全て消してしまいたいヤツの素敵な幻想。

 先日はUIPさんに御招待頂き、「マイアミ・バイス」試写へ。俺はこの原典たるTVシリーズは、当時小学生の為、殆んど観られていない。なんせ放送してたのが土曜の夜だ。確か10時くらいだったと思う。土曜の夜は寝る前に親父と「ゴールデン洋画劇場」って相場が決まってたからな。
 ま、この時間帯あってこそ、この時分にして既に俺にセックスとバイオレンスの素養は叩き込まれていたワケだが。そしてたまに観たオリジナル「バイス」は、とにかくケレン味と派手さが目立つ刑事モノだったように記憶している。
 それに、このドラマのお陰でいわゆる“英語読み”のセンスが少し解った気がしたのも忘れがたい。番宣で向こうのがそのまま流れていたから、俺は覚えたてのローマ字読みで“ミアミビセ”という番組だと思ってたのだ。そんな想いの諸々を込めて観た新生「バイス」は、そんな派手さを思い描いていた俺には、とにかく地味に見えた。
 しかしそれは、決して失望するものではなく、極めてリアルに徹していたからだった。そしてそのリアリティは、世界に新鮮な驚きを失い、人類に傷付き失望しまくった俺には、あの頃と違って、とても居心地のいいものだった。
 カリブ海周辺の小国における、気候に似合った殺伐も、先兵となって働く、白人至上主義者たちの精神の貧困も。世界の肌触りは決して滑らかではない。暴力と情熱が、太陽と海に溶けていく。この世の中には、リゾートも楽園もない事がよく解る傑作。その中にあるナオミ・ハリスは崇高過ぎる美しさだ。さすがゾンビ世界を生き抜いた女は違う(そりゃ「28日後・・・」だ!)。
 デカとしたらそりゃ軟派だが、友情出演でドン・ジョンソンを出したりしない硬派な作りは評価できる。これは出世作であって最高傑作ではないから。なんつってもジョンソンの最高傑作は「ハーレーダビッドソンマルボロマン」だからな。マイアミ・バイス シーズン1 コンプリート DVD-BOXマイアミ・バイス シーズン2 コンプリート DVD-BOX28日後...特別編 [DVD]ハーレーダビッドソン&マルボロマン [DVD]