浦島太郎みたいに、「俺、16年ぶりの帰還。」+暴力男根映画評。

 前々回書いた事を冷静に読むと、誤解を招くのでちょっと補足しておこうか。
 それは俺の中の怪物についてなんだが、俺はこのウンコ人間への言及を通して、自分が「超人ハルク」のようだと言いたかったわけじゃない。
 むしろ俺はこれ以上ない非力な存在であるが故に、怪物が発動したら、それはもう目の前の敵を殺す事でしか収集が図れないであろうということだし、それだけの憎悪や怒りを小出しにもしてこなかった事で、その凶暴性は濃縮圧縮されてここにあるが故に、危険であるということを記録したかったに過ぎない。別に好き好んでトラブルを起こしたいわけでも、トラブルが起きるたびに歯止めが効かなくなるということではない。むしろそのスイッチが何をきっかけに入るのか、仮にスイッチが入ったらどうして解除すればいいのか。俺自身分からず、それに恐怖しているだけだ。くれぐれも誤解のなきよう。


 あと、たまたまここを覗いた人には関係がないが、ここを某SNSとリンクしないポリシーを曲げ、リンクしたのには理由がある。以下理由。


・ケツが痛く、外出する気力がなくなってきたため。よって、人と会わなくなる生活パターンになってきた。


・唯一コンスタントに外出する食い扶持稼ぎのクソ仕事で、嫌がらせの度合いが強まり、辞めようと思っているため。よって、社会とのつながりが絶たれることが懸念される。


・ケツの手術に伴い、肝細胞の破壊が起きていることが発覚したため。よって、しばらくは酒も飲めず、普通の痔の人間でも入院期間含めて一ヶ月禁酒というところが、痔の治癒は別としても、飲酒の再開に目処が立たない。


・無期限の断酒により、今まで飲酒で形成されてきた人間関係が全て絶たれるため。よって、当然飲みにも行かなくなる(行けなくなる)ため、もう本当に誰とも話もろくにする場がなくなる。


・誰とも会わなくなるので、“人間”から一個格下の“人”って単位に脱落する事で、よりキチガイになる恐れがあるため。よって、これ以上狂って周囲に面倒をかけたくはないので、最低限くい止める場として、情報を広汎に公開すべしと考えた。


 今、事実上飲んでいない。飲んでいないために苦しいし、何をしても楽しめないし、テンションはいつもどんより曇っている。地べたを這うような状態だが、冷静に考えればこれは禁煙などと同様に「戻ってきた」だけなのだ。
 俺は18歳(高校三年)頃から、ある程度酔うと自覚するまで飲んだのに始まり、以来ほぼ休まずに飲み続けてきた。とすればそれ以前の高校時代に精神性は逆戻りした状態に今あるわけだ。精神年齢とか、蓄積してきた知識というのとは別に、精神の状態として戻ってきたということだ。
 そして、これが大事なことなのだが、俺は戻ってくる前の状態をよくよく思い出してみると、童貞だった。俺が童貞を捨てたのも18歳だったが、酒を飲み始めた後だったのだ。つまり、俺は俺の精神性も童貞に戻ってしまったのではないか?と危惧している。
 しかし、女に変な幻想を抱いたり、センズリばかりしていたり、とかそういうことではない。心は既に死んでおり、誰かを想うことも出来なければ、想うべき相手も存在しないので、素人相手のセックスをする事はできないし、する気にもなれないが、風俗に行こうと思えば行けるわけだ。
 ところが痔の痛みによるテンション低下、患部への細菌感染、等を考えると、とても専念できそうにない。つまり、檻に閉じ込められ、その状態で童貞に戻り、おまけにこじらせてしまったということになる。痔を招いたのは己に非があるのだろうが、そこの唯一の発散の場であった、と同時に存在を許されない罪悪感を軽減する唯一の場であった飲酒が絶たれたことで、俺はこれからどうなっていくのだろうか。ここではその変容についても、これから記録していきたい。童貞に戻れたのは貴重な経験だと思うが、今の俺にとって吉と出るか凶と出るか。
 おそらく、精神的には快方に向かわないと予想するが、その点はなるべく客観性を保って観察してみたい。入院中にも更新はするつもりだ。


