トラブル解決は劇場で学べ?

 プレシディオさんのご招待で、「ランナー・ランナー」試写へ。タイトルはポーカーの手だが、「ラウンダーズ」のようなポーカーものではない。奨学金打ち切りと調達過程の博打失敗の借金から、オンラインカジノスキミングに関するセキュリティホール指摘でカジノ王に取り入るしかなくなった大学生が、同時にFBIからも赦免を条件に潜入を命じられ、タイトル(ラスト二枚の手札で巻き返して勝つ)通りに逆転を図れるか?あがくコン・ゲームである。そうは言っても、オンラインカジノにまつわるからくりは着想元の事件後に新たな法規制が加えられたこともあり、全て機械化されやりたい放題なのは分かる程度で、悪用防止ももちろんあるだろうし、「カジノ」同様実話ベースの割にあえて詳細を見せようとしない。観客としてはそこにむしろリアリティを感じるが、では肝心の部分を伏せ他どの要素でサスペンスを牽引するか?といえば、ジャスティン・ティンバーレイクという主役のチョイスが絶妙だったという他はない。「サウスランド・テイルズ」のようにアウトローも出来る彼が、今回はチンピラといってもインテリなので「タイム」のようなストリート感覚も封印、「ソーシャル・ネットワーク」的な軽さや非俳優ならではの、いい意味で気弱なよそ者感覚により、彼を見い出すカジノ王ベン・アフレックの魔王性を意外なほど逆照射するのだ。だがそれは応酬のようにアフレックが既に、現時点で暗黒面を併せ持つ主人公の庇護者としての“ブルース・ウェイン”化を進行させている証左でもあった。さらにティンバーレイクを板挟む一要素としてのFBI捜査官がアンソニー・マッキーなので、「アジャストメント」的な間抜けさを一瞬期待しても、こちらもまた最後まで読めないキャラで混乱を誘う。結果、知り抜いてるはずなのに、女はビジネスパートナーとしての信頼においてあまりに危険な側面のあることが今に至るも強調され、「女と仕事はすべきではない」警句として、身につまされ具合が半端なかったのである。


 一観客として、「泣く男」へ。イ・ジョンボム監督がどこかのインタビューで「毎回ラストから話を考える」的な話してたのを読み、見せたい画ありきのタイプの監督だと過去二作でも明らかだった。なので見せたいシーンがどこかは本作でもすぐ分かるし、前二作はそのそれぞれが絶妙なバランスで有機的に繋がったことで、「熱血男児」の主人公が無様でも、「アジョシ」の展開がベタでも傑作たり得ていた。本作は一歩及ばず、それぞれの有機的な繋がりという意味では弱いと言わざるを得ないが、やはりどうしても“監督の見せたい画”とそこに絡む情念が極めて圧倒的で、鑑賞後一拍置き各シーンが合致するズレを見せても、どうしても嫌いになれない引っ掛かりを残す作品である。どんな残虐な殺しを見せても、実はその非情さが鍍金だと冒頭に明かしてしまったため、かつてドンゴンが演じた「友へ チング」や「コースト・ガード」ほどには殺しで内面が空だったり蝕まれた人間は出ず、その復活を見せる作品でもない。もちろん本当に空なら傷つきもしないし、情感ある物語が展開するはずもないが、あくまで空の振りした人間の疲弊と、贖罪での再生願望を描くもので、その疲弊は「ソナチネ」に似た諦めであり、同じく捨てられた主人公とは言っても「タイフーン」の絶望や復讐心とは異なるとは強調しておきたい。結果的に標的の女を守る形になっても、女を己を捨てた母と混同した復讐心と、自分も母も込みで赦免したいない交ぜの感情が、女の娘への誤射から堰を切ってしまっただけであり、女も限りなくグレーな世界に身を置いていたり、組織に逆らった以上、依頼人との決着だけで女の危機は去ったと言えるか?など疑問も残るが、主人公の思い込みで転がる物語としてはどうでもいいことなのだ。とはいえ、今回も「その男、凶暴につき」の白竜ばりに殴られて登場するキム・ヒウォンへの監督からの愛、そしてイイ顔に違わぬ最低にゲスな振る舞いに関しては大満足だし、インターナショナルなキャスティングによる意識的な英語の多用や、英語にまつわる母親と掃除のおばちゃんの対比が監督ならではの自国に対する文明批評になってるのが興味深い。映画祭をダシにいくらバカな宣伝屋が苔むした邦画を踏み台にナショナリズムを煽っても、他国の文明に愛憎半ばした足掻きを生々しく捉えた、こんな痛みに満ちた邦画は死んでも撮れないよ。


