現実に留まる悪夢。

 20世紀フォックスさんにご招待頂いた、ユアン・マクレガーナオミ・ワッツの新作「STAY」試写へ。自殺を仄めかす精神病患者の青年と、それを阻止したい精神科医。そしてかつて自殺未遂を経験した、その恋人。物語はその誰にも肩入れすることなく、溶けて流れるように個々の主観を軽々とスライドして行く。その不条理が条理に勝っていく感覚は、正しく夢の中での意識の流れに近い。そして俺は当日とんでもなく寝覚めの悪い夢(俺を脅迫して来やがった45歳のクソ男が、なぜかルー・ダイアモンド・フィリップスの姿をしたヴァンパイアとして、脅迫の手引きをした気違い女を、沖縄でヴァンパイアに改造していた。飛行の超能力を持っている俺は、その事実を確認しても難なく脱出するが、調べを進めると、真に手引きをしていた存在は、絶縁状態になっている俺の弟だった!ってヤツ。)を見た後だったので、まるでその続きを見ているような幻惑を覚えた。
 こんな抜け出せない悪夢感を醸し出す作品を俺は過去に観たことがある。それは、デヴィッド・リンチの一連の作品(こんな感覚の代表、「ロスト・ハイウェイ」)や、エイドリアン・ラインの「ジェイコブス・ラダー」などである。だが本作がこれらの作品と決定的に違うのは、恐怖や不安の中に僅かな暖かさを感じる点と、決定的な「カット」が入らない(加工で意図的に入れていない)その編集の妙である。光が闇に溶け込んでいくような、その逆のような、まるで意識していない場所から、爆発的に次の場面が侵食してくる手法は、衝撃を通り越して、感動的ですらある。意識の流れに明確な断裂(カット)はないはず(あったとしたら病院行きをお勧めする)なので、この手法は新しいし、監督、マーク・フォースターの持つ、最新技術の絶妙な応用のセンスゆえの産物(欲情する「チョコレート」とは全く別傾向の作品)だ。映画が総合芸術なら、編集が見どころになっている映画が有ったっていいだろ?そんな深い感慨にふけった甘美な悪夢だ。ロスト・ハイウェイ [DVD]ジェイコブス・ラダー [DVD]チョコレート [DVD]