復讐とその周辺の考察、その他。

 偶然再会した昔の友人の好意でアミューズ系映画館の共通タダ券もらったから、早速「親切なクムジャさん」へ。かなり楽しみにしていた、パク・チャヌク監督の「復讐者に憐れみを」「オールド・ボーイ」に続く「復讐三部作」完結編だから、期待していたんだよな。第一印象で言えば、復讐というものを、突き詰めて表現するとこうなるかも。ってことだ。  
 細部では偶意的な作りをかなり強調していて、その辺分かりやすく努め過ぎている気もする。さらにはそのせいか、前二作で光っていた怒濤の暴力&残酷描写も若干ライトな気がしたけど。だからと言って駄作というわけではなく、そういう感情を抱いて、一度でも魂を汚してしまった人間にとって、やはり復讐は遂げなければならないものなんだ、っていう、三部作に込められた強いメッセージは痛感した。それにしては今回は、復讐される側の人間像はあまり掘り下げてはいないんだけど、それは欲張り過ぎか。
 イ・ヨンエは俺の好みではないが、ひたすら美しい。究極に落ち切った主人公を描くなら、セックスをもっと正面から描くべきだったんじゃないか?とも思ったね。だけど、結果、復讐なんて果たしたとしても何も残らないんだけど、それでもやらずにはいられない人間の割切れなさが悲しいぜ。加えて、確かにタイトル通りに、最後の最後まで親切でしかなかったクムジャさんに、あんた自身の復讐心は満たされたのか?とも聞きたくなった。ま、自分で手を下すばかりじゃないのが復讐の妙味だし、そういう意味では、当事者にとっては極上のグルメになっているには違いないのだが。
 そしてその味は、こんな復讐をテーマにした映画で溜飲を下げるのではなく、本当は俺も味わわなければならない味であることを知っている。復讐は、果たされなければならない。果たしたいが果たすことは止められている上、俺自身もその気はない。だがそれ故に、いつまでも借りの人生を生きなければならないんだよ、こんな風に。

 J・G・バラード著「クラッシュ」読了。長らく原作を古本屋で探していて、ようやく見つかったための読書。自動車事故による衝突愛好症の為のポルノ小説、という着眼点は最高なんだが、物語がその周辺をウロウロしていて、本当にこの手の性的嗜好があれば興奮するであろう言葉に埋め尽くされていて、もっと強烈で革新的なビジョンを期待していたんで、少しがっかりはした。クローネンバーグはその辺誠実に映像化している。それでもこの作品が約三十年前に書かれ、パラニュークの「ファイト・クラブ」、その数ある元ネタのひとつ(と俺は睨んでいる)である点は評価しなければならないだろう。本当は革命に匹敵するのに、まだ誰もが平等に享受できているとはいえないもの、(その点では本作の自動車テクノロジーにはまだ及ばないと言えるが、)即ち“インターネットの出現”という大事件を通過した現在では、これを超えるハイパーな物語が語り直されなければならない。それを誰がやらなければならないのか?うん、本当は分かっているんだけどね・・・。
復讐者に憐れみを デラックス版 [DVD]オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]クラッシュ [DVD]ファイト・クラブ (ハヤカワ文庫NV)