鑑賞を通して己を振り返る過程。

　アルシネテランさんのご招待で「超能力者」試写へ。主人公が超絶的なハンサムガイなのに、画期的に社会のヒエラルキーにおいての上昇志向が欠落しているという点では、明らかにチョン・ウソンの「トンケの青い空」の系譜に連なる作品だと言える本作だが、タイトル通り、その敵として登場する超能力者にそのバカさ加減の突破力（根性）で戦いを挑むというのが作品としてのキモ。しかし、特に遺恨らしい遺恨もないまま、単に主人公だけが他人を思いのままに操るという、超能力者の能力の及ばない人間として対抗せざるを得なくなるという行き当たりばったりな感覚がアイドル映画っぽくて気楽に観られる。とはいっても韓国映画特有の暴力描写や不具の人間への容赦のなさは散見され、韓国映画を見たという満足感は高いところがポイント。

　一観客として「哀しき獣」へ。女が原因であるのと、コントラストが効いている点は間違いなくノワールだが、ここに描かれているのはどうしようもない貧困以外の部分では悪ではない。その貧困と男女の疑念がミョン社長というブローカーの斡旋する殺人へと発展し、その魁偉なキャラが炸裂することになる。だが、なぜこのキャラに我々が威圧されるかと言えば、その属性が悪だからではなく、純粋に“生きる”ことへの執着のみで躊躇いなく前進する姿に、人間がそれなりに持つように見える美学を全く見出せないからだろう。とはいえ、まさかりや包丁といった日常の品々を使って展開される痛烈な暴力描写の数々の底には、映画史上における現時点での最悪のキャラクターといっても差し支えないミョン社長のベースに、土方ファッションで独特すぎる食い物で腹を満たし、その残骸（骨）を鈍器として駆使する姿のオリジンに、日本人なら「血と骨」を容易に見て取れる。さらには彼が表面上の生業として、関根元と同じく犬商人を営んでいるという点も見逃してはならない。そうした様々な実話に依拠した下地に、「ダークナイト」におけるジョーカーのビル爆破（を背景にした逃亡）やトレーラー転倒といったダイナミズム、果ては観客の善悪そのものを麻痺させる問いかけ、などの引用を交えつつ作られた、本年最高レベルの作品であることは間違いがない。その最大のエッセンスはこの極めて救いのない物語のラストに集約される、作り手の希望に集約されているからだ。ただし、これはあくまでも日本側の上映における姿勢だが、斧を叩き込まれた犠牲者の顔面にボカシを入れるのは、「キャプティビティ」以来、映画に対して類似の姑息な不快感を味わった。ちゃんと全て見せろ。

　一観客として「宇宙人ポール」へ。エドガー・ライトの不在が画竜点睛を欠くが、満を持してのサイモン・ペッグとニック・フロストのコンビ第三弾であるのは周知の通り。だけど、もうそれ以前にヒロインが“片目”というだけで、俺にとっては充分に偏愛に値する映画なのだ。しかし、分かりやすいアメリカ人としての宇宙人ポールのキャラの掘り下げの密度に対して、ヒロインやその父親を含む、宇宙人の存在を否定するキリスト教原理主義者、または「イージー・ライダー」でビリーを射殺したような田舎のホワイトトラッシュは、単なる敵対者としての位置づけの域を出ておらず、具体的なメンタリティの掘り下げが足りないのが非常にもったいない。敵だけでなく小技の効いたキャスティングも、その用途は読めても最高なだけに、そのアメリカの闇の浅さが作品を毒が少なめのコメディに貶めてしまっているのだった。

　一観客として「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバンTHE MOVIE」へ。大葉健二氏に感謝して、その恩返しをするために鑑賞。小さなお友達を随行したお友達は6組ほどいたようだが、単独で来場している大きなお友達は俺一人のみだった…。終了してしまったメタルヒーローはハードでシリアスだったので別格として、戦隊ものは幼稚である上、既に観なくなって久しい。しかも男性は大葉氏、春田純一氏、女性は大川めぐみさん、萩原佐代子さんを頂点として、ヒーロー・ヒロインは極められたと納得しての卒業でもあった。その間にシリーズはといえば、演者のルックスに重点を置き、アクションを省くために、レッドは過去全レッドの能力を変身アイテムにより獲得できるようになっているという点が、さらに幼稚さを加速させていたのだった。従って、戦隊の話は除去した上での総評になるのは免れないが、実質大葉健二主演と断言できるほどの完成度。サイバリアンが出ないのは惜しいが、ドルギランのCG描写と変形には興奮。さらに畳み掛けるバトルケニヤ、デンジブルー、ギャバンの揃い踏みで三者の力関係が放映順に序列がついていると判明し、ひたすら微笑ましく、蒸着ならびに戦闘シーンに串田アキラ氏の主題歌が被さる時には、気づけば視界が潤んでいたのだった。