人の世の普遍が見えたり隠れたり。

　プレシディオさんのご招待により「パーフェクト・センス」試写へ。ユアン・マクレガーといえばチンコ出しというのはもう芸風なんだけど、俺が常々提唱している「チンコ（の見える）映画」の牽引者としてだけでなく、パニックを中和する稀有なナイーヴさも感じさせられた作品。まぁ奇病、パンデミックに基づく恐慌を描いている映画にも拘らず、それが個人的な恋愛の関係性に収束していく展開を狙っているというのは、監督の意図した新機軸でもあるが、上手いこと世界観にはまり込んでいる。同様にハリウッド大作やかつての邦画のパニック路線なんかでは必ず付きまとう人間の醜悪さだけでなく、人間は与えられた境涯を楽しもうとするはず、という見なしがヨーロッパ的。ゆえに作品で描かれる五感の段階的な喪失以前に、日本人には決してできない、互いの属性に囚われない純粋な恋愛の成立が描かれるし、結局のところ、「世界がどうなろうと、この世には愛し合う二人が一緒にいられさえすればいいんだ！」というメッセージが明確だ。視覚が喪失する段階に至って、世界は不可逆性の「ブラインドネス」状態となるはずなのだが、触覚は残っているし、互いに触り合えていることを存分に楽しめばいい、というわけで、混乱は「28日後…」並みだが、聴覚も喪失された世界では、それは極めて静謐なものだ。逆に言えば、この恐慌の中にも必ずいるはずの、孤独な人間は真逆の地獄を味わっているだろうことが想像できるだけに、結局平和であろうと、愛情の紐帯がなければ人間はどこまでも醜くなれることも示唆している。

　一観客として「インモータルズ-神々の戦い-」へ。ターセムが毎回石岡瑛子に頼るのは、たけしがかつて久石譲に頼っていたような、あざとさを感じるんだよ。だが前作ほど彼女の担当するビジュアルは作品から突出して感じられず、これは監督の手腕がビジュアルに追いついたと言えるんだろうが、それが活劇として成功しているということにはならないのだ。「300」と製作が同じということを売りに、ターセムの新作という点は影を潜めているが、暴力性は「300」より相当に低いし、これはギリシャ神話をベースにしたファンタジーであって、史劇ではなくコミック原作でもない。あまり神々の存在についても必然性はなく、「タイタンの戦い」に比べると驚くほど立ちの弱いゼウスや、ポセイドン圧巻のTSUNAMI描写を筆頭に、要所要所で人間どもを余計に引っ掻き回すだけ。「300」だって王妃ゴルゴの清廉な暴力性が緩急を与えていたからこそ、男たちが際立ったので、戦わない無意味なアテナにも絶句。ならば女たちは「バイオレンスジャック」に登場する女どものように徹底的に蹂躙されるのかというとそうでもなく、特に巫女たちは仕打ちとして獣姦されるのを期待したが、そっちにも針が振れないウェルメイドさ。「〜ジャック」を引き合いに出したのは、スラムキングばりの暴君ハイペリオンも悪逆を尽くす理由を持つことで、単に敵として終わらせるには惜しい深みがあったからだが、結局は主人公テセウス演じる役者がザック・スナイダー版スーパーマン、「Man of Steel」にてクラーク・ケントを演じるため、顔見世興行の色合いが強いのだった。　　

　一観客として「孔子の教え」へ。俺がバカだからなのか、「論語」のエピソードはそれほど込められては感じられないが、孔子その人の生き様をして、苦労していた人だったというのが、チョウ・ユンファの存在感で充分伝わる話。香港に旅をした時このDVDが高かったので買わなかったが、買わなくて良かったという程度。別に映画に女っ気を求めているわけじゃないが、その数少ない担当がジョウ・シュンという、全然絶世の美女には見えない平面的な女（二次元？）というのがかなり問題ではある。しかも物語に無理にねじ込んだ女の登場人物がその程度なのだ。女性監督による無意識な娯楽性への視点（グリフィスの言う「女と銃」に倣うならば）の薄さが、女優陣の薄さを招き、それが結果として孔子の生き様のストイックさを描くことにもつながった、とも言える。しかし片や「銃」の方は孔子やその弟子ともども、軍師として抜群の才気を発しているために、戦乱シーンにおいて、極めて高い暴力性が堪能できるのだ。ゆえに作品のバランスとしては片手落ちにも感じるが、片手の落ちた子供（最古の「片腕ドラゴン」！）を匿った孔子に免じて、不問としておくべきだろう。