 あとはクローネンバーグ作品への考察を。


 日活さんにご招待いただき、「イースタン・プロミス」試写へ。喜ばしくも、間を空けず放たれたデヴィッド・クローネンバーグの新作だが、テーマはまたも、前作同様“暴力”である。やはり前回テーマを消化し切れたとは言えないだけに、必然的に日常発、暗黒街行きという、前作を深化させた展開となった。
 外注でも常にこうした“テーマ設定”がクローネンバーグ作品には重要だが、同時に、テーマのための“描写”を重視する監督でもある。よって、その点では確実に前作を軽々凌駕した。組織犯罪が公式に否定されていた旧ソ連からの伝統を匂わせ、かつ銃社会でない英国に進出したロシアン・マフィアが行使するのは、刺したら、“抉る”、斬るなら、“刃を往復させる”、徹底した刃物による“静の暴力”だからだ。本作でこのスキル披露に使われる主な得物は、フックナイフという本来非対人用の刃物だが、東南アジアが源流の「カランビット」と呼ばれる戦闘用ナイフと形状が酷似しており、プロの道具選びとして説得力充分だ。
 刃物の説明はさておき、刃物しか使わない犯罪映画を日本人は既に知っている。それは要するに、アウトロー時代劇や、仁侠映画そのものだからだ。「イースタン・プロミス」とは、劇中におけるロシア〜東欧ルートの人身売買コネクションおよび、契約を指す隠語だが、“東の果て”である我が国においても、かつての“お約束”ジャンルの再来として、決して洒落ではなくタイトル通り機能するはずだ。本作がクローネンバーグ史上、極めてノーマルな作品として観賞できるのも、シンプルな物語と相まって、こうした日本の映画的伝統と無縁ではない。
 また、こうした描写で最大の目玉が、刃物対、フルチンのヴィゴ・モーテンセンとのサウナでの立ち回りだ。「レッドブル」、「マキシマム・リスク」、「アクシデンタル・スパイ」等、チンコ出しスレスレのサウナ乱闘はアクションでは枚挙に暇がない見せ場だが、これはアクション映画ではない。さらに前作から連続登板となるモーテンセンは、新世紀で無修正になる一方のチンコ丸出し描写を揶揄し、振り子のようにキンタマをブラブラさせて素手で応戦する。近年の無修正チンコ描写解放の端緒は、恐らく「ファイト・クラブ」だが、対する無防備なオマンコは極端に少ない。時には物笑いの対象にすらされるチンコを軽視する事で、その実態は隠されているのだ。また、そうした非ポルノにおける、勇気あるオマンコ表現の試みは、近年ではビル・コンドンの「愛についてのキンゼイ・レポート」程度ではないだろうか。
 しかも、刃物による去勢を拒否するように、モーテンセンは向けられた刃で刺客を皆殺しにする。刃物自体が勃起したチンコのメタファーとは言うまでもないが、フルチン男が、丸腰で凶刃をねじ伏せるというのは、今やクローン技術が確立され、その生成に男という性が不要になった現代においての、クローネンバーグなりの認識が潜在的にせよ炸裂していると解釈したい。本作はノワールの成りをした、男性性(父性)復権男根主義的な物語でもあるのだ。さらには、見せ付ける事で「無修正の女性器の解放(=男性差別の是正)」も訴えており、今までも常に性器を想起させる描写に抜かりなかった監督ならではの主張と言える。そのせいか、人身売買の標的となるはずの女優陣は、ナオミ・ワッツをとっても、必要以上に深い人物造形はされていない。
 対して不能かつホモを匂わせる故に、組織の二代目、ヴァンサン・カッセルのチンコの出る幕はなし。これは父親演じるアーミン・ミューラー=スタールの父性と哲学を包含した面魂と好対照で、物語で重要な意味を持つ。クローネンバーグ作品で不可分なのが、その世界を象徴する男優論だが、その点もカッセルは、かつて類似の役を演じた「バースデイ・ガール」と同様、憎めない短小演技に徹する。彼は「ドーベルマン」出演時、“フランスの松田優作”と勝手に日本では呼ばれたが、この二作を観る限り、“フランスの山田辰夫”だったのだ。
 また、モーテンセンは盃事で、再度裸で奴隷の品評会のごとくその刺青を晒す。ロシアン・マフィア自体が伝統として、身分や犯罪歴を全身の刺青から相互に読み取るという文化を持っているとされているため、モーテンセンの刺青は「文身」とも書く字義通り、様々な御託が刻まれている。だが、実は刺青の彼など別に目新しくもなく、理不尽な暴力性を存分に発揮する、ショーン・ペン監督デビュー作「インディアン・ランナー」で披露済みである。作品自体の完成度は別として、「ロード・オブ・ザ・リング」が彼の代表作などではない。以前のモーテンセンには「カリートの道」や、「ヤクザvsマフィア」等の強烈な前科(即ち、ヒストリー・オブ・バイオレンス)があったのだから。彼は“こちら側”へ「王の帰還」を裸で証明しているに過ぎないし、さらに年輪を重ねた肉体から気だるげな安堵をも滲ませるのだ。
 そんなモーテンセンの過去があっても、今回の文身は、むしろそれ自体監督の裏メッセージとしても機能している事によりブレがない。特にチラ見できる蜘蛛の図柄にその傾向は顕著であろう。これはレイフ・ファインズの強い要請で過去に監督した、「スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする」に続き、「外注作品」を示す刻印とも受け取れるが、結果としてそうした仕事の一切を、全て自分色に染め上げてしまうのがクローネンバーグの偉大さだ。故に、ぶら下がったモーテンセンのサオもタマも、チンコそのものが監督自身の主張なのである。超人ハルク TVパイロット (ユニバーサル・セレクション2008年第8弾) 【初回生産限定】 [DVD]ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]ASIN:B00130HI56[rakuten:sekinohamonoya:646252:image:small]レッドブル [DVD]マキシマム・リスク [DVD]アクシデンタル・スパイ [DVD]ファイト・クラブ (ベストヒット・セレクション) [DVD]ドーベルマン [DVD]インディアン・ランナー [DVD]ロード・オブ・ザ・リング ― スペシャル・エクステンデッド・エディション [DVD]ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還 スペシャル・エクステンデッド・エディション [DVD]カリートの道:スペシャルエディション [DVD]ヤクザvsマフィア [DVD]スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする [DVD]愛についてのキンゼイ・レポート [DVD]