柴又発、映画地獄行き。

 先日は生まれて初めて、俺は柴又に行った。別に行かなきゃならないワケじゃなかったが、東京に生まれ育ったくせに、行ったことがなかったので。なんて言うか、とにかく凝縮されているね。そして案の定、ジジイとババアばっかり。それはネガティブな意味じゃない。いつの間にか世界は若者のために世の中になっているが、そう見ているだけでは世の中は見えない、ってことだ。ジジイババアに囲まれ、寅さん記念館を見学(ここはここでまた凝縮の度合いが強い)、ジジイババアに囲まれ、矢切の渡しを渡り、ジジイババアと一言も交わさずに、両国のちゃんこ屋で熱燗を飲む、そんな経験になっていない経験。

 そして早くも一月が経ち、俺をルドヴィゴ療法で改造しに。その一発目、「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」。今はやらなくなったせいで、人口は減っていると思うが、確実に存在する、ウエスタンを信じる男たちにとって、極上の神話だ。マカロニって、一般的にはイタリア製ウエスタンだと思うが、やっぱロケ地はスペインとかに格好のものがあったはずな訳で、そういう意味では「マカロニ」で括れない男たちの各国に渡る共感がある事に気づかされた映画。
 アレックス・デ・ラ・イグレシアス作品の割には悪趣味描写もそんなにない。清潔な男の世界を見よ!単に歴史の浅い「アメリカにとっての神話」として形成されていたウエスタンが、実は「男たちにとっての神話」として進化していたこの感動的な事実。クリント・イーストウッド絡みのネタは号泣必至。男に生まれたら、誰でも死に場所は欲しいものだぜ。士は己を知る者の為に死す。ってやつさ。
 セックスできない男なんか死んでしまえ!そしてやりたくてやれない奴は女を買え!淫売の方がよっぽど優しいぞ。要するに、筋の通らないことに筋目を通すには、どうしてもダメなら暴力で解決するしかないって事だ。それで死ぬことになろうとも、その覚悟があるならやればいい。死に物狂いで主張しろ!そういう意味では痛い一本。

 「ドミノ」トム・ウェイツのゲスト出演やクリストファー・ウォーケンの不発ぶり、そしてキーラ・ナイトレイのムダ脱ぎに目をつぶっても、このカット割りと使用フィルムの切り替えは辛い。スクリーンで見ると話そっちのけで疲れてしまう。ただ、ミッキー・ロークは終わり果てた男のファンタジーを、「シン・シティ」に続いてここでも体現してくれている。完全復活だろ!もう勝新太郎を「パンツははかない」とかでしか認識できないバカと一緒に、ミッキー・ロークを「猫パンチ」呼ばわりする奴はいい加減死ぬべきだ。いいか、ミッキー・ロークったらなぁ、「ハーレーダビッドソンマルボロマン」なんだよ!

 「ステルス」最高すぎる・・・。結局、「人間が最悪」って言っている結論と、フェイバリットな「エネミー・ライン」に似た後半の展開にヤられた!あの人工知能北朝鮮に回収されてテポドンに搭載され、続編が作られるべきである!不満がないこの日の一番だ!

 「そして、一粒のひかり」一番期待していたんだけどね、確かに面白かった。コカインの運び屋の物語をコロンビアロケでやるなんて酔狂な企画が面白くないはずがない。しかし、妊娠してしまい、職も失った少女の「絶望」に対し、いかに解決を見出すかという部分に期待していただけに、単なる運び屋の手口を解説するだけの物語になってしまっているのはひたすら残念だよ。伊丹十三の映画じゃないんだからさ。もっと絶望を、女が母になった強さなんかで逃げるな。そして、もっと痛みを描いて欲しかった。世界で最も痛みが深い土地で、あんなに美しい少女を起用して映画作っているんだからよ。

 「ブコウスキー オールドパンク」これもあんまり語れないね・・・。だってブコウスキー読んでない奴は読まないとどうしようもない。読め、そして飲め!さらにゲロを吐け。人前で。そうしてからなじゃいと、この孤独、怒り、愛、切なさ、やさしさは分からないぞ。話はそれからだ。そして俺は、書く事への猛烈な焦燥に駆られている。
 補足するなら、やっぱミッキー・ローク主演の「バーフライ」、ちょっと扱っていたな。原作ブコウスキーにしてみればさんざんなのは分かるけど、精一杯汚く役作りしていたのは評価できるよ。あのニューシネマな幕切れも。俺は嫌いじゃないね。
 本当はかつてデニス・ホッパー監督、ショーン・ペン主演での企画もあったみたいだが、そっちももちろん見たくない、といえば嘘になるけど、あれは周囲のイメージのブコウスキー像を分かりやすく映像化した入門編として傑作だよ。

 そして、知人から借りていて最優先に読んだ、山根貞男著、プロデューサー俊藤浩磁インタビュー「任侠映画伝」読了。いわゆる語り口は「俺節」に終始しているので話半分、と疑いたくなる向きも多いだろうが、俊藤さんが映画界で残している功績が否応なしにその疑念を払拭するパワーがある。それは誰にも否定できない。そして、ヤクザ映画というのはやはり、人間の悪を描くのではなく、ロマンを描くものなのだと痛感した。実録路線ってのは、ヤクザ映画って言うよりはノワールなんだよな。

 寒くなると、孤独への不安がいや増してくる。その不安が、一人の女性の存在を日増しに心に抱かせるのか・・・。自分さえも疑う、ようやく認めざるを得なくなった秋だぜ。真の暗黒は、人間不信に陥る事じゃなく、自分が分からなくなることなんだ。ハーレーダビッドソン&マルボロマン [DVD]エネミー・ライン〈特別編〉 [DVD]バーフライ [VHS]任侠映画伝