修羅のなか、ふと見出した美。

 映画の日だったよ、だから映画を一本一本殺すだけだ。孤独に。
 「サウンド・オブ・サンダー」CGは粗いが志は高い。SF的な考証がどうのとかは気にならない程度。俺的にはモンスターの造形だって結構どうでもいい。重要なのは藤子・F・不二雄先生の短編「みどりの守り神」で展開したような、現代の文明がことごとく植物に駆逐された、美しい世界の終末をビジュアルで提示してくれたことにある。これは何もかも破壊し尽くされた「戦場のピアニスト」の清々しいビジュアルと並ぶ、俺の心の原風景だ。別に実際見た訳ではないが、いつかこの目で見たい心のふるさとだ。それが実現する時は、その光景も多分俺が最後に見るものになるだろうが、それでいいだろ。「ファイト・クラブ」の劇中で語られた、この夢のような風景を実現するには、スペースモンキーズの活躍はもちろんだが、「12モンキーズ」で実行されたような、“動物園の解放”といったテロのような細かい積み重ねで、人間にのみ都合のいい、あらゆる文明を否定し、徹底的に懐疑することから始まる。

 「イーオン・フラックス」は、単純に未来世界のビジュアルや体制転覆モノである点、それに一部キャストの重複などから、「リベリオン」に似ている気がしたな。ガン・カタは使わないけど、未来のガジェット(小道具)類を、実在のものからの流用を極力抑えているのが好感だ。そして、映り込む人間がバイキンに見えてくるような、無機質な未来観は何度観てもいいものだ。そのような美しさをキューブリックは「2001年宇宙の旅」で追求し、どうせ現実の人間は進化に至れないだろうということを、つまり人類への絶望を暗に仄めかしていた。本作はその系譜に連なる美を、より開き直った感覚(アニメの映画化だからね)で堪能でき、俺は大満足だ。ちなみにデストピアSFでは、もちろん「リベリオン」の監督の新作、「ULTRAVIOLET」にも大期待ではある。
 そんなことは別にしても、本作に限っては、何より、シャーリーズ・セロンが美しすぎる。彼女も年齢相応にアップではシワも見えてきたが、それはとても自然で、野の花のように、美を強調するガジェットにすらなっている。アメリア・ワーナーは、「クイルズ」の時より確実に輝きは失せていて、惜しい。それはそうと、要は着飾らずとも、美しいものは美しい。逆に醜悪なものはどういじったって醜悪だということだ。人間性もまた同じだ。
 常々俺は、美しさは暴力と同義であると考えてきた。なぜなら、それが人間へある種の強制力を加えるものである限り、俺はそこに「美」と「暴力」の違いを見いだせないからだ。そして暴力の象徴である武器は美しい。デザインに無駄がないんだ。人を殺す以外の機能を持たない武器の美しさ。俺はそれと同様のものを美しい人間に見る。美しさだけの人間。それだけに、人を支配、服従、または束縛するその力を。そしてそれが、武器同様正しい方向では必ずしも使われていないことも。なぜなら美が持つその力に人間は気付かな過ぎるからだ。この世は美を磨く(または、醜さを覆い隠す)ことが美徳とされ、発情した女が男の金を得る為の道具にされているが、それは己の暴力を殺人術のスキルで高めたりする事と何ら変わりないんだよ。銃や刃物を集める奴と全く同じだ。それくらい、暴力へのモラルと同等に考えれば、罪深いことであるべきだ。そして暴力は法で縛れても、美は野放しだ。その持つ力をないがしろにして、それでカネ持ち男捕まえて、オマンコ開いていりゃ、一生安穏とできる、みたいな“寄生虫化”を強調してコントロールが実行されているから(女をその強迫観念で縛れば、その方が儲かる奴がいるからだ)、この世界は依然と悲劇に包まれている。いい加減にテメー等も気付け!結果的にオマンコ舐めてカネ貰っている、クンニ職(これは警察同様「不浄職」だ)の男どもにもウンザリだぜ。

 「SPL 狼よ静かに死ね」これに関しては、実は前にも書いたが、一番期待していたのだ。結果は…俺は失敗だと思う。汚職をも辞さない野獣刑事たちと、極悪黒社会のボス。その構図はいい。そして汚職の描写も手抜きはない感じがする。何よりサイモン・ヤムを主役に持ってきているところが香港ノワールの雰囲気が充分に出ていてよろしい。「PTU」も意識しているのか?監督は違えど、どっちもサイモン主演、そして本作では海岸のシーンが印象的に繰り返されるなど、「PTU」同様、明らかな北野武映画の影響が見て取れる。それはそれで本作のカラーを決定づけるのに一役買っている。元ネタに関して言及するなら、「PTU」が「その男、凶暴につき」なら、こっちは「HANA-BI」と言ったところだろうか。
 だが肝心のアクション描写がバリバリのクンフーなんで、リアリズム重視の物語とかみ合っていない。あんなにクンフーできるデカがいるか?あんなに動けて、自ら暴れまくるボスがいるか?その辺で溜まってきたクエスチョンが一気に爆発してしまうのだ。極悪人に流儀はない。極悪人同士もだ。そんなもの要らないだろ。ならばその極悪ぶりを徹底的にフィルムに焼き付けて欲しかった。クンフー映画ではなく、少なくとも刑事アクションの体裁を撮っているなら、その部分の詰めは甘いといわざるを得ない。ただアクションを見せたかっただけなのか、それならば納得も行くが、別に刑事ものにする必然性はないよな。

 加えて、「ドゥーム」にも行こうと思っていたが、初日なのに妙に遅いと思ったら、オールナイト枠で\1300なんだと。ケチるつもりもないが、この日は作品の間隔が長かったんで、もう帰った。映画を殺しまくることは、まだ出来ていないと思う。
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