クソ体調へのクソ映画リベンジなど。

 ワーナー・ブラザーズさんにご招待いただいた試写、チェン・カイコー監督の新作、「プロミス」は武侠モノと思っていたが、結果はアジア的なるもの(特に中国。中国人監督なんだから当たり前だが)を集約した、ファンタジーだった。ファンタジーというのは基本的に何でもありだから、ファンタジーというジャンルに括られてしまうわけで、だから作品としては内容以前に画面からのインパクトさえあればそれでいいのではないだろうか?そういう意味で本作は紛れもないファンタジーだし、俺はそれ以上に本作を評価する言葉を持たない。本プロジェクトはこの凄まじいキャスティングの顔ぶれが実現するという、それだけの時点で既に完結しているような気がする。もちろん、真の完結は本作が観客の目に触れてこそあるのだが。アクション的には敢えて苦言を呈すると、真田だけ動かせ過ぎ。他の若いのもっと動けよ!って感じだ。確かにニコラス・ツェーが全く同情の余地がない悪役を演じているのも特筆に値するが、そうした上辺だけでなく、感情表現が一番深いのも真田。その点では、我らがデューク真田の偉大さに改めて気づかされた。

 単純に行ったのは「マッハ!!!!!」のスタッフが作ったというふれこみのタイ映画、「七人のマッハ!!!!!!!」。これはスタッフがというより、一部キャストが重複しているだけの模様。何分知名度のない顔ぶれだけに、宣伝の上でそうした華が欲しかったんだろう。だが作品の内容となると全く別の話だ。素晴らしいの一言に尽きる。「マッハ〜」だとかそんな箔付けは全く不要な完全なるアクション映画。突っ込みどころもゼロなら笑いもゼロだ。コミカルな予告編に釣られて来た奴等には、せいぜいイヤな気分を味わってもらった方がいいだろう。久々の大収穫、今年公開作では、文句なしに「シン・シティ」に次ぐベストだ!「自分を大切にしない」ことの大切さを、これほどストレートに教えてくれる表現も珍しい。自分を大切にしている奴など、せいぜいが日常に埋没してしまう程度の人生しか送れないってことだ。死ぬかも知れない?当たり前だ。これは賭けなんだから。死ぬことだってあるだろう。だが死ななかった事で、本作の出演者たちは栄光を手にした。俺も死ぬべき時はあった。だがその機を逸したのだ…。こういうの観ていると焦れるぜ…。などと考えながら観ていたら、涙が出てきた。スタントで泣けてくる映画を観たのはこれが初めてだ。

 「七人のマッハ!!!!!!!」もやっている新しい映画館の渋谷シアターNは、水曜が千円均一というので、「PTU」に次ぐジョニー・トウの新作、「ブレイキング・ニュース」にも行ってみたりする。警視らしいケリー・チャンの不自然な美貌が際だつが、籠城する犯人側の面々がむさ苦しいことこの上なく(含人質)、そこら辺が物語の違和感を中和してくれる。要は「PTU」のスケールを大きくした話で、制作費も以前より掛かっているだけあって気負っている感じがするが、実は冒頭とラストの長回しみたいに実験もしていたりする。「PTU」同様、アウトロー側への視点が少ない話なのかと思ったらこれが大間違い。主人公は籠城側の犯人(岸谷五朗似)の方で、キッチリ攻守交代を繰り返し、飽きさせない作りは単にノワールとも言えない、渋いアクションの趣。それでいて一応のカタルシスを観客に与える点では、職人監督の面目躍如だ。次作は黒社会ものだそうなんで、よりアウトローへの偏った視点を期待し、待つことにする。

 読了したのはティム・ドーシー「フロリダ殺人紀行」。これほど狂った設定と人物を敷いていながら、何のカタルシスもない展開に驚愕。本当に最初から読んでいて最後まで辛いだけのお寒い話。描写力の弱さか訳の悪さなのか、その元凶は真には突き止めにくいが、ノワールの衣を借りた似非ノワールであることは間違いない。暴力描写のヌルさなど、読んでいて久々に腹が立った。つーかこんなのノワールじゃねぇよ!もっともっと、登場人物の狂気の断片を積み重ねるべきだ。意識を重ねて、狂気の集合体へ。結局カタギが巻き込まれる部分を入れているんじゃ、そいつらに事の顛末を語らせるだけで、それ以上は望むべくもないがな。マッハ ! プレミアム・エディション [DVD]PTU [DVD]フロリダ殺人紀行 (扶桑社ミステリー)