わがタイラー・ダーデンの正体。

 相変わらず上階でオマンコばかりしている男がいる。明け方、あまりにもうるさいので天井をつつくと、意外なことに逆上して訳の分からない怒鳴り声を上げながら、床を数人がかりで激しく叩き返して来やがった。そう、善人ぶって引越時にタオルなんか寄越してきたコイツは、フィストファックも満足に出来ない、ただの気違いだったのだ。毎日スーツを着て出勤している、このジャパニーズ・サイコ(しかも日本人で一番多い名字をしている、犯罪者特有の没個性的素性)の極めて異常な振る舞いに、警察を呼んでもいいとは思ったが、警察自体の動きを信用していない上、順序として大家に言った方がいいと思い、相談すると、週末に上階を訪問し誰からの苦情とはいわずに対処するという。とはいえ俺が言ったというのはバレバレな気もするが、とにかくそうしてくれるというのだから任せるしかない。だが問題は、相談自体を敬遠していた理由としても大きいのだが、大家が80過ぎの老女ということだ。お手並みを拝見するしかないが、上階の気違いがさらに逆上して俺に危害を加えようなどとするようであれば、この記述も最後になるかも知れない。というくらいの悲壮な覚悟を持って生きたいモノだな。従って、この更新が二週間以上経っても進まぬようなら、間違いなく上階の気違いの仕業だぜ、マジで。


 一観客として、「ボラット/栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」へ。ヒゲ割引があるので、愛蔵していたヒゲシールをうっかり使いそうになるが、自粛し黒ビニールテープで代用。黒く塗った厚紙を、輪にしたセロテープでつけてヒゲダンスを真似していた時(25年程度前)より、明らかに狡猾になっている自分に気付く。お前、ヒゲ生やしてんじゃん、って向きもあるかも知れないが、これは写真用に無理矢理“生やした”のだ。下らんイラストや、アイドルやモノや風景の写真、ましてやアバターなどで自分を偽る気はなかったから。言いたいこと言うからには、出せる範囲で自分を出しておくのが礼儀と思ったのだ。よって、基本的にヒゲはない。そんなことはどうでも良いが、結局この映画、現時点では今年一位だな。実際公開は去年の映画なんだけど。以前から「アリ・G」でその存在は知っていたし、もちろん「アリ・G」にもボラットは出てくるが、サシャ・バロン・コーエンがここまで危険なコメディアンだとは思わなかった。それほどの超過激コメディ。そして、アメリカの大半を占める田舎者がどの程度バカかを実証する極上のドキュメンタリー。そして、差別・下ネタ・暴力しかない最悪のドッキリが詰まっている、恐ろしくも笑える映画。予備知識がないと、映画そのものにまで騙されちまうぞ。


 エルモア・レナード著、「バンディッツ」読了。「キャット・チェイサー」でドミニカが描かれたような形で、今回はニカラグアが描かれる。当然、アメリカに渡ってきた極悪人は、主人公と戦うことになる。が、舞台はマイアミじゃなくニューオーリンズ。そして「キャット〜」の様に今回の主人公は元海兵隊でも何でもない。前科者の葬儀屋と、元尼僧。この軍事的に無力なふたりが極悪人を出し抜くからこそ痛快で、その痛快さの補完に今回は意外なスパイスを持ってきた。読むだけで超個性的なルックスとキャラに笑みがこぼれてしまう男、フランクリン。これは映画化するならルイス・グスマンに是非演じて欲しいな。そんなキャラがピリリと物語を引き締めるからこそ、今回のレナード節は政治色が濃いし、とりわけレーガン政権に対する批判めいたメッセージが強く流れている。


 伊藤文学著、「『薔薇族』編集長」読了。俺はゲイではないが、そのカルチャーに興味はある。こういうと経験したいのかと思われてしまうが、その気は全くないし、一ストレートして観察したいだけだ。かの有名な雑誌を創刊した著者もストレートだというが、いくらエロ本出版に造詣が深くても、ここまで入れ込むというのは感動的だ。まぁ手前味噌な部分だってあるだろうし、極端に話半分で見てもいいエピソードもあるのかも知れない。でもこれはこれで、そうした下世話な知的欲求に対してだけではなく、一つの雑誌が完成し、文化の一潮流を為していく過程として、単純にスリリングだ。そしてその情熱の源は、やはり差別される者への共感、というものがあるに違いないし、それがこの灯火を持続させ、これからも支持されていくに違いないと信じている。敵の敵は友だし、世間から差別される“=世間から裏切られる”事だと考えているので、イコール、裏切られた奴はみんな俺の仲間だし、裏切る奴はみんな俺の敵だ。そして敵は倒そう、ということだ。


 また、我々は個々の点として、この寄る辺ない荒野で、絶え間ない悪意に晒されているということはよく分かるな。そもそも、宇宙は悪に満たされているのだ。もちろん、だからこそ、愛や家族は大事なのだということも。それらが予め、“無い”ものであったとしても、見えた気になったなら、そこから離れないことだ。離さないことだ。ファイト・クラブ 新生アルティメット・エディション [DVD]アメリカン・サイコ〈下〉 (角川文庫)アリ・G [DVD]バンディッツキャット・チェイサー (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)キャット・チェイサー [DVD]『薔薇族』編集長 (幻冬舎アウトロー文庫)