スクリーンを通した窃視の記録。

 ショウゲートさんのご招待で「ゼロの未来」試写へ。来ない電話を待って自分の生活圏を狭め、意外なチャンネルから未来を感じ下心を持ち挫折していく。普遍的な有りようを敢えて未来で、敢えて修道僧のような風貌にさせたクリストフ・ヴァルツで見せようという意志は、プロデュースとしても一枚噛んでいるヴァルツの思惑以上の、SFという寓話にブチ込まれた男の悲哀を表現したいというギリアムイズムが勝っているように見えて、予算的に前作とさほど変わらないかもしれないにしても、あの痛々しい継ぎ接ぎ感や、状況に合わせて変化していったことが窺えた観客側としての辛さを感じずに済んだ。つまりこれは紛れもない安産による幸福な作品なのだが、あまりに難産の伴う作品ともはや宿命すら感じる、(作家としてはごく当たり前の妥協しない)作家性に、トラブルを期待してしまっている向きも、不謹慎ながら習慣的に芽生えてしまっているので、全然現代に置き換えられる教訓が多分に含まれた狂騒とその顛末には、前作以上の飲み下し難さを維持しながら、ごくごく腑に落ちてしまうのはフォロワーならではの贅沢な物言いなんだろうと思う。つまり、裸が多い今回でも難しく感じる向きはあるだろうし、それでこそ作家性としての水準を維持してるとも言えて心地いいのだ。欧米のフォロワーには予備知識として入り込みやすいのかもしれないが、ギリアムがこだわりたいらしい中世だのファンタジーだのの要素よりも、もっと現実を単純化してぶった斬るには適していると思えるSFの方が俺は好みなので今回はありがたかった。実際テクノロジーについては相変わらず説明的要素を省き突き放してくれるので、異界に放り込まれた感覚が心地いいね。


 一観客として「ワイルド・スピード SKY MISSION」へ。正しくこれが底の浅いヤンキーのメンタリティなのだが、いちいち「家族」って表現の連発が非常にウザい。時間を共にしただけで「家族」というのは、いちいち「絆」を連発するヤンキーの自意識もない層も含め、国を超えてヤンキー的なメンタリティと分かってしまう構図をバラしているのは心地いいが、見る側の大半のヤンキーが当然そこには気づかないことを考えると辛いものがある。ヴィン・ディーゼル側に限らず、徐々にその行動原理が明かされる、今回本格参戦のジェイソン・ステイサム側もそれは一緒で、そのクランに入れれば自分の身の保障が得られるという帰属意識(孤立する恐怖への裏返し)が彼らをヒステリックな同調へ駆り立てるんだとは思うが、いつの間にか世界を股にかける犯罪者集団となっても、所詮彼らは「ハートブルー」の一本程度で描けてしまう激安犯罪者というのが実態で、無理に延命されたジャンプ漫画のような様相を呈しているだけに、今後は不安になる。「エクスペンダブルズ」のようなロートルならまだしも、「家族」を連発しても彼らはやくざの盃やマフィアの儀式を経てないから全く口で言うほどの切実さがなく、その薄い「絆」に対する説得力に対し、現実のポール・ウォーカーの死が補強として作用してしまっているのはとても皮肉だ。恐らく次回から(絡んでくるであろうルーカス・ブラックだけでは弱いので)年齢層を上げ、「エクスペンダブルズ」的な方向性を目指すことの示唆なのか、スタローンの誘いを断ったはずのカート・ラッセルが、「エクスペンダブルズ」のブルース・ウィリスハリソン・フォード)と全く同じ役回りを演じているのは、今回愛想が尽きたように、シリーズからいち早く姿を消したガル・ガドット同様に興味深い。


 一観客として「セッション」へ。「フルメタル・ジャケット」における“ハートマン上級曹長”的な人物が登場するかと思いきや、単に鬼畜に鬼畜が作られる話だった。なぜなら、あの曹長は確立された新兵教育法として、人殺しを無感覚にさせるため罵倒してるのであって、この指導者のように萎縮させる目的ではないし、仮に彼が気分屋の鬼畜でないなら、曹長が結果的に“微笑みデブ”を追い込んだように、仲間内の足の引っ張り合いも含め取り返しのつかない地点まで話を転がすべきだった。しかし、その試みは中途で放り投げられるため、彼は単なる鬼畜に収まってしまうのだ。その上、素材としているジャズバンドについても、全てを賭け全額蕩尽するような魅力や破滅的な刺激は描かれず、要はそれがないためジャズやドラムだのの魅力(魔力)も門外漢には伝わらないまま、一言で言えば、「キングコング対ゴジラ」における劇中、“パシフィック製薬”の“パシン錠”の効きをアピールするため、CMでドラムを叩く高島忠夫のようなナンセンスな間抜けさだけ残るのである。そうした不満点を差し引いても、監督が挫折した音楽活動への私見でもあるため、観客としては事態に論の挟みようがないが、全ての創作は私小説的要素を内包しているし、さらに全ての私小説はリベンジポルノ的要素と露出症的要素が必ず同居して来るという点では、もっと不快なものを期待しただけに手ぬるくはあった。ただ、主役の少年の風貌にある(特殊メイクではない)傷跡には神経質な役柄への必然性があり、付き合い始める少女が自らの容貌を気にするような発言をする割には全く気にしてない明朗さとも好対照をなしていたのは、後に商売仇のコミックヒーローをそれぞれ演じることになる事実を踏まえて見ると意味深だ。また、「エイリアン2」における企業の回し者“バーク”が主人公のお父さんだというのも、指導者の前での無力さには不思議と説得力があり笑える。The Zero TheoremDr.パルナサスの鏡 [DVD]未来世紀ブラジル [DVD]12モンキーズ [DVD]ワイルド・スピード コンプリート・ムービー・コレクション [DVD]ハート・ブルー [DVD]エクスペンダブルズ [DVD]エクスペンダブルズ2 [DVD]エクスペンダブルズ3 ワールドミッション [DVD]WHIPLASHフルメタル・ジャケット [DVD]キングコング対ゴジラ 【60周年記念版】 [DVD]ファンタスティック・フォー[超能力ユニット] [DVD]ファンタスティック・フォー:銀河の危機 (特別編) [DVD]スーパーガール [DVD]エイリアン2(完全版) [DVD]