“刺激”に的を絞った試写の行方。

 20世紀FOXさんのご招待で「ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR」試写へ。我が国には、ロシアの情報は政治的なもの以外あまり入ってこないが、こんなスピーディーで斬新な作品が作られていた!
 もちろん本作の存在は、去年の東京国際ファンタスティック映画祭以前から知っていたが、やはり実物を観てその先鋭性に驚く。物語としてはファンタジーの王道、光と闇の種族間の抗争を描いているのに、本来ファンタジーには不向きと思える細かいカット割り、大胆なカメラワークが、ファンタジーにも関わらず、紛れもない現代のモスクワを舞台としている事を痛感させる。といってもかなりダークな雰囲気作りに徹していて、その面でも好感が持てる。不安感高めるヘヴィなサントラも、世界観のダークさをいやが上にも盛り上げる。
 元々最近のロシア映画では日本公開すらされない高濃度のギャングムービーなどが量産されているらしく、その辺は専門分野なので気になっていたため、こうした不良性感度だけでなく、娯楽性の部分にもちゃんと訴えかけるストリート感ある作品が生まれ、それが我が国でも公開されるのは非情に喜ばしい限りだ。映画大国と言われていない国で、こういうエッジの効いた作品が頻繁にではなくてもコンスタントに製作され、それがこの国でも公開されるという正しいサイクルを切に願う。
 作品自体は、子供向けではないが故に、登場する子供に降りかかる艱難辛苦がこれからも予想されるし、その描写にも甘さがなくて、三部作を想定しているというこのサーガの今後が気になるところだ。映像化においてこのテンションなら、かのロジャー・コーマンの弟子とも言える存在なだけあって、本作のティムール・ベクマンベトフ監督の息が切れることはまずあり得ないし、マーティン・スコセッシジェームズ・キャメロンといった大監督への条件を早くも満たしているとも言えるので、次回作にも全く不安を感じさせないのは凄い。レイティングもロシアは自由なので、今後も“表現”と言うことに躊躇しない作品を提供してくれそうだ。でも一度観てしまうと、翻訳されている原作の世界観も、復習してみたくなること必至なのでちゃんと完結して刊行されると嬉しい。

 その後は、ワーナー・ブラザーズさんにご招待頂いて、「Vフォー・ヴェンデッタ」試写へ。ウォシャウスキー兄弟脚本だけあって、「マトリックス」臭がいい意味で濃厚だ。というより、もともと「マトリックス」トリロジーの前に彼らはこのアメコミを映画化したかったらしい。
 それが実現できたのは、ピーター・ジャクソンが「ロード・オブ・ザ・リング」のご褒美として「キング・コング」を撮ることができたような意味合いに近いかも知れない。なので、社会的影響が懸念されたためか、結果的には歪められてしまった、「マトリックス」に本来込められる筈のメッセージも、こちらではより純粋で過激だ。だってテロと体制転覆全面肯定映画なんだから、これが燃えないわけがない。そのために一般客なら引いてしまいそうな部分も多々あり、これを大衆がどう評価するのかは物凄く気になるところだ。もちろん、俺はこういうの大好きだけど。
 「マトリックス」でもモーフィアスは言ってただろ?「管理されている奴らにその事実を突き付けると、奴らはそれを認めようとしないばかりか、それを無かったことにしようと、我が身可愛さから牙を剥いて来るだろう。その限りでは、彼らも敵だ!そして敵は倒せ!(大意)」って。大衆、彼らが敵かどうかが、この映画によって試されようとしている。加えて書いておくが、これを観ると、新三部作の「スター・ウォーズ」で、ナタリー・ポートマンがいかにブサイクに撮られていたかが良く分かる。これも重要だ。
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