現実/虚構、干渉し合う世界。

 一観客として、「エクスペンダブルズ3 ワールドミッション」へ。のっけからランボーグリーンベレー時代最も得意としたとされる、スタローン自身によるヘリ操縦で、「デモリションマン」で胸を貸した愛弟子ウェズリー・スナイプス救出というだけで思いやりを感じるし、立て続けの脱税ネタは、後に語られるブルース・ウィリス降板経緯と並び洒落にならず笑える。しかも単なる導入でしかないスナイプスと看守軍団に確執を匂わせる辺り「デッドロック」的だが、これだけでも遡りスピンオフ出来そうな素材をスナイプスに提供しているとも言える。また、スタローンはアントニオ・バンデラスとも「暗殺者」以来の師弟再会を果たしており、自分が起用したドルフ・ラングレンも含めた師弟関係的アクション人脈に支えられ、シリーズ自体が成立している入れ子構造から、バーニーと現実のスタローンが重なり微笑ましい。労働者としてのアクション俳優に仕事を斡旋する側面も、本来このシリーズには一作目からミッキー・ローク(二作目はチャック・ノリス?)により強化されていたが、今回受け皿の厄介になるのはメル・ギブソン。彼は「マチェーテ・キルズ」では飛び道具的悪役に留まったのに対し、本作では戦場の狂気を醸し、前作のヴァン・ダム以上に饒舌な悪役である。そうなると対するシュワルツェネッガーと彼の会社に移籍したジェットの華のなさは寂しいが、前者は髪型と髭のせい、後者は病気のせいということで大目に見たい。実際、前立腺除去などの病気でメス化することもあるように、彼らの変節には説得力もある。逆にオス化著しいロンダ・ラウジーが「イコライザー」同様、助けられた礼にキスで返すのは、マッチョ社会ならではの病理を告発しているように見えた。なぜならラウジーに絶えず発させている男へのセクハラ発言から、そうしたものに鈍感な精神性こそマチズモと監督は看破しているからで、それは終盤明らかになるシュワとジェットの関係性へあえて踏み込む姿勢からも大いに示唆的であり、これは監督自身の密かなカミングアウトとも受け取っていいと思う。ちなみに作意抜きのロバート・ダビ起用とそのうやむやな扱いに最も敬意を感じたのも間違いない。


 一観客として、「美女と野獣」へ。レア・セドゥを見るためだけの目的とはいえ、元来活劇派の監督による「ジェヴォーダンの獣」以来のコスプレ劇でもあるので、過去にはディズニー版を見てその表層的なおためごかしの展開に非常に腹が立ったので、その不快な記憶を上書きしてくれることを期待して臨んだのである。もちろん原作がそんなに激しい話ではないはずなのでアクション的には期待するべくもなかったが、超自然的な現象を視覚化した派手さではディズニーを軽く凌駕し、ヒロインの兄が否応なしに巻き込まれるチンピラたちの汚さと当時の暗黒街描写もなかなか。また生来の品のよさを感じさせる野獣のデザインはこれまでの映像化されたものを尊重しつつ、野獣の状態でもヴァンサン・カッセルの風貌も窺わせ、野獣のくせに健康的で清潔感があるのは新しいと言えるだろう。さらには監督の趣味なのか、ディズニーと違い悪意・贖罪・犠牲・欺瞞など、どちらかと言えば人間の負の感情に寄り添った物語展開を持っているので、それだけ大人の鑑賞に堪えうる深みがある。しかしなんだかんだ言ってもレア・セドゥがいないと一切成立しない作品であることは断言できるし、やはり目算通りに、彼女だけに特化しての鑑賞を狙ってもお釣りが来る作品であることだけは保障できる。


 一観客として、「誰よりも狙われた男」へ。能動的に調べないと知ることはないチェチェン紛争の闇を描いた作品である。しかも地を這うような地道な情報収集と実務的な交渉メインで極力荒事を抑えたスパイ仕事は、同じジョン・ル・カレ原作による「裏切りのサーカス」との共通性は見い出せるが、監督アントン・コービンによる写真仕事の延長に見える過去の作品、とりわけ今回同様に海外ロケを駆使しセンチメントな物語に絵画的な場面をもたらした、「ラスト・ターゲット」のような思い入れはない。いや思い入れがあるからこそ、パサパサに乾いた現実の諜報戦を現実以上に突き放して描こうと心掛けたに違いなく、印象的な画面構成もそのために放棄する姿勢は、紛れもない“映像作家”としての成熟を感じる。また“冷徹”という言葉さえ誉め言葉になるので憚られるような、怠惰な官僚性といった惰性を滲ませるウィレム・デフォーの素の感じも絶妙で、この体温の低さのまま「Pasolini」も期待したい。一応気になる点は、そこそこ華のあるレイチェル・マクアダムズが若干感情的かつ派手に演じたように見える瑕疵はあるが、冒頭からナイーブな中に邪悪な意志を秘めていそうにも見える、曖昧な表情を曖昧なまま放り出すグレゴリー・ドブリギンの素晴らしさを際立てるためと良心的に解釈したい。それは作品全体の唯一の激情の発露と言ってもいい、フィリップ・シーモア・ホフマンの絶叫が、見る側には現実に重なり、同じFワードを心の底から叫びたくなるやるせなさで包まれるはずだからだ。なぜなら、本来タイトルはホフマンを指すわけでなくとも、俳優として世界の頂点に立ち、世界中から羨望・嫉視・芸の追撃を受ける身に、つまり「誰よりも狙われた男」となっていたホフマンが、彼を襲うプレッシャーとその慰撫として選んだ方法により死んでしまい、彼の事をも指すようになってしまった皮肉とエンドロールの献辞により、作品の結末以上の苦い現実を噛みしめる羽目になるためである。エクスペンダブルズ [DVD]エクスペンダブルズ2 [DVD]ランボー [DVD]ランボー怒りの脱出 [DVD]ランボー3怒りのアフガン [DVD]ランボー 最後の戦場 [DVD]デモリションマン [DVD]デッドロック [DVD]暗殺者 [DVD]ロッキー4 [DVD]マチェーテ・キルズ [DVD]美女と野獣 スペシャル・エディション (期間限定) [DVD]コントロール デラックス版 [DVD]ラスト・ターゲット [DVD]カポーティ [DVD]