人生なんて暇潰しだろ。

 だから暇潰しがてら最近はギャラリーにも。もちろん目的はあるけど。
 ギャラリー同潤会でやっていた、「奥本昭久写真展 たそがれ〜ぼくはそもそも〜」の為に初めて表参道ヒルズへ。同潤会アパートの部分は微妙に残してあって、別に景観が激変しているというわけでもない。カネの臭いがプンプンしていることに関しては、何も変わっちゃいねぇ。スペースモンキーズには格好の標的だ。とはいえこの写真展、俺の専門学校時代の同窓生の個展なのだった。在学中の作品は発表会なんかで目にしたことはあったが、卒業して、はや八年、ほぼ唯一、名の出たプロとしての制作を続けている彼が、プライベート作品としてどのようなものを撮っているのかも気になったし、単純に再会(といっても数ヶ月振りだが)もしたかったらな。で、作品は、結構生活臭があり、内省的で、俺の好きな動物の写真も結構あったりして、点数も多かったんで全く退屈せずに楽しめた。友人がバンドやっているからとかで、ライブに義理で行ったりなどという、馴れ合い以外の何ものでもない愚行を俺は断じてしないが、こういう強制力のない能動的な見方を要求されるジャンルでは大賛成だ。内面のさらけ出され方が、音楽より直接的に分かる気がする。だからこういうものなら、俺はどこでも駆けつけるよ。とにかく挫折せず、頑張らなくていい、ひたすら続けてくれ、おっくん。続けてくれる限り、応援したいし、見守りたい。

 その足で青山まで足を伸ばし、GoFa(GALLERY OF FANTASY ARTの略らしい)にて開催されていた、「デビルマン・アートグラフ展」中にいた店員?みたいな奴が言っていたが、このリトグラフの展示即売会(結局、ラッセンとかヒロ・ヤマガタみたいな三級絵描きのと扱いは変わらなかった訳だ。)は、「世界に誇る日本のマンガを、文化的遺産として後世に残す」ことらしい。その発言の志は高いが、展示点数の少なさと展示テーマの散漫さ(「デビルマン」が少なく、残りは「マジンガー」シリーズのものががメイン)が気になった。永井豪先生は、もうあの時期ほど暴力的なパワーに満ちたものは(特に新作では)描けないだろうけど、やっぱ「バイオレンスジャック」の原画なんかが見たいねぇ。

 あと、最近読んだ本についてはこんな感じ。
 ボブ・ウッドワード(ちなみにショーン・ペンの最新作、ウォーターゲート事件を暴いた記者を描いた、「ALL THE PRESIDENT'S MEN」の著者だ。過去の映画化タイトルは、「大統領の陰謀」。)著「ベルーシ最期の事件」ジョン・ベルーシの死の真相を、ハリウッド全体に蔓延するドラッグ禍と絡めて暴いたルポルタージュ。ふーん、あ、そう、って感じ。人間必要以上のカネを持つとロクなことしないという好例だ。ジャック・ニコルソンロバート・デ・ニーロロビン・ウィリアムスロン・ウッドがコカイン漬けだったなんて、そんな事は知っていたし、別に衝撃的でも何でもない。ただ、笑いというのはロックが生まれるはるか前から存在している“ロック”なものであり、破滅型芸人の生き様というのは、ロックスター以上にロックしているものだ。ましてその実践者であるベルーシが、ロックスターに憧れており(「ブルース・ブラザーズ」の成功でその憧れは実現するのだが。)、笑いの偉大さに自ら気付いていなかったフシが、その生き様や言動から窺えるのが、実に残念でならない。

 スコット・フィリップス著「氷の収穫」豪雪のクリスマスイブに実行される、非情極まりない強奪劇、そんなあらすじを読んだら、スコット・スミスの「シンプル・プラン」やコーエン兄弟の「ファーゴ」で展開されたような、甘さのかけらもない、乾き切った“白いノワール”を誰だって期待してしまうだろ?解説にはご丁寧にスコット・スミス自身の賛辞として、ジェイムズ・M・ケインジム・トンプスンの名を引き合いに出し、彼らが本書を読んでいたら、間違いなく愛読書としていただろう、なんてことまで書き出しているが、スミスも含め、これは本書に対するとんでもない過大評価だし、こいつも一発屋だったんだって事がよく分かる。んな訳ねーだろ。ケインやトンプスンは、ノワールなんて読まねぇから偉大なんだよ。あれは彼らの人間観、人間への絶望と軽蔑そのものだ。その点これは内容にしても、知らないうちに計画が実行され、裏切り合いとも言えぬ渦中で右往左往する主人公の姿ばかり。そのどこにも、追いつめられている緊張感も、やること全てが裏目に出る焦燥はない。向こうで何たら賞とか取ってるらしいけど、ケインやトンプスンのような、読んでいる側を奈落の底に突き落とすような、人間を、人類を、ある意味ナメた感覚、そういったものは全く感じなかったよ。時間の無駄。
 俺を一撃で殺すような、絶望をくれ。一度絶望した俺は、一度この世界を取り巻く悪の本質を知った俺は、絶望し続け、知り続けなきゃならない。もうあとには引き返せないから。無垢な自分にはもう戻れないから。その意味では、幼少期に性的虐待を受けたり、落ち度もあまりない(もちろん、俺にしてもゼロではないのは重々承知だし、ゼロの奴もいない)のに慰み者にされた人間の気持ちがよく分かる。人は「忘れろ」と他人事のように言う。だがその事実が消せる訳じゃないんだ。取り込んで、対峙して、消化しなきゃならない。うまくいけば、消化は昇華になるが、うまく行かなきゃ、己を癌のように蝕んで殺すだけだ。それでも引き返せないなら、行くしかない。もちろん、愛がそれをスイッチすることを俺は知っている。しかし、俺がその愛を使い果たしてしまった。愛を育むには時間が必要だし、そもそもそんな時間は残されていない。しかもそんな始まりは、この独房暮らしでは望むべくもないからな。だからもっと強い毒を、もっと酷い悪を、己に取り込まなくては。その為に、俺はまだ読み続けなきゃならない。

デビルマン(5) (講談社漫画文庫)マジンガーZ オリジナル版(1) (講談社漫画文庫)バイオレンスジャック 1 (KCデラックス)大統領の陰謀 スペシャル・エディション [DVD]ブルース・ブラザース 25周年アニバーサリースペシャル・エディション [DVD]氷の収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫)シンプル・プラン [DVD]シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)