バンコク旅行記、その一。

 バンコクに着いた。俺にとっては宇宙旅行のようなものだ。ここが同じ地上であることが信じられない。当たり前だが、ここは日本ではなく、俺が日本みたいな国で純粋培養された常識も、法律も、全く通用しないんだ。まだそれを痛感するには至っていないが、覚悟を決めておいた方がいい、と誓いを立てるビビり様である。
 しかも情けないことに、以前あれほど書いた、断絶している両親の尻馬に乗っての旅行だ。沈思黙考する時間もなければ、自由だってない。これでタイの何が分かるのか、俺の今後を決める決断は下せるのか、たかが知れている様な気もするが、未知数ゆえに、初日には精神の荒野が広がっている。しかしツアーのタイ旅行でで逸品を探すのは本当に難しい。連れて行かれるところが、カネを落とさせることを目的に誂えられた店ばかりだから、タイの人々の暮らしをいちいち上から見下ろすような場所ばかりで、生活臭のなさがさすがに飽きてきた。バッタもんのTシャツ、ゼロ。屋台での食事、ゼロ。家族はもとより、人々との交流、当然ゼロ。ただただ、街中至るところをウロウロしている、野良犬たちの悲しげなたたずまいに、その瞳に、胸が痛む。
 どこでもそうだけど、旅行者を標的にした犯罪が横行しているから、意図的に地元の人と触れ合わせないようなスケジューリングになっている。ま、そんなに積極的にトラブルに巻き込まれて、ガイドさんの手を煩わせる気は毛頭ないのは言うまでもないが。
 それに、何しろ初海外なので、心配事や不安がつきまとい、色々見物するにも、そのチョイスの選定に頭を悩ませずに詰め込んでくれる、というメリットはある。
 しかし見ず知らずのババア、ジジイとさも親しげに口を利かなければならない点、その下品な会話や醜態を目の当たりにさせられてしまうのは、最大のデメリットかも知れない。俺は極力無駄口を叩かない様努力はしていたが、それでもかなりの不快な局面には遭遇した。
 老いることへの潜在的な恐怖を、単に容貌の衰えではなく、「感性が鈍摩することへの恐れ」として強く感じるばかりだ。
 スアン・ルム・ナイトバザールでは豪雨に遭遇。といっても日本では想像もつかないほど激しいもんではなかった。その整然とした区割りと、猥雑な品揃えに、早くも逸品が眠っている予感。でも制限時間が短く、整然とした区割り故に道が紛らわしくて迷いやすいので、あまり遠くへ行けないんだよ。時間さえあれば、お宝に巡り会える予感を濃厚に感じるいい雰囲気の場所だけに勿体ないが、ただ見るだけで収穫にロクなもんがなかった。
〜気が向いたら続く〜