映画内「力による現状変更」のすすめ。

 ポイント・セットさんのご招待で「マッハ!無限大」試写へ。でも「マッハ!!!!!!!!」シリーズの続編ではなく、厳密には「トム・ヤム・クン2」なのであった。しかし細かい説明こそないが前作酷い目に遭った象の子供がまた誘拐されるというコメディのような導入ながら、今回は前作のようにオーストラリアまで行かない分話も早く、続編であることを常に念頭に置いて見る必要はない親切な作り。なぜ本来スケールが大きくなるはずの続編がタイ国内で済んでしまうか?も、前作から開きがある分向上した各種CG合成で、単品でもケレン味あるトニー・ジャーのアクションに対してスケールアップに成功してるからだ。さらに日本の子役崩れの自称美人女優にしか見えない(「チョコレート・ファイター」こと)ジージャー・ヤーニンを決してゲスト扱いせず前面に出しトニーをサポートさせる贅沢な使い方で、このスター共演設定自体が往年のジャッキーとサモハンとユン・ピョウ揃い踏みのような多幸感を与えてくれる。その辺は作り手も意識してるようで、身体障害ネタなどのベタなギャグにいい意味でご都合主義の展開、トドメのNG集まで安心して見られる往年の香港テイスト。またキャスティングの時点ではRZAの起用自体が彼の演じる悪役により、前作や彼の撮った「アイアン・フィスト」にもあった殺伐を表現するのに貢献するかと思えば、やはり香港映画に出る素性の分からない欧米人を意識した怪しく脇の甘いキャラを披露しており、自身の作品とはまた違う方向性から香港映画愛を表明しているように受け止められた。また、前作のように異種格闘技戦を前面に出すあまり、アクションが間延びして活劇のバランスが損なわれることもなく、さらには敢えてリアルファイト系バイオレンスアクションが全盛だからこそ、(なお、恐らく「ワイルド・スピード Sky Mission」や「ザ・レイド3」ではトニーが苦手っぽい他言語の関係で、台詞もなくシリアスアクションの飛び道具に使われそうなだけあって)手本としてのオールドスタイル香港映画へのオマージュに独自のエクストリームな動きを掛け合わせたタイ製アクション映画のスタンスを表明しているのだと感じた。やっぱ仏様と象(そして王様)を大事にしない奴は殺されなきゃいけないんだよ。



 一観客として「フューリー」へ。監督がデヴィッド・エアーなので、閉鎖空間での出世脚本作、「U-571」+脚本担当で上官がストリートで部下を鍛える「トレーニング・デイ」+パトカーや自撮りの閉鎖空間ストリートバディものの監督作「エンド・オブ・ウォッチ」+αが本作であると言い切って差し支えない。ゆえに紛れもないエアー作品。潜水艦モノの戦闘の面倒さは映画化作品が多くて定評あるけど、戦車同士の戦闘は閉鎖性は類似してはいても人員の少なさからより大変なのは分かり、徹底して戦車の視点を貫いた割に機密上の配慮からコンソールを見せなかった「レバノン」と違い、むしろ「サハラ戦車隊」同様、各役割を努めるクルーの連携と内部の位置関係の相関、そのディテールが非常によく掴めたのが個人的に最大の収穫だ。ただし、話題の本物ティーガーとの戦いが呆気なく、物語自体も簡単に戦車を離れる展開は意外でもあったが、観客へ敵味方を判別させる配慮か、夜間トレイサーを使用した銃撃戦の応酬がSF映画のようで、またそう見えるほど非現実的な画であり、案外現実の戦闘は客観的にはああかも知れないと妙なリアリティと皮肉を感じた。また、擬制家族の末っ子が父親から通過儀礼と犠牲的な魂の継承を受ける点では、物語構造の非常に似た「プライベート・ライアン」を超えたい意気込みと志は買うが、凄惨さにおいてそこまで至ってない。反語的に戦争映画を反戦厭戦映画へ高めるのは、ひとえにレイティング度外視の臨場感と凄惨さ追求しかないだけに、監督も意識しながら至れなかったのは、潜水艦より狭い戦車のクルー故に、濃い人間関係を描けても、スペクタクルとして減衰せざるを得ない、登場人物の少なさがあると見ている。微妙なさじ加減ではあるが、考証とは別の点で戦争映画の難しさが分かる。今後はまたこうしたバリエーション仕事に落ち着くか、「サボタージュ」系の新境地に挑むか、やはりどちらを選ぶにしても俺は見てしまうだろう。



