映画を発信し続ける暴力の都。

 ポイント・セットさんのご招待で「スパイ・レジェンド」試写へ。本作でも、「誰よりも狙われた男」と同じく、能動的に調べなければ、なかなか知ることはないチェチェン紛争の闇という形で、戦場の残虐行為をカバーし、グロテスクな面もあるが、それだけにテーマ的にもテクノロジー面でも今日的でリアルな諜報活劇となった。また、誰もが先代ジェームス・ボンドとして想起するピアース・ブロスナンが演じる、コードネーム“ノベンバー・マン”は、彼のボンド役への見なしを適度に裏切り、かつアップデートした存在だ。適切なアクションと徹底的に頭脳を駆使したファイトスタイルでありつつ、傷つき枯れ気味なエージェント役への復帰には、地に足のついた必然性と説得力を感じるだろう。しかも、師弟関係に因むエージェント同士の確執を内包した物語という意味では、ブロスナン・ボンドの出発点「ゴールデンアイ」の裏返しなのも意識しない訳に行かず、それが弟子となるルーク・ブレイシーの存在感で見事に機能しているのだ。また、決してお遊びに終わらないオルガ・キュリレンコの登場など、キャスティングにもブロスナンがボンドであったことへの自己言及的な目配せも忘れない。かつて彼は、ほぼ現役ボンド時代、「テイラー・オブ・パナマ」でも英国諜報員のアンチテーゼを演じたが、あれはあくまでボンド役を進行中だからこそできた一発ネタ(似た立ち位置にはショーン・コネリーの「ロシア・ハウス」があると思う)であって、今回のそれは完全にシリーズ化を念頭に置いている点が、今後の発展性も見込めるし、原作もストックがあるだけに、兼プロデューサーでもあるブロスナンの、ボンド役に対する落とし前の場として、どうしても期待してしまうのである。監督が手堅い職人ながら、バイオレンスに手抜きのないロジャー・ドナルドソンなことも、「ダンテズ・ピーク」以来の再タッグという点と合わせ二重の意味で嬉しく、個人的にはニヤニヤしっぱなしであった。


 一観客として「サボタージュ」へ。シュワルツェネッガーの単独復帰作「ラストスタンド」は、シュワという、ヒーローとしてのスタンスもキャリアも過去の人としての素材を開き直り徹底追求したことで生まれた快作だった。今回はデヴィッド・エアーにより、ストリート感覚と時事性をトッピングしたサスペンス寄りのシュワという新しい顔を見せようとしている。だから清濁合わせ飲む複雑っぽいキャラゆえ、刺青も入りまくりでブルネットの七三、デスクワークもこなす、コメディ挑戦時程度には斬新な境地に挑戦。エアー的にはシュワを主役に迎えた気負いと、もはや組み合わせのバリエーションによるルーチンと化しつつある自らのストーリーテリングへの背伸びが感じられる。それだけにあくまで主眼は麻薬捜査チームが押収し着服したはずの金の行方と、それを独り占めしようとチームを一人一人消していく犯人への謎解きなのだ。そして実情はともかく、演出上の意図としてはスリラーとの見せかけは、それがぎこちないながらも後半まで、独自の殺伐とした世界観と疑心暗鬼により、緊張感は維持されている。ただ結局、汚職警官に見せかけたシュワの意図は別にあると分かり、終盤「ラスト〜」同様、国境へ話はスライド、時事性を交えた復讐劇では先行した、「コラテラル・ダメージ」のような様相を呈するのである。その取って付け感はシュワ映画としての必然性からの付与にも見え、事実そのように機能してシュワ映画としての体裁を保っているのだが、アメリカ製西部劇の末期の到来と共に、居場所をなくしたアウトロー達が、既に予算とショックバリューからマカロニによって先行して取り上げられていたはずの舞台、動乱のメキシコへ本家ごと追いやられていったのに近い流れを感じた。


 一観客として「天才スピヴェット」へ。「ミックマック」は不条理な反戦厭戦物語だったため、フランスに愛想を尽かしたようにも見え、にもかかわらずジャン=ピエール・ジュネはあらゆる戦争を世界に広げるアメリカに向かった。しかも本作は、アメリカという異郷を創作物から接する異邦人には、この国最大の特徴である“暴力”の聖地、「血の収穫(赤い収穫)」の舞台・モンタナ州ビュートを起点としたロードムービーである。さらに、どうやら児童文学を映画化したらしい本作は、原作由来と思しき遊びと、監督の原作に寄せるイメージが立体絵本、列車での旅、旅のスケッチ公開など、3Dという上映方式特有の見せ場と有機的に絡み、3Dの必然性に溢れた作品となった。特に多様なレイヤーの混在したシカゴに突入するくだりは「ロード・トゥ・パーディション」での暴力の都である同地に親子が到着した際の威圧感を髣髴とし、かつ上回る迫力である。そしてひとり「スタンド・バイ・ミー」を演じる少年は半永久機関を発明した天才でありながら、外のアメリカに無知な子供で、その天才性ゆえ家族に限らず周囲の大人や子供から持て余され、なおかつ双子の弟を死なせたと思い込み、罪の意識に苛まれている。また父親やその分身である(持て余す自分のオルターエゴでもある)双子の弟は、「預言者」で時折現れる殺した男の幽霊のように少年に付きまとい、その対話からより少年の孤独も浮き彫りになる。その孤独感はそのまま、ジュネのアメリカにおける異邦人としての孤独に重なり、単なる子供向け映画に終わらない。その上カウボーイである彼らが象徴する、外国人がアメリカに抱くウェスタン的な憧れも併せた表明も垣間見え、その屈折がいかにもジュネ的。もちろん、最後に母の貫禄を見せるヘレナ・ボナム=カーターに限らず、お約束のドミニク・ピノンといったキャストのクセも紛れもなくジュネ的であり、ここでも意欲作ながら妙な安心を与えられ心地よく鑑賞できたのである。007/ゴールデンアイ(TV放送吹替初収録特別版) [DVD]007/トゥモロー・ネバー・ダイ(TV放送吹替初収録特別版) [DVD]007/ワールド・イズ・ノット・イナフ(TV放送吹替初収録特別版) [DVD]007/ダイ・アナザー・デイ(TV放送吹替初収録特別版) [DVD]007/慰めの報酬(TV放送吹替キャスト・新録版) [DVD]テイラー・オブ・パナマ [DVD]ロシア・ハウス [DVD]ダンテズ・ピーク デラックス・エディション [DVD]SABOTAGE [DVD][Import]ラストスタンド [DVD]キンダガートン・コップ [DVD]ツインズ [DVD]ジュニア [DVD]ジングル・オール・ザ・ウェイ [DVD]コラテラル・ダメージ 特別版 [DVD]ミックマック [DVD]デリカテッセン [DVD]ロスト・チルドレン [DVD]エイリアン4 [DVD]アメリ [Blu-ray]ロング・エンゲージメント [DVD]血の収穫 (創元推理文庫 130-1)赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 143‐2))ロード・トゥ・パーディション<特別編> [DVD]スタンド・バイ・ミー コレクターズ・エディション [DVD]預言者 [DVD]