下ネタに代表される、視覚の説得力つながり。

 東芝エンタテインメントさんにご招待頂き、「蟲師(むしし)」試写へ。俺は原作のことは良く知らない。それでも大友監督が、自らの企画は多くあるだろうにもかかわらず、敢えて他人の原作作品を、しかも実写でやろうと思ったのか?という動機が知りたかったが、そのことについては一目瞭然である。ロケーション多用で、国内に本当に奇跡的に残されている自然の風景を、物語上の普通の風景として多用しているからだ。これがやりたかったのかと膝を打つ。恐らくは原作自体が、そうした実写化に関して難易度の高い風景描写が多いものなのだろう。それをクリアして実写でやることで、とてつもない説得力を物語に与えることに成功している。それができなければ、本当はマンガの実写化なんてやるべきではないんだ。それは昨今の粗製濫造が目立つ、映画(特に邦画)やドラマに対する静かなアンチテーゼに見える。加えて、そうした原作ありきのものであることを除外しても、江角マキコの超熱演と、蒼井優の可憐さは、俺の従来のイメージを一変させるのに充分だった。だからといって俺が魅了されたのはこの実写の説得力なので、原作をわざわざ読もうとは思わないが、逆を言えば原作ファンが抱くビジュアルイメージ的には完璧であると、一緒に行った原作読者の友人は言っていた。だから原作読んでる奴は間違いなく必見なんだよ。


 一観客として、「ジャッカス/ナンバー2」へ。チンコ、ウンコ、ケツの穴、キン玉、チン毛、ゲロで笑いを取ろうとする姿勢は非常に正しい(俺は他人にケツの穴を見せたとき、ケツの穴が「かわいい」と言われて笑いに繋がらなかった。悔しい!「かわいい」ケツの穴なんてあるか!)。そうして笑いを取るのは安易だと軽蔑しながら、自ら手を汚してそうした行動から笑いを取ろうとする奴が少ないからだ(それだけに、石井輝男の「直撃!地獄拳」シリーズや、70〜80年代の香港映画のギャグは偉大!フケと鼻クソ入りのコーヒーに酔え!)。それに、世の中で笑えるものなんか、それ位しか無いじゃねぇか!それは真理だと思うし。一番効率よく大多数の人間を笑わせるには何が良いかを、よく考えてみるといい。そのことを改めて気付かせてくれる身体の張りよう。これは犠牲的精神だぞ。下らねぇボランティアや人助けに身を砕くのとは訳が違う。本当に役に立つことなんだ。世の中、笑えりゃ全ては許されるんだ。それが唯一の法律だ。生まれも育ちも関係ないんだよ。気付いてた?この世の人殺しが断罪されるのは、それが笑えないからだ。笑える人殺しがいれば一切罪に問われないから、誰か試してみなよ。でもそれは生半可な努力では成し得ないけどな。だって誰も人類史上成功してないんだ。まぁ、そんな事はメンバーは全く考えていないと思うが、何も考えない、それも大事。この無意味さの蓄積に意味を持たせる、というのは大いに共感するし、ウンコ臭えのじゃなければ、現場でも俺は大爆笑できること必至だ(そうした確固たるポリシーが根底にあることが、ジョン・ウォーターズをゲスト出演させたりするところからも伺える)。別にウンコ臭くても良いけど、臭いのも笑い繋がるからな。俺の持論として、面白くなくても人間が笑う瞬間とは、臭え時と寒い時だからな。そういう意味でも、ストレートな意味でも、笑いすぎて疲れるから覚悟しておくように!そして、オッパイはともかく、マンコに言及しないのも潔くて良い。マンコは笑えねぇんだよ、単純に。仮に臭くても笑って済まされる話じゃない。怒りがこみ上げてくるからな。


 ポール・モネット著、「スカーフェイス」読了。本書は古本屋で発見して即ゲット。ようやく読むことが出来た。凄く読みたかったという訳じゃないけど、思い入れのある映画があって、そのノヴェライズがあるというなら、嘗んでおくべきもんだと思っているからだ。あくまで嘗み。俺の中の優先順位はそれ程高くはない。まして、これは原作ではなくノヴェライズだ。原作ならば、作者のメッセージと映画作家の解釈の違いから、原作に置き去りになっている部分を見つけることで、よりその映画の根本を知ることができる。対してノヴェライズは、映画、というか、そのシナリオありきなので、そこに自然な形でなされた肉付けを見ることができるし、シナリオの隙間にリアリティを強めるための要素を盛り込んだりと、読むことが、ノヴェライズ作家の職人芸を見る作業という違いがある。作品であることに軽重はないが、映画を起点として触れるに至った作品に対しては、俺が個人的に重視しているのは原典なので、読みたい欲求はこちらの方が強い。とはいえ、思い入れのある映画にまつわる本だ、立派に息抜きを努めてくれた。とりわけ、トニー・モンタナのキューバ時代が描かれていたことは、今後もこの作品に触れる上で、より深く血肉にする為の助けになった。あとがきによると作者、モネットは他に「吸血鬼ノスフェラトゥ」のノヴェライズ(←「〜ノスフェラトゥ」自体が、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」のパクリなのに、そんなものがあるとは驚きだが、恐らくキンスキー・バージョン)を手掛けているらしく、「スカーフェイス」もクラシック作品「暗黒街の顔役」のリメイクだということを考えると、適切な人選かも知れない。そして「〜顔役」のモデル、アル・カポネ(「仮面ライダーX」の敵、GOD機関がその死体で怪人“アリカポネ”に改造するくらい偉い人)が活躍した時代は、奇しくも「〜ノスフェラトゥ」と同じ時代なのであった。直撃!地獄拳 [DVD]ジャッカス コレクターズ セット [DVD]ジャッカス・ザ・ムービー 日本特別コメンタリー版 [DVD]スカーフェイス [DVD]吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)スカーフェイス (集英社文庫)吸血鬼ノスフェラトゥ [DVD]ノスフェラトゥ [DVD]暗黒街の顔役 [DVD]