Wet dreamが呼んだ映画ども。

 かつて俺に淋病を伝染させた、イタリア系オーストラリア人留学生、ジョセフィーナ。彼女は食い詰めた某お笑い芸人がプロデュースする、外国人女性を集めたクラブに就業するために、再度日本に戻ってきた。
 俺は、俺の、死んでしまった天使たちの中でも、俺を菌床として、生殖にも匹敵するウィルスのやりとりをしてくれたと言うだけで、とりわけ偏愛している。
 さらには、彼女と知り合う過程に出会った、六本木の仲間たちが、10年前に遡り、10年前の俺が、今も俺の中で成長を続ける、あの女に会わないように、とり計らってくれるのだった。
 出会ってしまって、俺が深刻な脳病に冒されている、多元宇宙の果ての現在は仕方がないので、これはこれで、現状を探る手助けをしてくれるが、女は俺の脳内にいるだけでなく、現実には精神病院に拘禁されており、その院長の娘である仲間の力をもってしても、救出は不可能な最厳重警備病棟に、これまで数々の男を殺してきた罪科から(治療は不可能ながら、犯罪抑止の目的もあり)、入院させられていたのであった。
 俺は空を飛んで、上空からその収監を確認した。


 そんな夢を見た翌日、一観客として、「ルネッサンス」へ。白と黒。ノワールの世界を象徴的に表すのにこれほど適した色彩もないだろう。だが、この二色を、単に対比と言うだけで使うからにはそのノワールの世界に深みはなくなる。故に、表現者にとっては挑戦しがいのある表現手段であるし、同時に現代におけるモノクロ作品のように、敢えて現代でその手法をとる意味のあるものに昇華するか、単に雰囲気作りのみの採用に堕するか、慎重さが問われる繊細な表現手段だ。しかしそこでこの作品はこの表現手段に作品そのものを埋没させることで、その違和感や雰囲気重視という偏見を上手く回避している。しかもSF。近未来のヨーロッパ。完全ではないが異世界。その世界観とノワールはそりゃ相性いいに決まっている。でも、その異世界だけに、露骨に込められた日本のアニメへのオマージュは、俺にはあまり嫌味には感じなかったよ。最後に主人公の行動原理を根本から否定するの(主人公にとって都合のいい結末の拒否)も、実にノワール的で小気味いい。良くまとまっているので、この手法でもっと闇を深めた次回作に期待。


 それとは別に、映画の日にも行っており、でも、組み合わせの悪さやら、体調不良などが重なり、たいしてこなせなかったのであった。


 その一本目に、「ファウンテン」へ。以前から、その観念的な内容から、賛否両論の嵐とは知っていた。でも俺的には非常に好感が持て、観賞する側の思い入れ次第では素晴らしいと感じた。勃起はしなかったが、泣いた。つまり、思い入れへの余裕を残す意味でも、内容は観念的となっていると言える。もちろん、それだけではなく、人間にとって愛とは?生命とは?というテーマに、答えは出ないながらも真摯に向き合っている点だけでも評価はできる。愛する誰かを失ったとき、自分の中で欠落した部分が流れ出すように、何でここまで涙が出るのか?という素朴な疑問に答えるかのように、身も世もなく泣き崩れるヒュー・ジャックマンが良い。コワモテ男がそうなるから説得力があるのだ。ブラッド・ピットじゃなくて正解。しかも、夫であり監督でもあるダーレン・アロノフスキー視点としても撮られている(様に見える)ので、レイチェル・ワイズがこの上なく美しく撮られているのも重要だ。しかし、配給会社も宣伝に困ったらしく、結局ラブストーリーとして宣伝されていたため、それを期待して来ていた女どもは、明らかにどう受け止めていいか戸惑っていたのは笑った。それにしても、次は「子連れ狼」撮るんだろうな、早く撮れよ。


 二本目は、「傷だらけの男たち」へ。「インファナル・アフェア」の監督、一部スタッフ、キャストが重複とあらば、観ないわけには行かないだろう。しかし、この作品の出資元は、一部日本の金が入っており、その日本のカネは、俺がもう十五年ほど仮想で敵と見なしてきたところから出ていた。つまり、汚れたカネだ。それでもこうした輩はカネだけ出していれば無害な存在なので、監督の自由な創作がされていれば、俺としては問題なく、事実大筋ではそうであった。但し、対決と因果を描いていた「インファナル〜」とはまったく別の作品なので、同じような要素を求めてはいけない。特に、メインキャストのひとりは、繊細な演技が出来ないことでは定評のある、金城武だしな。それをおいても、突発的な暴力描写における、監督の瞬発力は半端ではなく、且つその要求に応えるトニー・レオンはそれを上回ってあまりあるほど素晴らしい。しかも、「インファナル〜」のヤンとも正反対な役柄を、恐ろしくクールに演じきっている。それだけでも観る価値はあった、と感慨に耽っているところに、汚いカネの持ち主が、物語の質など考えず、「目と目の離れた日本の女」の歌をタイアップで投入しろと、破廉恥な要求をしてきたらしい。事実、そこで全てがぶちこわしになるので、監督も辛かったとは思う。同情するね。


 従って、そのせいで大幅に体調を崩し、映画の日は終了。


 そして、どうにも違う地域でやっており、しょうがねぇので、別の日に一観客として、「アドレナリン」へ。俺がもしホモなら、最も偏愛するであろう男臭さを持つ、ジェイソン・ステイサム主演だけあって、「トランスポーター」的スタイリッシュ・アクションに加え、ソリッド・シチュエーション的なスリラーも入った、そこそこ完成度も高い小品かと思ったら、完成度が低いことはないが、かなりバタバタと忙しいバカ映画であった。アドレナリンを出し続けていないと死んでしまう毒を打たれた殺し屋。これだけで一本成立するアイディア勝利だし、故に先述のように完成度が低いことはないが、普通に撮っていればイイものを、MTV風の鬱陶しい画面の切り替えと、ケレン味の効きすぎているカメラワーク。これがいちいちウザく、そうした演出の面で本当に損をしているように思う。興奮状態を維持するために徳用インヘラー吸いまくったり、青姦したり、カーチェイス中に女にフェラさせたりのアイディア満載の努力も、いちいち残酷で素敵な暴力描写の数々も、全編に渡り画面がうるさいので、これでは生きてこない。でも、劇中まさしく“現在の”アメリカ人が、アラブ系の人々に抱いている偏見を具現化した、非常にセンシティブかつ露悪的な場面があり、そうした小ネタが効いているところは、嫌いな映画じゃないと言えるが。〈COLEZO!〉ビクター流行歌 名盤・貴重盤コレクション(11)決定盤 子連れ狼ルネッサンス (Shopro world comics)インファナル・アフェア 3部作スペシャルパック (初回生産限定) [DVD]トランスポーター&トランスポーター2ツインパック<初回限定生産> [DVD]