大作中心の修羅。〜前編〜

 特に言いたいことが多いわけではないが、今月の修羅の道もフル四本。だからとりあえず二回に分けておこう。
 一本目。「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」は俺的には結構どうでも良かったんだけど、とりあえず。なぜどうでも良いかというと、ファンタジー色が強くなっていると思ったからなんだよな。呪いがどうの、ってだけでもどうでも良いのに、敵はモンスターだろ?そんなどんどんリアリティを欠いて行く世界観の中で、海賊の下品さや残酷さが表現できる訳ないじゃん。
 とはいえ、幼稚さが売りのブラッカイマー作品(監督なんて誰だって一緒だ。)だから、もちろんそんな深さを期待しちゃいない。それに今回は三作目(「World's end」)と同時撮影だから、これは通過点にしかならないんで、ロクな終り方しないことも解ってたし、続くんだから本作だけで評価をしてしまうには早すぎる。だから物語なんかについて能書きを垂れるつもりはない。それでも、ブラッカイマーというだけでもバカなのに、それに輪を架けたディズニー印の映画にもかかわらず、食人、土人、身体障害ネタなどがふんだんにちりばめられていて、その点は大いに結構。日本のあらゆる媒体よ、見習え!エロこそないが、これが表現の自由だ。

 二本目、「M-i-Ł」は、期待通りと言うほどではないが、シリーズ中一番“スパイ映画”としてのバランスが取れている。オリジナル・シリーズを完全否定してしまった、ブライアン・デ・パルマの一作目、“スパイ映画”風剛腕アクションに終始した、ジョン・ウーの二作目、どれも中途半端な印象だった。どちらもビジュアルに持ち味のある監督だけあって、最低限の俺節は盛り込んであったが、断言すれば駄作である。
 それもこれもカネ出している為に、必要以上に自分をカッコ良く撮ってもらいたがる、トム・クルーズ自身のせいだ。前二作の監督も、作品のバランスとトムのワガママの板挟みで、相当苦労して作品を撮り上げたに違いない。だが費やした苦労が必ずしも報われる訳ではないところが映画の恐ろしいところで、三作目にして同じ事態になることを恐れた監督が次々に降板するという悲劇に見舞われたのだった。
 そこで急遽雇われた、なんたらエイブラハムズって監督は、これが映画監督デビュー作になるだけに、相当悩んだに違いないが、結局自分にビ前二作の監督と同じように、トムと争ったり、ビジュアル的な俺印を残すことにこだわらす、言わば開き直ったんだと思う。トムもトムで、これ以上監督に逃げられてもメリットはないために、それほど強く言えなかったに違いない。結果、初めて映画の“バランス”ってものを意識して作られたことによって、極めてまっとうな“スパイ映画”が出来上がった、というところだろう。バランスは大事なんだよ、トム君。
 第一トム映画といえば俺は、濃厚な退廃と厭世に彩られた「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」くらいしかまともに評価できる映画を知らない。それは俺の個人的な世界観への好みの問題で、別にトムのお陰じゃない。それに他は、トム以外の点を除いてもバランスを欠いたものばかりで、いつも失望させられてきた。トムもいい加減キチガイで変態な事を認めて、普通にカッコ良く撮って貰う事なんか考えない方が、映画のバランスはどんどん良くなって行くに違いない。ま、それでも俺にはそんなこと実はどうでも良く、マギーQさえ美しく撮られていればそれで満足なのだった。そしてそれに関しては、何一つ言うことはない。
〜続く〜パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち コレクターズ・エディション [DVD]ミッション:インポッシブル [DVD]M:I-2(ミッション:インポッシブル2) [DVD]インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [DVD]