大作中心の修羅。〜後編〜

〜前回の続き〜
 三本目、「アルティメット」は期待に違わぬ出来。こう断言する理由は、無名キャストばかりでも、生身のアクションにこだわっているため、変に小ぢんまりとせず、しかも中身スカスカの大作ではない、アクションに飢えた小腹を満たすには最適の小品になっていたからだ。それは要所要所でアクション的な緊張感をキーワードや設定を盛り込み、それでもタイトにまとめ上げた、監督のセンスの良さに起因する。
 ・近未来(これで大半の「素敵な大ボラ」を吹くための下地はOK)
 ・塀で隔離されたスラム(ジョン・カーペンター発案の「エスケープ・フロム・○○」方式)
 ・奪われた核弾頭(「トゥルーライズ」を筆頭とする、前世紀の反共・反アラブアクションへのオマージュか?)
 ・奪回に潜入する警官(もちろん「エスケープ・フロム・○○」のスネーク)
 ・協力して潜入しなければならない羽目に陥った犯罪者(しかもキャラを分けてバディものにまで手を伸ばす貪欲さ!)
 さらに爆破までのタイムリミットは近い!と来りゃ、ざっとこれだけのキーワードだけでも、アクション映画好きなら強烈なデジャヴに襲われるに違いない。
 ただ色んなアイディアを頂くだけではなく、アクション映画というのはサンプリングとミックスのセンスが問われる、極めてヒップホップ的なジャンルかも知れない。そういう意味ではピエール・モレル監督のセンスには今後も大いに期待したい。
 前にもベッソンプロデュースというのは引っかかる、と書いたが、ベッソンの趣味が濃厚に出るのは論外であったにしても、今回は(ロリロリであることを除いては)とてもヤツが好みそうにないヒロインのタイプだし、単にいいアクションを撮りそうだから金を出してやる、という姿勢は好ましく、もう監督なんかしなくていいから、ずっとこういうスタイルでアクション映画のプロデュースをして行けば良いんじゃないだろうか。
 そもそもベッソンにはアクション演出の切れが皆無だと思うし、バイオレンス描写も借り物臭い。その己の限界を弁えた上で、ハッタリで貯めた小金を、こうして真のアクションセンスを持つ者の発掘に勤しめばいいんだ。こういうスタイルなら、少しは「自分が撮っています」的な充足感もあるだろうし、商品価値が最早ない、ベッソン自身の売名にもなっていると思うので、ベッソンの不必要なプライド的にもいいだろう。アクション志望者よ、おだててコイツからカネをむしり取ってやれ!そしてもっとスゲぇアクションを撮れ!


 四本目は、楳図かずお原作「神の左手 悪魔の右手」へ。原作は、楳図かずお史上最も過激で悪辣な暴力と、残酷描写に満ちた傑作として、高校時代(童貞)リアルタイムで読んでいただけに、今回の映画化は金子修介監督作品であっても不安は大きかった。楳図かずお原作というのはともかくとしても、金子監督には初の“純粋”ホラー作品になるはずのものだったからだ。
 それと同時に、アイドルや子役など、“女の子を可愛く撮る”ことにかけては定評のある監督だけに、単純に女の子だけが美しい映画でもいい、と少し安心もしていたのだった。
 だって、俺が毎年夏に観るのは、「汚れた自分を殺したくなる映画」ベスト1、「1999年の夏休み」だからな。それに、俺が中学時代(当然童貞)公開され、前売り買って初日に行き、パンフも買って連続二回も観たのに、監督に対する殺意が湧き上がって来た作品、そう、同じ楳図かずお原作の「漂流教室」程までには酷いことになってないだろうと、これまた安心していた、ってのもある。
 で、肝心の本編は、確かに気違いお父さん・田口トモロヲの顔演技最高だったけど、あの話で大事な残酷描写がいかんせんチープ過ぎて、予算のなさってのがひしひし感じられて、ひたすら勿体なかったね。同じ金子監督の「デスノート」なんかはもっとカネかけてるし(「それであの出来かよ!」という意見も聞いたが、)、それだけに残念。
 それでも、当初監督予定だったのが急逝で立ち消えになった、那須監督バージョンじゃなくて良かったのかも知れない。彼の遺作となった「デビルマン」を、悪名が高すぎる為に、俺は未だに怖くて観ることができないし。でも、観てないモノをガタガタ言うのはフェアじゃないのであまり多くは語らない。まぁ、そういう意味では、見せ場を完全田口トモロヲのみに絞った金子監督の狙いは、効を奏しているかも知れない。もちろん女の子のチョイスにしても、監督の俺節は効いていた。
 かつて「クロスファイア」完成時、ケイブンシャの大百科別冊「2001年度用 芸能界リクルートBOOK」の、「映画監督編」執筆にさせていただいたインタビューで、「女の子が鍵になる作品が多いのはなぜか?」と聞いた俺に、「それはきっと、僕がエッチだからじゃないですか?」と含羞みながら答えてくれた姿が思い出される。
 それはともかく、井口昇監督の「猫目小僧」も観ていない段階で早過ぎると結論だとは思うが、楳図先生が腱鞘炎で新作にお目にかかれないからだとしても、もう、楳図かずお原作作品の映画化禁止!特に“俺”という存在の基礎を作っている、「わたしは真悟」を映画化しようなんて輩がいたら、殺す。(ロバート・ロドリゲスなら許す。)ニューヨーク1997 [DVD]エスケープ・フロム・LA [DVD]トゥルーライズ [DVD]神の左手悪魔の右手 (3) (小学館文庫)1999年の夏休み [DVD]漂流教室 (1) (小学館文庫)デビルマン(3) (講談社漫画文庫)クロスファイア [DVD]猫目小僧 1 (ビッグコミックススペシャル)わたしは真悟 1 無よりはじまる (スーパー・ビジュアル・コミックス)