夏の死に直面して。

 今年は夏が長くて良かった。生命が生きる喜びに躍動する季節。それを今になっても、終わっていることを認めることができず、歩いて一時間半ほどかけて、等々力渓谷まで行って散策して来た。小規模ながら、木々に覆われ、昼なお暗いその姿は、怖くなってしまうほどの本物の渓谷だった。多摩川の支流らしいが、その脇には「思案の小道」みたいな名前の小道があって、そこを歩きながら誰に言われるでもなく思案していた。
 水は流れる。木々を潤す。木々に水は必要。人に愛は必要。俺は虚ろだ。だが水はあるように人にとって必要なものならば、愛はある。確実に。愛がない、とか、愛はあるのか?とは言えない。そのことを想い改めた。ただ俺のそばに、俺の心に、愛がないだけなんだ、または見えないだけなんだ、と。引き寄せなければ。見えていないのならば、気づかなければ。それにはどうしたらいいかを、俺はもちろん知らないが。それでも、死に行く、またはもう死んでいる夏を認めないわけには行かなかったよ。

 P2さんにご招待いただき、待望の北野武最新作、「TAKESHIS'」へ。たけしの不安、恐怖、欲望が具現化された、まさにたけしの悪夢そのもの。話はいい意味で、夢の入れ子、映画の入れ子なんで(俺はこの表現をネタバレだとは全く思わない)、海外では「難解」なんて言われているみたいだが、別に日本人にとっては難解ではないよ。タレント・ビートたけしってものを、我々はよく知っているからね。確かにゾマホンとかビートきよしがいきなり出てきても、外人にはわからんだろうし。たけし本人が、「体感する映画」と言っていたのはよく分かる気がする。つまり、この映画に関しては、ネタバレなんて存在しないってこと。今回初脱ぎで京野ことみが裸になっていますが、必然性のない脱ぎ損な感じ。俺はほぼ子役みたいな頃から知っているので、なんか罪悪感みたいな居心地の悪さを感じたね。それは映画で目にする裸全般言えることなんだけど。必然性のある裸、必然性のあるリアルなセックスに出会うことは希だ。

 そして「シン・シティ」二度目。実質三度目だが。そこで強く感じたのは、ブルース・ウィリス演じるハーティガンと、デヴォン青木演じるミホ。あとベニチオ・デル・トロのジャッキー・ボーイという個々のキャラのより深い魅力、そして「名セリフの宝庫」だった事への再認識、役者陣の声の良さだ。作品としてはそれに尽きる。映画としての作りは、三人の男たちのバラバラの想いが交錯する、って意味では、シナリオ化の段階でロバート・ロドリゲスジェイムズ・エルロイ的なオマージュもしてるんだと思う。しかし、一緒に行っていただいた美しい女性が、暴力描写のどぎつさに、決して引・・・かなかったことが実は一番感動したんだな。あなたは本質を良く受け止めている。これは汚濁の中で純愛と信義に命を懸ける人間の物語だから。俺のような人間と時間を過ごしてくれて、ただただ感謝なばかり。

 さらに「エドワード・バンカー自伝」読了。ボリューム、内容共にヘビーだが、気持ちのいい作品。実話なんだから当たり前だけど、有無を言わせぬ圧倒的なリアル。しかしバンカーと言えば恥ずかしいことに、自伝読み始めてから知ったんだけど、今年の七月に亡くなっていたんだよな。自分が受けている以上の孤独と、艱難辛苦に勝った真のタフガイの大往生に、ただただ冥福を祈るばかりだ。そして彼は勝った。書くことで文字通り血路を切り開いたんだ。俺はそんな彼の人生のいきさつは知っていて、それに大いに発奮させられていたけど、こうして活字で読んでしまうと、これでより発奮せざるを得ないんだろうな・・・この独房から抜け出すためには。そうして進むことが、後戻りの聞かないものだとしても。
 加えて、自伝で度々言ってるけど、ダニー・トレホ(彼が前科者で、囚人更生プログラムの演劇学科を受けたのを機に、演技開眼したことは知っていたが)、どうもバンカーとは本当に塀の中から友人だったみたいだ。そんで自作の映画化「アニマル・ファクトリー」の現場で再会。これはいい話だよ。シン・シティ:ハード・グッドバイ (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)エドワード・バンカー自伝アニマル・ファクトリー [DVD]