スコセッシ+ニコルソン=極上のバイオレンス。

 ワーナー・ブラザーズさんにご招待頂き、待望のマーティン・スコセッシ最新作、「ディパーテッド」試写へ。これは言うまでもなく、早くも新世紀香港ノワールのマスターピースとなった「インファナル・アフェア」トリロジーの第一部を、舞台をボストンのアイルランド系裏社会に置き換えてリメイクしたものである。
 完全映画とも呼べるほどの完璧なアンサンブルで畳み掛ける、男泣き大作だったオリジナルを、果たしてスコセッシといえどもリメイクする必要があるのか?と、一抹の不安もあったが、結果的にそれは大正解で、スコセッシでなければ不可能な必然性に溢れていたのだった。正直、俺はこれほど幸福なリメイク映画の在り方に出会った事がない。
 しかもこれは「スカーフェイス」の様な、往年のバイオレンス映画のバージョンアップ版ではない。かといって、東洋を西洋に置き換えただけの安易なリメイクでもないのだ。話は相似形でありながら、情感において非常に異なり、西洋からの、スコセッシからの丁寧な返歌になっているのだ。それも、最高のキャスティングで。そうは言っても、俺的にはお袋が「デカちゃん」と石立鉄男を呼ぶかのような呼び名で読んでいる人は正直どうでも良く、オリジナルのエリック・ツァンに対し、貫禄、狂気共に大幅にアップした、ジャック・ニコルソンにしか興味がない。しかもスコセッシとは初顔合わせってもの重要だ。
 このキャスティングから分かるように、オリジナルの原題「無間道」に表されるような、内面の葛藤ってのはあまりねぇよ。だから男泣き度は低下かも知れない。やっぱ東洋的な、あのウェットな泣きの部分、登場人物の罪悪感や、底辺に流れる似たもの同士への共感など、あの繊細な情感はアメリカ人には理解できないのか、意図的に排除したのか。多分スコセッシのことだ、計算の上での排除だろう。オリジナルにおけるケリー・チャン的な精神科医の扱いも小さくなってるから、それだけでも男汁濃度はアップしてるとも言える。これでいいのだ!オリジナルみたいに続きをやる気がなけりゃ、この話は女などいなくても成立するしな。
 だから、当然ドライでソリッドな「県警対組織暴力」もかくやといった警察と組織犯罪の全面戦争が描かれる。となりゃもちろんバイオレンス度は急上昇。ましてやスコセッシだけにその一つ一つに手抜きはない。このシナリオに監督、キャスティング。繰り返すようだが、こんな幸せな出会いはない。いや〜、バイオレンスって、本当に素晴らしいもんですね。
 さらにアレック・ボールドウィンマーク・ウォールバーグレイ・ウィンストンといったオリジナルキャラを投入することで、主人公二人の対決だけではない、集団抗争劇としての側面もきっちりフォローし、物語は重厚さを増している。
 しかも結末にも独自のアクセントを加え、その独自性とドライな印象をさらに際だたせている!オリジナルのファンも楽しめる、ってのはこのことだ。しかし最大のオリジナリティは、「ギャング・オブ・ニューヨーク」で、なぜスコセッシは自らの出自と異なるアイルランド系移民に興味を持ったのか、という疑問に、さらに一歩踏み込んだ答えを用意してくれているところにあるように思う。ポルノ映画館への愛着もよく分かったし。でも、「沈黙」(セガールではない)もいいけどさ、早く「東京アンダーワールド」撮ってくれよ。スカーフェイス ― コレクターズ・エディション [DVD]インファナル・アフェア [DVD]インファナル・アフェアII 無間序曲 [DVD]インファナル・アフェアIII 終極無間 [DVD]県警対組織暴力 [DVD]ギャング・オブ・ニューヨーク [DVD]沈黙 (新潮文庫)東京アンダーワールド (角川文庫)