ピアスの穴から滲む膿、いや記憶。

 スターダストピクチャーズさんにご招待いただき、「余命」試写へ。現在ソフト化もされている、「BLANKEY JET CITY」往時のライブ作品、「Are You Happy ?」の8曲目、「15才」(曲自体の収録アルバムは「SKUNK」)間奏部分に、観客の一人として、俺の顔面どアップが一瞬抜かれていることから今も確認できるが、このライブが収録された1995年当時、俺は顔を含めた全身約20箇所に、まだそれほどポピュラーではなかったボディピアスを装着していた。
 今ではそれだけのものを維持し続けるのは色々と面倒なので、大半を外しているが、穴は意外と残っている。当時は洋書を参照したり、まだ少なかったボディピアス専門店にいる店員の助言や、自身の人体実験で、試行錯誤しつつ穴を増やしたり、適した工具の導入を進めていたが、やはりそれだけ開けるには自分自身の力ではどうしても不可能な(物理的に見えない)場所というのが生じてくる。そこで、店員自身の好意から助力をいただく形で、当時頻繁に顔を出していた、あるピアス屋で、どうしても開けたかった眉間にピアスを開ける手伝いを無償でしていただくことにしたのだ。
 当然そのため、ピアスを売る店の業務に空きがある時しか助力を仰げず、よって俺が段取りをつけた日時には齟齬が生じた。そこにはやはり俺と同様に、自力では開けられる箇所ながらも、店員の助力を仰いで、乳首にピアスを空けている女の客がいるということで、店に到着するや否や締め出しを食ったのだ。
 俺も業務外のお願いをしている以上、その旨を快諾し、先客の作業が終わるのを店外で待った。やがて俺自身の作業を始めるため、店内へと声をかけられたが、先客の出る気配はない。そのまま作業を進めるべく店内に入ると、既に服を着たその先客がおり、作業中に俺の事を店員から聞き、眉間にピアスを開ける作業自体に興味を持ったということで、俺と店員の共同作業を見学したいという話であった。
 俺は快諾し、先客にその一部始終を見守られることとなった。作業自体よりも、その女の先客が、当時よくメディアで露出している人物だったために、別の意味で非常に緊張した。
 もちろん、俺の眉間の作業自体は滞りなく済み、見物していた先客も、その後の手入れさえ怠らなければ、乳首の穴は定着しているだろう。
 要するに、そうしたエピソードを即座に思い出す作品である。しかも乳ガンとして、装着した部位付近を患う、いわゆる“難病もの”だ。だから、その辺の直接的な描写はどうなるのか危惧したが、巧妙に避けられていて安堵した。
 しかし、何らかの瑕疵、あるいは身体の一部が欠損している“美女”に対して異常な興奮を覚える自分としては、日本映画でのそうした感性の追求も、方向性としては進めていくべきと考えるので、避けられてしまったのは逆に残念とも言える。
 また、「バッテリー」での美少年ぶりに少なからず驚いた俺は、続く「ちーちゃんは悠久の向こう」でも、主役の仲里依紗と同じくらい、その共演、林遣都が気になっていたので、彼が出演しているという点にも注目していた。
 美少女と違って美少年は、その年頃ゆえ、かなり危ういホルモンバランスの上に成り立っている美であり、“美少女”が“女”の美へとスライドできる確率よりも、その成長においてはるかに低い。放っておけば、毛深くて汚い雄に成り下がるのである。それだけに純粋な美的観点においては、実は美少年のほうが美の賞味期限は短く、ゆえに貴重で、手厚く保護すべき存在である。
 そして別にゲイではない俺が、今もなおチンコの勃つ美少年であると身をもって確認したことを、ここに報告しておく。本作の時点での彼はまだイケる。


 一観客として「ヤング@ハート」へ。年寄りにロックやポップスのパフォーミングをさせるドキュメント。俺が行ったのは公開直後のみやってた夜。内容だけに出演するような年寄りにも訴えたいからか、以降はずっと朝上映だ。でも出演者みたいな層が来ると思えないが、やるだけマシ。作品で年寄りが歌わされてる(でも本人たちもやり甲斐のある難関として挑んでいる)ナンバーは老人の熱唱で原曲の味がギャグに転ずるものもあれば、本来軽いのが洒落にならない重さや哲学性を持つものがあり、彼らはやらされているだけにも関わらず奇妙な感動があるのは、主催側の周到な選曲の計算もある。しかし、それは容易には抗し切れない程強烈だ。同じく様々な厳しい人生を送る人間を、歌を通し解放を試みた、「歌え!フィッシャーマン」を思い出した。だが、あちらはコーラスでもこっちはロックだ。曲の難易度だけでなく参加老人はツアー目前にバタバタ力尽きる。その過程が彼らの前半生に関係なく、全員が否応なく“詩”を浮上させる。やはり、計算抜きで人生は一本の線になる。それはどんなダメ人生でも唯一無二だから、価値抜きで独自性は絶大なんだ。本人にしか通用しない規範にせよ、それで生き残っている以上、そこでは皆賢者だ。ただし、人は絶対に死ぬ。それまで何をなすべきかを、痛切に考えさせられた。


