じじいのファックの気合い。

 P2さんにご招待頂き、「世界最速のインディアン」試写へ。
 62歳にしてバイクで世界記録をうち立てたという、ニュージーランドのオッサンの実話の映画化。監督がリメイク版「ゲッタウェイ」のロジャー・ドナルドソンなんで、どんな話なのか気になったんだ。でも実話ベースだから、ひねりなどはない、ストレートにいい映画だった。そう言うといい加減な評価に聞こえるが、そうとしか言い様がない。久々に観た、悪人の出ない性善説の映画だったんだから。
 それに半分は、必然的なものとは言え、ロードムービーの体裁を採っているので好みのスタイルだ。それにアンソニー・ホプキンス演じるこのオッサンは何とも魅力的だ。当然、そんな年齢で記録に挑もうとする訳だから、少しイカれてる。そりゃ、レクター博士よりはまともだけど。それでいて嫌味のないタフな好々爺なのだ。決して高みからではなく等身大で、人生における叡知を感じさせるので憎めない。だからどこへ行っても当然モテるし、セックスだってしちまう。男の中の男だ。
 いや〜、それにしてもジジイのセックスってのはいいもんだ。とはいえ、いくら俺が変態でも、別に欲情したわけじゃない。それに、あくまでもジジイ。オヤジだと、まだ性欲強そうだから。
 せっかちな若いヤツのセックスも、脂ぎった大人のセックスも、相手の容姿や欲望に囚われ、AVよろしく見る者を欲情させ、消費物としかならないが、老境に差し掛かった人間のセックスは、単なる生の確認作業のようで、淡々と、それでいて切実だ。
 もちろん映画の描写はそんなあからさまなものではないが、俺の愛するブコウスキーのセックス描写を思い出したよ。ガタの来た肉体をむち打つ、応援したくなるようなセックス。山登りみたいな哲学的探求。そうだ、「じじいのファックの方がまだ気合いが入ってる!」なんてセリフも「フルメタル・ジャケット」にはあったよな。まさにその通り。ジジイになってもいない俺たちみんな、まだまだ気合いが足りねぇってもんよ。ちなみに「ゲッタウェイ」のドク・マッコイも、原作ではかなりいい歳だ。一部のジジイは偉大なんだよ。
 本編のオッサンは、無駄を省く独自の哲学も、生活だけでなくそのまま人生にも反映されている。ということは、限りなく実存的な生をバイク同様、走っていることになるな。酒とタバコを止せというのが、俺に言われている気がした。ゲッタウェイ [DVD]ゲッタウェイ (角川文庫)フルメタル・ジャケット [DVD]