 一観客として「マップ・トゥ・ザ・スターズ」へ。前作にてようやく新世紀にけじめをつけたクローネンバーグは、その前に撮った「危険なメソッド」同様、モチーフとして異常性の原点に帰りたかったのかもしれない。近いテリトリーにありながら未着手だったインセストタブーを、それに最も相応しく聖別された関係として描けるバビロン(ハリウッド)を舞台に選んだ。それもまた、果敢にコメディとして挑んでいるところも画期的で、実名の頻出にからフィクション性を煙に巻くという意味ではウエルベック的でもある。だが露悪的セレブリティ群像は、原作はなくても狂言回しであるリムジン運転手に仮託された書き手の意識の底には、「インフォーマーズ」的なアンサンブルへの構想があったのではないか?という気がした。加えてダメ押しにキャリー・フィッシャーを出すことで「ハリウッドにくちづけ」的メタフィクションとしての側面を強化し、虚実の境界を曖昧に、ハッキリ言ってしまえば笑いに転化できている。フィッシャー自身をもネタ元に取り込んだジュリアン・ムーアは言うまでもなく、「天才スピヴェット」で丁寧に扱われたニーアム・ウィルソンへの扱いの乱暴さも気違い監督ごとの差が出てて面白い。そう、今回はクローネンバーグ作品に珍しく、ハリウッドが舞台なだけに、”女優への扱い”という面でも作品化しているように見えるのだ。ティム・バートンに見い出され、現在ウィノナ以上の本格ゴス女優として成長を続けるミア・ワシコウスカに対する極めて美味しい役回りの提供もその一つで「クラッシュ」のロザンナ・アークェットばりのカタワ振りが実にエロい。また、女優に執着は見せない監督にあり、三作連続出演と遂にヴィゴ・モーテンセンと張ったサラ・ガドンへの執着は異例で、クローネンバーグ不在のクローネンバーグ映画として機能した、「複製された男」や、息子がその意匠を剽窃することで父親の作風まで転移させた「アンチヴァイラル」のように、無論女優としてもポテンシャルありきの起用は間違いないが、なんかジジイ監督の老いらくの恋みたいなものも同時に想像させ、作品に笑いへのバイアスがより強められたのも事実。しかし、「ゴーン・ガール」ではチンポ見えてたのに、映倫への嫌味のようにチンポをいじる場面とペニスバンド着用3Pが見えない露骨なボカシが物語より不快だった。こればかりは監督の意図しない部分でギャグが殺され、修整も冗談とは受け止められず笑えない。なお、CGで炎を表現するのにはまだ技術的な限界を感じたりなどもしたものの、スペースオペラをコケにした(「トータル・リコール」の自嘲?)「ブルー・マトリックス」といったベタなものや、一見アンハッピーエンドに見える結末さえ、「戦慄の絆」のストレートなセルフパロディだと受け止められるし、監督史上最もポップな作品であるのだけは間違いない。[rakuten:asiandrops:10007399:image:small]マッハ ! プレミアム・エディション [DVD]マッハ!弐 [DVD]マッハ!参 [DVD]トム・ヤム・クン! プレミアム・エディション [DVD]チョコレート・ファイター [DVD]アイアン・フィスト [DVD]ワイルド・スピード コンプリート・ムービー・コレクション [DVD]ザ・レイド [DVD]ザ・レイド GOKUDO アンレイテッド [DVD]FURY / フューリー [Blu-ray]U-571 [DVD]トレーニング デイ 特別版 [DVD]エンド・オブ・ウォッチ DVDレバノン [DVD]サハラ戦車隊 [DVD]プライベート・ライアン [DVD]サボタージュ [DVD]コズモポリス [DVD]危険なメソッド [DVD]ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]イースタン・プロミス [DVD]インフォーマーズ セックスと偽りの日々 [DVD]インフォーマーズハリウッドにくちづけ(字幕スーパー版) [VHS]L'Extravagant voyage du jeune et prodigieux T.S. Spivetクラッシュ 《ヘア解禁ニューマスター版》 [DVD]複製された男 (日本語、吹替用字幕付き) [DVD]アンチヴァイラル (字幕版)ゴーン・ガール(初回生産限定) [DVD]トータル・リコール [DVD]トータル・リコール [DVD]戦慄の絆 <デジタルリマスター版> [DVD]