アフリカを汚した奴らの正体。

 ワーナー・ブラザーズさんのご招待で、「ブラッド・ダイヤモンド」試写へ。
 立て続けに公開されるディカプリオ作品の第二弾。最近はいい仕事の選び方をしていると思うが、まだまだ日本では正当に評価されているとは言い難い。しかし、今回はルックス的にも一種の“くたびれ感”が「ディパーテッド」以上に漂っていたのはポイントかも。トレーラーから娯楽要素の強そうな話とも思っていたが、実は超社会派で、その骨太さも大いに驚かされた。これでエドワード・ズウィック的にも「ラスト・サムライ」の失点は回復だろう。
 シエラレオネの反政府ゲリラが国民を拉致し、ダイヤなどの鉱山で働かせ、それを活動資金にしているというのは、前にも聞いた事がある。民衆に支えられて革命を成し遂げるゲリラ像とはかけ離れた情けない姿だが、宝石・貴金属など、そうした背景抜きにはそもそも語れるものではない。
 大体女が欲しがる高価なモノというのは基本的に血塗られていて、男にそれを手に入れさせる事でその気持ちを推し量ろうという残酷な心情の象徴である。もちろん、ただその物質を、価値の象徴として欲しがるだけの「ほしがり人間」(by梶原一騎)というアホもいる。
 それは歴史が証明しているし、男は究極的にはその為だけに死と暴力を撒き散らして来た(そしてその暴力は、結果的に人類を発展させて来た)。全ては血塗られていることが前提である。問題はそれに気付かない人間の愚かさだ。
 それでも本作の意義深さは、その問題に付随した、少年兵士の問題にまで言及している点にある。この問題は、これまでアメリカ以外の映画でテーマとされて来たり、ドキュメンタリーで取材されたりはしていた。だが、最も少年兵士の問題が多発しているアフリカを舞台に、その問題の告発を兼ねた劇映画になったのは初めてのことだ。この問題が気になる人間は当然調べて知ってるので、知らない人間こそが観るべき作品といえる。一応謎解き要素や、悲惨な世界で弧高の美しさを振り撒くジェニファー・コネリーが堪能できるので、ディカプリオに興味がなくても楽しむ要素はふんだんにある。加えて暴力描写も、登場する人間が薄着が多いせいか、人体に着弾して穴が空く所など手抜きがなく、ディカプリオも非情なキャラに徹することでその演出に一役買っている。特に市街戦でのRPG乱れ撃ちは「トゥモロー・ワールド」以来の激しさ。
 とまぁ、これらの見所で作品にのめり込んでいくうちに、少年少女のうちから家族と引き離され、あるいは家族を殺され、故郷の人間を殺すことに荷担させられ、故郷に帰ることもできず、弾丸除けで最前線に送られ、逃げれば味方のはずのゲリラに狙い撃ち、逃げなければ麻薬と暴力でどんどん洗脳されて恐怖は麻痺し、いっぱしの殺人マシーンとして完成した、少年兵士という恐ろしい現実にブチ当たる。映画では描かれていないが、当然この少年(少女)兵士たちは、同時に性の奴隷でもあるだけにより悲惨である。
 「ブラックホーク・ダウン」あたりから、欧米より悲惨な話が転がっているために、アフリカ映画化ブームなのかも知れないが、本作はの独自性と志の高さは、この現実にブチ当たった時に痛感されるだろう。


 その外堀を埋める事実の蓄積として、以前から気になっていた「ダーウィンの悪夢」へ、一観客として観に行く。
 タンザニアの湖に誰かが魚を放流し、その魚を資源とした地場産業は栄えたが、結局加工コストがかかる為に、地元の人の口には決して入らず、何らかの形でその魚関連の仕事に就かなければ生きては行けない様になる。当然あぶれる奴は圧倒的に多く、新たな貧困の拡大、漁業従事者や外国からの魚の輸送に携わる人間への売春の蔓延、当然おまけで広まるエイズ、環境の悪化、ドラッグ、ストリートチルドレン、等々。負の要素が釣瓶打ちされていく。
 これだけでも、病草紙や餓鬼草紙に描かれたのと同じ世界が、現実にカメラの前で展開しているという時点で、充分に衝撃的なのはもちろんだが、さらには、魚を搬出する輸送機が、アフリカ各地の内戦に使用される銃を運び込んでいるらしい、という疑惑(明言はされていない)まで浮上してくる。 だが、そうして運び込まれた銃が、少年兵士の手に行き着くことは、「ロード・オブ・ウォー」などを見ても明らかだ。
 実際の作品は説明が少ないので淡々とし過ぎている所に難ありだ。せめて今画面に登場している人物が何をしているのか、その程度の説明は欲しかった。
 例えば、ストリートチルドレンの使用しているドラッグの種類、その用法は?とか、劣悪極まりない環境から、廃棄された魚の頭を拾ってきた人たちが、そのウジ虫だらけの魚の頭をどのように二次利用(調理法)するのか?など、多くの疑問も残るのだ。
 だからナレーションを入れるなどして、いっそのことヤコペッティ的な、露悪性重視のモンド・ドキュメンタリーに徹した方が、ヤラセに陥る怖れはあるものの、観客の下世話な興味にも応えられ、逆に問題提起の力は大きいのではないかと思った。タイトルも「SM大陸マンダラ」や、「魔の獣人部落マジアヌーダ」みたいに良いセンスしているのだから、これは勿体ない。
 だが、醜悪で悲惨な現実だけでなく、所々、胸を打つような美しい景色も切り取られてゆく。そこに被さる“人類発祥の地”というスーパーが痛切だ。そうだ、ここは人類発祥の地で、本来は資源の宝庫なんだ。生命発祥の地である海と同じ事。そんな人類の海、アフリカを汚した奴は誰だ?との想いに突き当たる。さらに、どこまでこの地に負担を強いればいいのか?との想いに。
 発端はもちろん白人に決まっている。彼らはアフリカ人を無知蒙昧と見なし、この地を暗黒大陸と呼んだ。実際はもちろんそうではなかったが、現在はその意味を逸脱して、人間のあらゆる負の要素が集約されている意味での(ノワール的な)暗黒大陸となってしまった。アフリカこそ、21世紀のノワールの舞台に相応しいのかも知れない。そして、今やアジア人もカネを彼らに渡し、その暗黒化の片棒を担いでいるのだ。それは巡り巡って、少年兵士を製造しているのも我々であるということに他ならない。手はもう、汚れきっているのだ。知らん顔する前に、まずそこから考えよう。ラスト サムライ 特別版 〈2枚組〉 [DVD]ブラックホーク・ダウン スペシャル・エクステンデッド・カット(完全版) [DVD]トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション [DVD]ロード・オブ・ウォー [DVD]魔の獣人地帯マジアヌーダ [DVD]