違った陰湿な人権蹂躙の行われる場所として、オーディヤールのフレンチ・プリズン・ムービー「預言者」のような出だしながら、本作でも独特のオージータッチが見えてくる。右も左も分からないチンピラへ下心で、「アニマル・ファクトリー」のウィレム・デフォーのごとく接近してくるのが終身刑ユアン・マクレガーなのだが、そこそこ若いながらも非情で老獪な牢名主と化しているのが新鮮である。短期服役であるチンピラの肛門を守ってやる代わりに外へ渡りをつけ、チャールズ・ブロンソンの「ブレイクアウト」さながらの大雑把な脱獄を敢行させるためだったのだ。そのせいで出てからも追われる身となってしまったチンピラはマクレガーと行動を共にせざるを得なくなり、依頼主のロシア系組織の顔役から脱獄の便宜を図った見返りに大掛かりでアバウトな金採掘場襲撃にも加担させられ、ボスの女にも惚れてしまい深みに嵌まっていく。同じくオージー舞台の「アニマル・キングダム」の時もそうだったが、ロケーションされる風景の何もかもがアメリカより一回り大きく、卑小な人間の犯罪に無関心な自然の巨大さばかりがやたら印象的で、ヒルコートの「プロポジション」に描かれた頃と変わらぬ空漠とした気分を高める。オーストラリアの犯罪社会にロシア系組織が浸透しているのも意外ながら、金額の交渉により犯罪現場で力関係が変転する自由闊達さには驚いた。そんな中でも情が絡むため、主人公の行動を支配していくようになる女との関係をマクレガーは冷静に見つめるが、その予感を裏切るどんでん返しもあり痛快タッチにまで作品はシフトチェンジ。ともあれ、こと犯罪に関しては「女は信用するな」という定番メッセージは厳粛に受け止めたい。


 パラマウント・ピクチャーズ・ジャパンさんのご招待で、「ヘラクレス」試写へ。そもそも、ヒールであった「ハムナプトラ2」はともかく、そのスピンオフである「スコーピオン・キング」によって、ロック様はシュワルツェネッガーが「コナン・ザ・グレート」などで華々しく売り出されたように、サンダル史劇のバリエーションとしてのヒロイックファンタジーの主役を張ることで、自ら次世代のアクションスター宣言をしたのだった。それだけにテーマ的にも手垢がつき、今更感の漂うルックである作品の蓋を開けてみれば、逆のベクトルで落とし前をつけた、ロック史的にも極めて画期的な作品なのである。それは3Dで見せるコミック原作ありきのサンダル史劇映画化として、「300[スリーハンドレッド]」シリーズへのエクスキューズとなっているだけでなく、リアリズムに徹したヘラクレス神話解体として、等身大の悩み疲れた男、俳優ドウェイン・ジョンソンによるその後のヘラクレスが浮かび上がってくるのだ。確かに同じような趣向の作品としては既に「オーバードライヴ」があるが、現代でカルテルとの抗争に否応なく巻き込まれる父親としては多少の無理があっても、本作はあのエピック版だけに異形としての彼のマッチョな風貌にも違和感がない。その辺はヒーロー演出に長けたはずの監督であるところのブレット・ラトナーも抑制的で、次第に臆面のない狡猾さを押し出してくる雇い主、ジョン・ハート(や、ヘラクレスのトラウマの源となっているジョセフ・ファインズ)の不気味さにこそ力が入っているようにも感じられるほどだ。だからこそ後半の生身としてのヘラクレスの反撃は、“ヘラの栄光”というその名を返上し、あくまで“己の栄光のために戦う男”として、すべての男への犠牲的なマッチョ主義をたしなめ、かつエールとしても機能していると言える。


 一観客として、「猿の惑星:新世紀」へ。前作の終わりがまるでゾンビ映画のように世界の終わり(人類の衰退)を暗示し突き放す終わり方を素晴らしく思ったが、前作の監督はまさにそのサーガの発火点に興味があった風が窺え、作品自体もその疑問に見事に答え整合性を維持し、怒れる男(猿)の反逆の物語としても成立させるという離れ業を達成していた。だが俺がその時思ったのは、このシリーズがこのまま評判でサーガの欠落や瑕疵を埋める形で万一シリーズ化されたら、いずれ辿り着く旧オリジナルシリーズとのリンクにおいては、当時の単なる特殊メイクによって演じられた猿と、このパフォーマンスキャプチャーによって演じられた猿との齟齬は、まるで「スター・ウォーズ」新旧シリーズの繋がりのように、木に竹を接ぐ如くに食い合わせの悪いものになるに違いない…という危惧だった。そうした危惧をカバーする形で作られた点において、前後するようではあるがティム・バートン版「猿の惑星」(特にキャストの人種)や、前日談としての「プロメテウス」にはそのストーリー的な強引さは措いてもかなり作り手の細心の注意に感心したが、本作のマット・リーヴスにはそのセンスがなかったようだ。むしろ前作の監督、ルパート・ワイアットはこの企画を降りたことにこそセンスを感じる。とはいえ、人間臭いゲイリー・オールドマンの扱いはキャラとして無駄遣いな気もして残念でも、主役が「ゼロ・ダーク・サーティ」の拷問担当、兼ジョン・ヒルコートの「欲望のバージニア」の長兄でもあるジェイソン・クラークというチョイスは善人に見えず斬新。物語的にもシーザーが育った家が残っており前作からさほど時間が経過してないのも分かり、それなりにスペクタクルにはなってるけど、サーガの根源に日本軍の捕虜体験がある物語だけに、ここまで続くと、率直に「何が言いたいんだ?」と思わざるを得ず、猿ももうメタファーとして機能していない。また描写としては猿にとってリロードや弾薬補給はまともに出来ないようでも、なかなか正確な銃器の取り扱いに比べ、取ってつけたようなメス猿の扮装は他のオス猿どもの土人風ウォーペイントの対応として描きたいのかもしれないが、文明の成熟についてのどういう位置づけを示しているのかも明確な説明はなく食い足りなさが残る。Ghosts... of the Civil Dead [DVD] [Import]預言者 [DVD]アニマル・ファクトリーアニマル・ファクトリー [DVD]ブレイクアウト [DVD]アニマル・キングダム [DVD]プロボジション 血の誓約 [DVD]ハムナプトラ2/黄金のピラミッド [DVD]スコーピオン・キング [DVD]コナン・ザ・グレート<特別編> [DVD]キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2<特別編> [DVD]300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]300<スリーハンドレッド>?帝国の進撃?(字幕版)オーバードライヴ [DVD]猿の惑星:新世紀(ライジング) [DVD]猿の惑星:創世記(ジェネシス) [DVD]PLANET OF THE APES/猿の惑星 [Blu-ray]猿の惑星 [DVD]続・猿の惑星 [DVD]新・猿の惑星 [DVD]猿の惑星・征服 [DVD]最後の猿の惑星 [DVD]プロメテウス [DVD]エイリアン [DVD]エイリアン2(完全版) [DVD]エイリアン3 [DVD]エイリアン4 [DVD]エイリアンVS.プレデター 完全版 [DVD]AVP2 エイリアンズVS.プレデター<完全版> [DVD]スター・ウォーズ オリジナル・トリロジー DVD-BOX<3枚組> (初回生産限定)スター・ウォーズ プリクエル・トリロジー DVD-BOX<3枚組> (初回生産限定)ゼロ・ダーク・サーティ スペシャル・プライス [DVD]欲望のバージニア [DVD]