デート×暗殺=タクシードライバー。

 ここんところ、月の前半に金を使いすぎたので休日は自粛し、ひたすら「歩き」に走っていた。俺は江戸時代にロマンを感じてるので、その時代の人間のメンタリティに近づきたい。そして、運動にもなり、雑多な街のネタを拾うことも出来るからな、ずっと続けてるんだ。自転車もいいが、運動の実感はなかなか得られないし、速すぎてじっくり観察するヒマがないからね。さらにいい季節にもなってきたぜ、気候的なものはもちろん、孤独で暇な人間の、変質者の部分が頭をもたげてくる。と言っても別に何をするわけでもないが、裏切ることも裏切られることもないひたむきな一つの愛があれば、こんなものは意識することもなかったのだが、これものうのうと生きている奴には決して分からぬ自己の暗黒への洞察。決して無駄じゃないぜ。
 先々週は竹芝まで往復4時間ほどかけて歩いてきたよ。泣きたくて、泣けるほどの感情がまだ自分に残っているのか確かめたくて、海を見に行ったんだが、泣けなかった。もうそんな感情も残ってはいないほどの精神の荒廃を実感するぜ。俺は歩く廃墟だ。肉体を持った幽霊だ。少年探偵団の「青銅の魔人」に似ているかも知れない。分かり難い様なら、「アルゴ探検隊の大冒険」のタロスみたいな。要するに中身は空っぽと言うことだ。この皮一枚ひん剥けば、実体のない精神が吹き出し、俺は空気の抜けた風船のように、ペシャンコになってしまうことだろうよ。
 先週は祖師ヶ谷の円谷プロ近辺〜成城まで往復4時間ほどかけて散策。途中で入ったホームセンターのペット売り場で、すし詰めになって悲惨な売られ方をしていた、名古屋コーチンが意外にも可愛かったね。成鳥でピヨピヨ鳴くんだぜ!?他は俺のライフワーク、ガチャガチャ文化への取材が、ワームマンみたいなベトベトのゴム製の「葉っぱ付きイモムシ」と、クシャっと潰せるスポンジ製の「ソフトクリームキーホルダー」と収穫はあったのが良かったと言えば良かったし、そういったものがまた一つ、空虚なブラックホールに吸い込まれてまた消えた・・・。みたいな感じ。

 で、ようやっと昨日念願の、「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」行って来たよ。デート、って言って良いのか分からないけど、そこそこ美しい女性と。映画はもう完璧。ショーン・ペンがダメ男をやるんだから安心できるだろ。まぁ内容的に衝撃を受ける部分は特になかったが、熟練の芸を見に行くようなもんだ。物語は事前に収集していた情報と、実際の事件で、もうネタバレになっているしな。焦燥、その一言で集約される物語だし、まじめな人間ほど痛い目を見るこの歪んだ世界を端的によく見せてくれている。時間軸が前後するなどの脚本上のひねりはあるが、「タクシードライバー」好きな奴なら話は似ているから必見だ。でもトラヴィスみたいに主人公が紛れもない狂人か、って言うとそうでもなく、単に融通が効かない奴ってところが微妙だ。これも100パーセント事件を映画化したものではない、と但し書きはしてあるが、「タクドラ」は似た事件をベースにした翻案もいいところなので、こっちの方が実録映画的には再現度は上かも知れない。そんな映画に美しい女性を誘い出す俺も、女性が興味持ってくれたからいいけど、ハードコアポルノを観せに連れて行くトラヴィスと何の違いがあるんだと自問自答さ。
 そして飲みに行き、別れ、眠り、今日のデートの女性が出る夢を見た。彼女は泣いており、事情を聞きながら歩いていると、主のいない黒い馬がゆっくりこちらに向かって歩いて来た・・・。黒い馬は、夢判断では哀しみを表すという。俺にこれ以上の哀しみが降ることの暗示なのか、もう次は確実にブレーカーが落ちるぜ。

 自粛期間中にやっとキャサリン・ダン「異形の愛」読了。あらすじはぶっ飛んでおるが意外と冗漫な部分もあり、これをティム・バートンがやるというなら、どんなモノになってしまうのだろう、でも、思い入れが強すぎて安易には映画化できない、と言う本人の弁にはうなずける。加えてダグラス・E・ウィンター「撃て、そして叫べ」も読んだ。これはライトな傑作。サクサク読めるし、ブラックユーモアの度合いが低いのが難点だが、頑張って皮肉ったらしい文章に仕上げているのは、元はホラー作家のせいなのか。まだまだ本は待機している。暗黒は深めねば。そして感じない心になってしまっても、生きている限り、美しい人がいる限り、愛する努力も。青銅の魔人 (少年探偵・江戸川乱歩)タクシードライバー コレクターズ・エディション [DVD]アルゴ探検隊の大冒険 [DVD]撃て、そして叫べ (講談社文庫)