絶望演習としての読書。

 最近は本のことを書いていなかったから、結構溜まってはいるんで、徐々に小出しに。

 永沢光雄著、「AV女優」読了。世の中普通人の面していたって狂った悪人は大勢いるように、AV女優だって仕事でセックスしているだけであって、セックスが好きでも、仕事としてのそれが好きとは限らないし、その淫乱さだって人並みかも知れない。彼女達の価値とは、その美しさもさることながら(もちろんブサイクだっているしな)、普段は隠されていて見渡すことが出来ない、“淫乱さ”という極めて相対的なものを、男が各自の妄想に当てはめさせてくれるところにあるだろう。そして、それ故にそれ以上の価値を持たない為に、あまり省みられない彼女達の人間像に迫った力作である。そりゃ差別されてる世界のことだ。悲惨な境遇故に、駄目人間故に、この世界に落ち着いたって女も当然いる。誇り持って仕事してるように見えても、単なる親への反発心からだったりするような奴も。それでも読んで不快に全くならないのは凄い。著者の視点が優しいからだろうか。だから大半を占めるのは思わず応援したくなる、“生(性)と格闘する”健気な女の子たちの姿だ。AV女優なんていない、って気持にすらなって来る。中でも安藤有里のくだりは、ルックス的には特に俺の好みでもないにも関わらず、とても微笑ましく読めてしまった。

 中村淳彦著、「名前のない女たち」読了。しかし著者が違うとここまで違うものなのか?と一瞬思ったがそれだけでもないことに気が付いた。本書でターゲットになっているのは“AV女優”の“女優”の部分から最も遠いとされる職種だからだ。演技力も、美貌も、極端な話カメラの前でセックスやらウンコやらが出来ればそれ以上の用はないとされる、企画モノ女優である。自分が「女優である」プライドも、「魅せている」自負もない彼女らは、実に取るに足りない理由や、自業自得の転落の果てに、今の地位に甘んじている奴や、そこから抜けられない奴が圧倒的に多い。でもピンで売れる女優が少なからず持っているであろう、インタビューへの気負いや、猫被り的な面がまるでないので、その吐かれる空虚な言葉の数々は、ザラついたリアリティを持っている。中でも極度の肥満児だったことからいじめられ続け、劇的なダイエット後は、女として否定され続けてきた空隙を埋めるかのように、ビデオと風俗を掛け持つニンフォマニア、ひなこの主張が興味深かった。マンコを使う自分が映ったビデオを、見る“男”たちの視線がある限りは、自分が“女”である実感を感じられると言い、その実感に強迫観念として追われている感じだが、屈折していながらも、それは凄く筋が通っていると思ったぜ。しかも、いつも東京闇探検をしているO氏にその話をしたら、撮影でひなこがセックスしているのを見たという…。彼女が目標としているという、いじめた奴らへの復讐はどうなったのか気になる。 

 中村淳彦著、「名前のない女たち2」読了。前作にあぶれた女と、新作インタビューの合本らしい本書は、AV出演を心底後悔しつつ転落していく女とか、真性のキチガイ(スカトロAVなどに出演はしても、変態ではない)などの女が登場し、さらに陰惨な内容となっている。しかも、風俗嬢に毛の生えたような存在で、事実撮影のない時は風俗嬢をしている者も多いし、掛け持ちで売春だって当然してる頼もしい存在が集まっている中でも、今回はビデオ出演すらしたことがない女も含まれている。著者の辛辣なツッコミと、生来のバカ女との応酬が概して多いんで、俺的にテーマを立てて読んでみた、「女に絶望するための三部作」の末尾を飾るのにふさわしい痛々しさだ。だがそれだけに、イイ話の箇所はストレートに響いてくる。バツイチ四十路の出張風俗嬢の話など、涙なしには読めんな。といっても彼女の転落の過程ではなく、客にとった障害者との切実なやりとりにおいてだ。障害者の性欲処理について常々タブー視せずに正面から向き合わなければ行けない問題だと考えている俺には、仕事でもそれを果たしている彼女の姿が突き刺さった。でもなんでそんなことに俺が囚われているかって?それは一応健常者の俺でさえ持てあましている様な性欲を、障害者の人が々向き合っているのか考えるだけで気が狂いそうになるからだ。もう狂っているのかも知れないが。
 
 一連のこうした本を読み、金銭の授受があるセックスがそこら中で行われている現実を見れば、俺の持論である売春は合法化すべきであるとの念は余計に強まるな。AVだって売春だろ?ソープの中で行われているのは売春ではないのか?買う奴を捕まえても売る女は後を絶たない。なら、欺瞞の中で規制しているのは卑怯だろ。綺麗事抜きに透明化すればいいのさ。話がそれてしまったが、「〜2」ではその他に“りん。”という女による、自傷行為の一環としてのハードな変態プレイ、それを提供してくれる場としてのAV制作現場、という主張は、それが彼女の詭弁であったにしても、行き場のない人間の受け皿としても、こうした場が機能していることを教えてくれる。だから余計、グレーゾーンにしてはいけないと思う。彼女たちは憐れむべき存在ではないし、憐れまれることも望んではいない。でも、底抜けに哀しい本たちではある。AV女優 (文春文庫)名前のない女たち (宝島社文庫)名前のない女たち 2 (宝島社文庫)