人間ではない、映画を詰め込む空洞。前編

 それが今の俺だろ?だから今月は修羅に次ぐ修羅。血で血を洗う暴力の映画ラッシュが実現した。これぞ修羅道。長くなりそうなんで二回に分ける。
 まず一本目「タイフーン」は、韓国映画史上最高額のバジェットというが、その点はあまり感動には繋がらなかったな。恐らくその制作費の大半は、海外ロケと水を使った撮影で消えたんだろう。とにかくカネがかかるからね、水モノは。それをカバーできるほどのCG技術は、どこの国にしてもまだ確立しているとは言えない。また、本編はとにかく泣きのシーンが多いのが印象的だったが、脱北者の気持ちに近づけないからか、その泣きの部分に関してはそれほど強くは共感できない。それに関しては同じ監督の前作「友へ チング」の方が上。この字面だけ見ているだけでも泣けてくる。ただ、北からも南からも見捨てられた男が、復讐の鬼となり、半島を放射能汚染しようとする、という着眼点は良いので、彼の凶暴性をもっと全面に出して欲しかった。人間としての尊厳も奪われ、最底辺をさまよった人間が、次は世の中に地獄を味あわせようとする理屈は全く正しいし、誰もそれに正攻法で反論できる奴などいないはずだからな。チャン・ドンゴン演ずる海賊シンにはその権利はある。だから、青臭い正義を振りかざして、武力で鎮圧するしかないって決着もやむを得ない部分は確かにあるのも、劇映画では仕方がないと思う。それが限界なのかもな。

 二本目は今月の目玉「ロンゲスト・ヤード」だ!オリジナルは、何で今でも繰り返し観られていないのか!ということを、ただただ憤慨するばかりの超名作だが、今回のリメイクも、個人的な思い入れが強いので、無条件に絶賛してしまいたい。刑務所内における、アメフトの囚人チーム対看守チームの激突。こんなシンプルな話に何で俺の心はいつまでもうち震えてしまうのか。多分何回リメイクされてもその感動は変わらないだろう。
 正直な話、俺はアメフトの何たるかも知らないし、球技も格闘技に比べれば格下だと思っているので、別に深く知りたくもない。だがそれでもルール度外視で熱い感動を呼ぶのは、刑務所の長期囚のような、全てを失った男たちが、最後に残ったほんの一かけらの誇りの為に権力に挑む、スポーツの名を借りた闘争そのものだからだろう。その証拠にガイ・リッチー制作で、数年前に本作をリメイクした、「ミーン・マシーン」にしても、舞台はイギリス、競技はサッカーに置き換えられていたが、その骨子は何ら曲げられていなかった。
 そして今回のリメイクもそれは同じで、驚くほど忠実かつ、原点へのリスペクトを欠かさない、非常に好感の持てる作りになっていた。制作・主演のアダム・サンドラーもその部分には細心の注意を払っていたようで、従来のコメディ演技をギリギリまで抑制して、ムショ行きになって囚人チームのコーチを任された、元花形選手を熱演している。その上、オリジナルの主演、バート・レイノルズや、やはりオリジナルで看守長を演じたエド・ローターのゲスト出演が単純に楽しい。特にレイノルズは後半プレイにまで参加して、元祖タフガイの健在を見せつけた。しかも最古参の囚人役に、伝説の囚人作家にして俳優のエドワード・バンカー(「レザボア・ドッグス」のMr.BLUEだぞ!)を配するという心憎さ!どうせなら彼のムショ仲間、ダニー・トレホも出せば良かったんじゃないだろうか。
 しかもバンカーにとってはこれが俳優稼業としては遺作になってしまった。ドン底に転落したが、誇りを取り戻す為に、卑俗さを武器に反撃に転じる、その意味では彼は生き様でそれを体現したし、勝利した。その大往生に感謝と冥福の祈りを捧げたい。レスト・イン・ピース。
 加えて言わせて貰うなら、これほど感動的なドラマを純然たる新作で観られないこと、また、こうしたドラマを演じるに見合った、顔力のある俳優が育っていない(日本はもちろん、Vシネ俳優除いてゼロだぜ)ってのが心残りだ。人類はこれでいいのか?
(次は三本目と四本目へ)〜続く〜友へ チング [DVD]ロンゲスト・ヤード スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]ミーン・マシーン [DVD]レザボア・ドッグス スペシャルエディション [DVD]