人間ではない、映画を詰め込む空洞。後編

 そんで続きの三本目四本目。

 三本目、「トム・ヤム・クン!」は、後半のバイオレンス映画さながらの暴力はかなりえげつなくていい。どんなにオブラートにくるんでも、正しくアクション映画の基本はバイオレンスにあることを痛感させられる描写の数々だ。「マッハ!!!!!」に続いて主役を張った、トニー・ジャーのセリフが「象カエセ!」位しかないのも潔い。というか、本作最大の目的が「奪われた象を取り戻す」ことにあるから、それしか印象に残らない。肝心の異種格闘技戦は、質が違いすぎるので、期待していた技の応酬がいまいち噛み合っていなかった様に感じた。それでも格闘技だけじゃなく、Xスポーツ軍団とのバトルなど、観客を飽きさせない要素で、且つトニーの新しい引き出しを増やす試みを極限まで詰め込んでいるのにはひたすら敬服だ。
 あと、笑いどころではない驚異のバイオレンスシーンで大爆笑している輩が多いのには「命がけのアクションは命がけでマジメに観ろ!」と辟易したが、俺にもいまだに思い出し笑いしてしまうシーンがある。本作唯一のギャグ、ジャッキー・チェン(のソックリさん)登場シーンだ。このシーンがギャグなのは言うまでもないが、俺にはこれが、近々実現するであろうジャッキーとの共演を暗示するものに見えてしょうがない。もちろん、そのファンへの目配せなんだろうから、次は本物と是非!

 四本目、「アンダーワールド:エボリューション」。ヴァンパイアものは人間であることを捨てたい俺の嗜みとして。と言ってしまうと同傾向で公開中の作品に「ブラッドレイン」がある。ってことはこれも観なけりゃならないってことになるんだが、あれはB級臭いんで後回しでいいや。
 対して本作は、前作「アンダーワールド」である程度風呂敷を広げているので、今回は話が早いったらない。いきなりハイテンションなバトルの連打だ。見せ方も、特にアクションしながら変身しまくるライカン(人狼)の姿が凄まじくいい。
 とりわけ、ケイト・ベッキンセイル演ずるヴァンパイアの殺し屋・セリーンの硬質な美しさは特筆に値する。俺は通常時のケイト・ベッキンセイルには柔らかい美しさを感じていて、整形を重ねている一つの成果をそこに見るが、特に魅力を感じているわけでもない。ただ、その彼女の整形ベース顔に、ヴァンパイアのメイクが乗ることで、完璧で無機質な美に進化している。人間などは歯牙にも掛けぬその冷たさ、温もりなどとは無縁の崇高さは、ひたすらに目の保養であり、心洗われる気分だった。
 その美しさに気を取られてか、ストーリーは三部作を予定していると言うことなので、特に問題は感じなかった。そりゃ最後まで観てからの判断だ。それだけに、他の部分のヌルさが鼻についたりもしたんだよな。
 劇中、彼女はセックスをする。ヴァンパイアのくせに。しかもボカシ入りで。ボカシを入れたのは日本の愚劣な映倫の指図かも知れないが、人間でない存在が仮にセックスするとして、その描写はボカシを入れるほどワイセツなものなのか?言うまでもなく、ヴァンパイアは人間ではない。人間以外の種である限り、犬や猫のセックスと変わんないだろう。そんな処理すればするだけワイセツだし、「これは人間の演じている作り事です」みたいな冷めた作為を感じて下品に思える。
 それに、話の展開としても、基本的ヴァンパイアなら人間の汗臭いセックスなど必要ない。なぜなら、ヴァンパイアのセックスは吸血行為そのものだからだ。人間は快楽のためだけにセックスをする(「そうではない」と断言する人間に、俺は会ったことがない)ので、生殖のためでのものでもあることは見落とされがちだが、吸血は個体の維持と同時に、吸血をした相手を、仲間にしたければ永遠の世界へ連れて行くことが出来る手段でもあるだろ?相手の少なくなった血を補うために、己の血を飲ませることで。体液の交換、それは正にセックスそのものじゃないか。そして結果として同じヴァンパイア、ヴァンパイアにとっての子供としての存在が生まれる。それは正に生殖そのものじゃないか。
 ヤッてる相手がライカンなんで、種族が違うから、相互理解のためにセックスをする、と言う見方も出来る。それでも、人間より高等に進歩しているはずのヴァンパイアが、その程度の低俗な着地点しか見いだせないと言うのはおかしな話だ。セックスを何らかの解決の手段として選んだり、そのセックスに狂わされるのは人間だけで、その愚かさ故だ。つまり、人間の存在なんてその程度のものだ。
 人間を捨てている俺は、ちょっとばかりヴァンパイアに思い入れがあるので力説してしまったが、要はそういった部分でのヴァンパイアについての深遠な考察に欠けているのが悔やまれる。娯楽作として結構な完成度を持っているだけに、その思いは強い。マッハ ! プレミアム・エディション [DVD]アンダーワールド DTSエクステンデッド・エディション [DVD]ブラッドレイン