 一観客として「ブラインドネス」へ。人類盲目といえば、昔ジャガーバックスから知ったトリフィドを思い出すが、怪物抜きで(本作は眩し過ぎて)見えない病の中で、見える主人公の視点から物語は紡がれる。ただ原作「白の闇」は一応純文学なので、位置づけはゴールディングの「蝿の王」や、カミュの「ペスト」に近い。最近の純文学映画というと「ノーカントリー」があるが、実はこの原作も文と会話が地続きで要約しにくく、ために原作に忠実だ。それは見られる意識の衰弱に伴う、性と暴力の暴発、即ち「インビジブル」と同じテーマで、なお大規模だ。恐慌下の無制限の性欲という人間の本性は、既に西村寿行が「滅び〜」シリーズや「蒼茫の大地、滅ぶ」で描き切っているが、こちらも寓意性の高い盲目という設定で、糞尿の溢れた独自の荒廃を描き出している。特に恐慌下ゆえに悪意全開になる元々の盲人が、「バイオレンスジャック・野獣王編」における“キバラ”や、「漂流教室」の“関谷”を想起させ圧巻だ。また、「アイ・アム・レジェンド」の“地球最後の女”が、世界観の補強だけでなく、日陰者意識から解放される淫売を演じ、登場人物の無名性も含め象徴的な対を成す。しかし、現実に恐慌を希求している俺は、「感染列島」にも一応行かにゃと痛感し、「ザ・ロード」や、本作の続編も映画化には期待せざるを得ない。


 ファントム・フィルムさんにご招待いただき、「ブロークン・イングリッシュ」試写へ。ジョン・カサヴェテスの娘の監督デビュー作。だから当然、兄のニック作品同様、ジーナ・ローランズが出るが、親子の誼以外に、彼女の魅力が否応なしに作品に深みをもたらすから、そこに食いつくのは俺だけではないだろう。「グロリア」は究極のヒロインだしな。表面的には穏やかな物語で、仕事は成功してる30後半女の、雌の焦燥がリアルに描かれ、やや身につまされる。似た位置づけで、かつ縁深い監督にソフィア・コッポラがいるが、描かれる人間観察の深さの差や、テーマを包む衣がビターな分、こちらにより好感は持てる。しかし主役にパーカー・ポージーの自然でも美しい力を使い、フレンチ要素にメルヴィル・プポーを起用するなど、計算は行き届いており、特に彼の無邪気さなど、男の視点でも単純に愛らしいぞ。今後は、兄貴が父に倣いSFや暴力映画のギャラで資金調達を試み、「処刑ライダー」、「デルタ・フォース3」、「フェイス/オフ」、「ノイズ(作品自体が親父の『ローズマリーの赤ちゃん』へのリスペクトで出演は当然だが)」と輝かしい仕事をしつつ、最近も「アルファ・ドッグ」で気を吐いた如く、監督本人も役者として、ジャンルを問わぬ出演で観客を楽しませ、監督として次作の深化に挑んで欲しい。Are You Happy? [DVD]SKUNK(SHM-CD)バッテリー [DVD]ちーちゃんは悠久の向こう〈特別版〉 [DVD]ヤング@ハート−オリジナル・サウンドトラック(ライヴCD付2枚組)歌え!フィッシャーマン [DVD]ASIN:B001LF3QJK白の闇 新装版蠅の王 (新潮文庫)ペスト (新潮文庫)ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)インビジブル [DVD]滅びの笛 (上) (SEBUNコミックス)滅びの笛 (下) (SEBUNコミックス)滅びの宴 (徳間文庫)蒼茫の大地、滅ぶ (上) (角川文庫 (5737))蒼茫の大地、滅ぶ (下) (角川文庫 (5738))バイオレンスジャック 1 (KCデラックス)バイオレンスジャック 地獄街編 [DVD]漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)アイ・アム・レジェンド 特別版(2枚組) [DVD]ASIN:B001LF3QMMザ・ロード処刑ライダー [DVD]グロリア [DVD]デルタフォース3 [VHS]フェイス/オフ 特別版 [DVD]ノイズ [DVD]ローズマリーの赤ちゃん [DVD]アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン [DVD]