暴力に学ぶ世界地図。

 ブロードメディア・スタジオさんのご招待で「バトルヒート」試写へ。珍しいドルフ・ラングレン主演の劇場公開作品ながら、トニー・ジャーとの二枚看板ということで納得。しかも脇を固めるのが肉体担当にマイケル・ジェイ・ホワイト、顔力担当にロン・パールマンといった、豪華な面々で、特にケリー・ヒロユキ・タガワのほとんどカメオと言ってもいいチョイ役出演によって、敵にやくざこそ出てこないが、“ラングレンとアジア系刑事とのタッグ”という要素もあり、「リトルトウキョー殺人課」へのオマージュの趣すら感じさせる布陣である。にもかかわらず物語は妻子も身分も奪われたラングレンと、アジア全域に人身売買ネットワークを持つパールマン側組織を追う地元刑事トニーとの疑心暗鬼を交えた共闘であり、自ら恋人を潜入させるトニーの身を切る執念もあって、主役二人の崖っぷち感のバランスも均等に、単に白人目線で異郷を訪れ現地をかき回すアクションとは一線を画した作品となっている。またラングレンの安定しつつ大味なアクションと対照的に、トニーも「マッハ!無限大」のような手抜き感がなく、「ワイルド・スピード SKY MISSION」における出し惜しみと贅沢な使い捨てが解消され、なおかつ彼の独特な動きを、あえてムエタイを強調せずに現代アクションへ活用するという意味でちゃんと連携が見えるし、さらに銃器を交えた異種格闘技の風味の取り入れによって、むしろ進歩を見せてくれている。ドラマが製作も兼ねるラングレンの人身売買への問題提起となっており、健闘を続け活劇にこだわるヴァン・ダムや、どんどん手抜きが酷くなるセガール作品などとも違い、ストイックなトーンが貫かれているのは本作が特にテーマありきのせいもあるのだろう。「Skin Trade」という原題の含むところにも顕著であるように、実際、「アジョシ」などにも通じる、時事性ある現在進行形の非人間的な犯罪を描いていることから、尾を引くビターな見ごたえと共に単なるアクションに終わってないのが特徴であった。この分なら監督も交え主役二人が再度タッグするという次回作もかなり期待できる。


 ポイント・セットさんのご招待で「ベルファスト71」試写へ。もちろん素晴らしいことなのだが、今となっては泥沼化していた紛争も落ち着いてしまったため、外野には過去の話として「麦の穂をゆらす風」やニール・ジョーダンの一連の作品などからしか窺い知ることができない北アイルランド紛争。この当時の特殊な状況にフォーカスして、事情もさほど知らない新兵が暴動鎮圧に動員され、単独で取り残されてしまったことで経験する恐怖の一夜を描いたサバイバル・アクションである。セルビア支配下ボスニアに不時着した米兵のサバイバルを描いた「エネミー・ライン」にも似た状況ながら、本作の新兵は英軍兵士であり、北アイルランドにすれば完全な敵であるところが主人公をより退っ引きならない状況に追い込み、湯治の事情の深刻さを特に知らずとも、前述の諸作が娯楽としても高レベルを維持していたのと同様に、最後まで緊張感が尽きない。見ようによっては一種の人間狩り映画や、周囲の一般人がモンスターなどではない分、真に敵か味方かも見分けがつかず、新人監督の着眼点は誉め言葉としてなかなかに手強い。政治に興味がなく、唯一の肉親である幼い弟のため、経済的徴兵状態に追い込まれた主人公の生への執着も、全体に重い気候の舞台に画として華をもたらす。そんな主人公を演じるのが、見もしないネトウヨによる事実無根な謗りの結果、日本公開が萎縮/自粛による塩漬け状態へと追い込まれてしまったコーエン兄弟シナリオによる「Unbroken」でも、日本軍の捕虜として虐げられるジャック・オコンネルであり、本作はかの作品の代用品としても機能するが、本作単独でもその逆境に耐えるシチュエーションに最適な俳優としてのポテンシャルを全編に渡って満喫することができる。


 一観客として「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」へ。話を融合させるため各シリーズの登場人物がゲスト出演し、顔ぶれはかなり凄いものの、どんどん有り難みがマニア向けになり、インフレが起きている。つまり「ああいうのは一回でいい」と分かった。ウルトロン騒動ももう少し(ロボだけに「Xメン」の“センチネル”みたく)前作と趣を変えSFかと思えば、まだロキの影響下というか、これまで各シリーズに伏線で登場した“インフィニティ・ストーン”に端を発し、前作エンドロールに“サノス”が出たのもあって、展開的に逃れようないだろうが、荒唐無稽さによる寒さと間延びはアベンジャーズの宿命とも思い知らされた。かといって絵空事を暴力性や物語の重さで穴埋めもせず(若干見たくもあったロキ登場シーンはカットし辛うじてトーン一貫に努めてはいるものの)重厚になりようもない話が続き、まともに付き合って微に入り細に穿った鑑賞は疲れる向きも多いだろう。それだけでなくても上映時間が長く来場した子供たちも辛そうで、頻繁に中座していたのも気になった。ある意味、今後二部構成で描かれる「Avengers: Infinity War」を見ずとも既にMCUの終焉を見た気がするが、今後の「アントマン」、「ブラック・パンサー」、「Dr.ストレンジ」や、急遽合流が決まったスパイダーマン等、レギュラー増員での変化を期待するしかない。今回は活躍するホークアイに対し、前回の役回りはハルクに継承されることでハルクバスター登場となるが、アイアンマンのように開発過程が描かれず駆け足なのも残念。また「ダークナイト」でジョーカー役を逃し、以降「レギオン」や「プリースト」で再三アメコミ愛を体現し、辛うじて人工知能ジャーヴィス”として声の出演のみで食い込んだポール・ベタニーが満を持し顔出しで参戦するが、存在自体ネタバレかつ間抜けなのもあり宣伝側としては当該キャラ“ヴィジョン”を丸ごと伏せたくなるのも分かった。なお、隠されない方の新キャラ、“クイックシルバー”の扱いは「Xメン」に一本化するためか、MCUにおける今後のスパイダーマンへの扱いに対しても示唆的である。ともあれ、エンドロールを見る限りヒーローとして最も丁重に扱われているのがブルース・リーであると明示され、そこだけ少し溜飲が下がった。