愛とアナーキーの極めて控えめな考察。

 先日また友人が結婚した。そこで思うのは、愛を誓い、周知するなら、その愛をはっきり具体的な形で見せて欲しい。それは今回結婚した友人に言っていることじゃなくて、全ての人間どもに言いたいことなんだ。もちろん俺も友人の結婚を祝福する人間の一人なのは間違いないし、祝福の気持ちで訪れる人には単に喜ばしいことかも知れないかも知れないが、そうでなけりゃ、「これから俺たちはこの二人だけでオマンコしまくります、だからテメエら手出しすんじゃねぇぞ!」宣言にしかならないとも思えるからだ。そう取られないためには、やはり愛を、はっきり見たい。俺も含め、誰しも愛を語るが、見た奴はいないのだから、出来るだけ具体的に見せる努力をして欲しい。愛?そんなものがあるなら。もちろんそんな客観でなく、主観で見たいものだが。壊れた人間が感じ始めた、幼いキミから。

 FOXさんのご招待で「Be Cool」試写。暴力(=人間の悪)の研究者としてはこういう実存的な作品を実写化してくれるのはコメディでも本当に有り難い。レナード原作ってだけでも貴重なのに、「ゲット・ショーティ」の続編が観られるだけでも幸せだ。キャストも豪華な上、エルモア・レナード原作だけあって登場人物みんな狂ってる。中でも非アクション初出演で注目していたザ・ロックの出番が予想外に多くて嬉しかったね。二代目シュワルツェネッガー襲名してんだから、これからも作品チョイスには慎重に、そして俳優道を邁進してください、ロック様。トータルでの感想(個々のシチュエーション重視のレナード原作では無意味かも知れないが)は、俺は頭を使った駆け引きなんてゴメンだが、これが商売って奴なのかも知れないな、って思わされたよ。まぁチリ・パーマーの活躍的にはこれ以上ないほどの満足。原作も早く邦訳してね。

 その後、ミラクルヴォイスさんのご招待で「スクラップ・ヘブン」試写。公開から六年経ってようやく現れた、「ファイト・クラブ」への邦画からの明確な回答。バスジャックから始まるなんて、「太陽を盗んだ男」みたいだけど、日本という土壌において、より日常的なレベルでの閉塞を打破するにはどうしたらいいかと葛藤する監督の姿が浮かんでくるような作品。
 現実が変わってないんだから当たり前だが、こうしたテーマの作品で明解な答えを導き出すのは本当に難しく、答えをキチンと提示できているなら、本作の監督も革命家か思想家になって、世の中を具体的に変える方向で動いているはずで、その思索の過程がこうして形になっている時点で、試みは挫折しているのではないかと危惧したが、それは当たってしまった。だがそれは仕方がない。監督だってもちろん非凡な才能の持ち主ゆえに表現の道を選んでいるのだろうが、ただこの思索は一介の非凡な才能ですらも果たし得ない困難なものだ、というだけの事だ。偉そうに言っている俺だっていまだに考えてるし。もちろん考えない愚かな奴も多い中で、考え、形にした監督には素直に敬意を表したい。
 その点、「ファイト・クラブ」はその物語が示した結末がその後の現実を予見しており、作品の存在を究極にではないが具体的なものにしている。だからといって「スクラップ・ヘブン」が優れていない、ということではなく、六年もの間、この作品に誰も答えようとしていなかった中でやっと作られた勇気ある返歌なんだ。その志の高さ、テーマへの果敢さは特筆に値する。エスカレーター、コピー機なんかのストレートなオマージュもあるが、俺も注目していた、“便所の落書き”に目を付けた点は、正直やられたと思ったね。
 加えて言えば、柄本明演ずる「みんなそんなこと考えてんだよ、青臭いこと言ってんじゃねぇ!」的なキャラが代弁する、監督が内包するシニスムは確かに理解できるが、照れ隠しのようで蛇足に感じた。しかし考えれば考えるほどアナーキーになって行かざるを得ないこの手の思索においては、物語の広がりをセーブするためにも必要だったかも知れない。もう一つ気になったのは、マーラに相当するであろう女性キャラの存在がほぼ無意味になっていること。それはセックスが描かれていないことが大きいと思うが、栗山千明を起用しての表現であるなら現実的な面で色々無理もあるだろう。だから、次は俺は本作の監督、李相日監督の撮るセックスを見てみたいと思うんだよ。そこに至るためにも必見なのは間違いない。誰もが真剣に考えなければいけないテーマを扱っているものとしても。ゲット・ショーティ (角川文庫)ゲット・ショーティ [DVD]ファイト・クラブ スペシャル・エディション [DVD]ファイト・クラブ (ハヤカワ文庫NV)太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]