 一観客として、「イコライザー」へ。ドラマ「ザ・シークレット・ハンター」は邦題に惹かれ昔何度か見たが、本作は一話完結のそのリメイクというより、一見「パニッシャー(腕の立つ殺し屋やロシアン・マフィア)」や、「イースタン・プロミス(ロシアン・マフィアの刺青描写や海外にシマを作り女で儲けるシノギ)」の不可避に加え、「アジョシ」を逆に取り込んだような痛快作であった。終盤ドラマに目配せがあり続編の可能性や“エピソード0もの”としても見ることもできる。だが元の生活に戻れると思えない大騒ぎを起す以上、より大スケールを狙う続編というのは、同じくオリジナルから世界観も異なり、転回不能な大事が展開したドラマ映画化として、「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」的な類似から難しい可能性も高い。本作の場合、「要塞警察」的な改変として主人公が黒人デンゼル・ワシントンへの変更に加え、OCD(強迫性障害)気味とも強調されるが、多分現実に同症状に見舞われる人は、殺しなど手を染めれば余計パニックに陥るはずなので、(サヴァン症を筆頭とする)様々な脳機能障害を部分的に取り入れキャラ造形している。加えて対する敵が公権力を悪用しつつ偏在するのは劇画「strain」の“エンジェル”を思い出させられ不気味である。だがその悪辣な設定こそが超法規的な報復の必然性付与に大いに貢献しているのだ。また、劇中登場するアイリッシュ組織の正業が土建屋ってのが「ザ・ソプラノズ」の如く、やくざの副業は万国共通なのも笑える。ともかく、教訓としては妙なトラブルに首を突っ込むと薮蛇で泥沼化し、互いのどちらかを滅ぼし切らないと終わらないということなのだが、そこを徹底して見せるのも、助けられた礼に女がキスで返すのもマッチョ社会ならではという問題提起も含まれていた。但し、この余分な後日談をアントワーン・フークアは過去の監督作品「ザ・シューター」の蛇足感の延長としては特に意識しておらず、むしろ今回の「トレーニング・デイ」の再タッグのはずが、拷問シーンに見られるように「マイ・ボディガード」等でデンゼルを多用してきたトニー・スコットへのオマージュとして位置づけようとしていることでも窺えた。RUNNER RUNNERラウンダーズ [DVD]カジノ [DVD]サウスランド・テイルズ [DVD]TIME/タイム [DVD]ソーシャル・ネットワーク [DVD]アジャストメント [DVD][rakuten:yunisino:10036499:image:small]熱血男児 [DVD]アジョシ スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]友へ チング [DVD]コースト・ガード 【韓流Hit ! 】 [DVD]ソナチネ [DVD]タイフーン [DVD]その男、凶暴につき [DVD]パニッシャー コレクターズ・エディション [DVD]Equalizer: Complete Collection [DVD] [Import]イースタン・プロミス [DVD]strain(1) (ビッグコミックス)strain(2) (ビッグコミックス)strain(3) (ビッグコミックス)strain(4) (ビッグコミックス)strain(5) (ビッグコミックス)特攻野郎Aチーム THE MOVIE [DVD]アサルト13 要塞警察 [DVD]ザ・ソプラノズ 〈ファースト・シーズン〉セット1 [DVD]ザ・ソプラノズ 〈ファースト・シーズン〉セット2 [DVD]ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア 〈セカンド・シーズン〉 [DVD]ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア〈サード・シーズン〉 [DVD]ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア〈フォース・シーズン〉 [DVD]ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア 〈フィフス・シーズン〉 [DVD]ザ・ソプラノズ 〈シックス・シーズン〉セット1 [DVD]ザ・ソプラノズ 〈シックス・シーズン〉セット2 [DVD]ザ・シューター/極大射程 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]トレーニング デイ 特別版 [DVD]マイ・ボディガード [DVD]