生死の葛藤、その最中の映画体験など。

 俺が死んでも、俺は死んだんじゃない。俺は死んでいたんだ。完全に。殺されていた。だとしても、その事実を認めないために、認めたくないために、脱出しようとは何度も試みたが、身体が耐えられなかっただけのことさ。精神の死に、ようやく身体が追いついた。心が死んだままで生きるのがどれだけ大変かなんて、分からないだろう?武士道とは、死にながら生きることなり。とも聞いたことがあるが、それは本当に心が死んでいるんじゃない。何かに心を預けているから、そのためにはいつでも死ねるという、心構えにおいてのものだろ?

 なんて、残り少ない命の予感に怯えながら、以前執筆した「食玩恐竜フィギュアオールカタログ」にて徹底研究したし、悪名高いディノ・デ・ラウレンティス・リメイク版のは、正はテレビで、続は劇場で小学生時代観ているために、それほど気乗りがしなかった「キング・コング」、ようやっと観に行く。そして…、やっぱ観て良かった…!それに 、「ブレインデッド」を 撮ったピーター・ジャクソンは、ピーター・ジャクソンのままだった…!完璧だ…。
 俺自身がファンタジーをあまり好まないために、大してのめり込まなかった「ロード・オブ・ザ・リング」三部作より明らかにダレ場がないし、精緻に作り込まれている。とはいえ、この三部作も「スター・ウォーズ」全般の冗長さに比べれば遙かに立派な作品であることは言うまでもないが、まぁ問題は「コング」だ。オリジナルの時代背景を捉え直し、その上でリスペクト怠りなく、「怪獣もの」と「ラブストーリー」として再構築しているので、無駄なシーンがなく、約三時間の長尺にもかかわらず、俺には全く長さを感じなかったんだよ。しかも、前述した「ラブストーリー」の部分がラウレンティス版(ジョン・ギラーミン監督版とも言うが)より描写は繊細に、あからさまな裸なんぞを出さずに、じっくりシーンを割いているので、これが泣ける泣ける。
 美女と野獣。もちろん字面通りの古典や、「シザーハンズ」にも通じる、(アウトサイダー的には)涙を禁じ得ない程感動的なラブシーンを観ながら、このシチュエーションについて考えさせられたな。俺も街中などを歩いていても、圧倒的な異物感が出ていると思うが、正直別に演出しているわけではない。
 隠したって、この人間不信の影や、絶望や苦悩など出てしまうだろう、って別に隠す気もないけど。隠せないから隠さない。それは事故で身体の一部を失ってしまった人の気持ちに似ているかも知れない。その傷や欠落を隠さないで見せつける気持ちだ。それが一般の人間を遠ざける事も分かっている。故にそれはジレンマなんだ。
 でも、その限りでは、コングは最後までそのオーラを放出していたことで、たとえ死ぬことになっても愛に出会うことが出来た。それはそれで、おそらく長きに渡り孤独を強いられてきたコングにとっては幸せな結末だったんだと思う。初詣でで明治神宮に行き、大御心(おみくじ)引いたら、明治天皇の皇后の筆による、「人に左右されず我が道を行け(大意)」みたいな歌が出てきた俺にしてみれば、愛に出会えるなら、心が蘇るなら、このままでいてもいいのかも知れない、と正直思ってしまう作品だった。もちろん、それで死ぬにしても、異物であることの決意においても。

 あとは、ダニエル・チャヴァリア著「バイク・ガールと野郎ども」読了。武士の高潔を味わったバランス取りに、立て続けに暗黒小説を読んでしまったため、例の頭の中の声が一段と大きくなってしまったんだ。おまけに、
「殺してくれ」
「傷つけてくれ」
「許してくれ」
「愛してくれ」
 などと、戯言にはバリエーションが増える始末。それでさらなるバランス取りに手に取ったのがこの一冊。舞台が俺の憧れているキューバってこともある。そこの淫売を主人公にしている割りには、悪徳と言うより、動機から結末まで全てがセコい犯罪計画に呆れた。確かに軽いには軽いけど、エルモア・レナードの軽妙さには程遠いぜ。

 さらに、白栄吉著「北朝鮮不良日記」も読了。圧制下にあっての反骨、反発こそが真の侠気なのだという思いを新たにした。今後日本も右傾化して、昔のような全体主義になって行くであろう事、日本人の歴史から学ばない愚かさに確信を持っている俺は、そのような事態になっても己の侠気を貫けるか不安になった。
 そりゃそうだろう、たかがナイフ所持(度重なる脅迫への備えとして)で二泊三日ブタ箱にブチ込まれたくらいで、人生の汚点になったと弱気になっている俺なのだから。強く気持ちを持っていたいもんだ。
 話を本に戻すと、北朝鮮で今もあるという死刑方法、火あぶりの描写は、さすがに実際に見た著者の視点で語られているだけあって、凄惨極まりない筆致で、描写もいちいち具体的だ。俺がブタ箱に入ったときに痛感したこと、「人間は権力の庇護下なら、仕事と割り切ってどんな残酷なことでも出来る」という決定的な人間観は、やはり正しかったと言わざるを得ない。

 どこにあっても、自らが行うことの是非を考える能力のない人間は、全て死ぬべきである。周囲の人間を、そいつを愛してくれる人間さえも、不幸に追いやるからな。

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