出たが、出ない。でもひり出したもの。

 入って、切り刻んで、出てきたよ。結局、入っているうちは一度も更新は出来なかった。驚いた。痛み止めを飲みながら、書くか読むか以外のことはしていない。他の事は考える幅を持たなかった。それほど痛かったし、今も痛え。痛いのは、結局切れ痔をかばうために肛門が狭窄していたとの事で、切れ痔の補修以外に、一部括約筋の切断によるアナル拡張が行われており、どうもその施術により通常の痔の手術だけより痛みが増すらしい。
 しかし、これでカヌー遊びに山に出かけ、山男とトラブルになってケツの穴を犯されても、拡張しているので屁の突っ張りにもならない。橘組に逆らったことで、組長の腹心・赤寺にカマを掘られても平然としていられるだろう。間違ってもテレビ生放送中に、そのことを指摘されても、拳銃を乱射したりなんかしない。正直、稚児にされるよりあんな朝飯に付き合わされる方が嫌だ。一応、治ったら、誰でもいくらでも犯しやがれ!と言うだけ言ってみる。
 しかも、本来の予定を二日上回っての退院だ。なぜかというと、ウンコのコントロールが出来なかったから。まず出ないんだ。出すには力が要る。力めば、痛みと出血が襲い掛かり、ようやくの脱糞。その後の余韻、というか苦悶。帰ってきても、痛くて普通に歩けやしない。くしゃみが、せきが、小便が、射精が、いちいちケツ穴に響く。障る。先が思いやられるぜ。
 それでも治るなら、俺の肛門は以前とは変貌しているのは間違いないし、早く鏡で観たいもんだ。俺のケツの穴をまじまじと観察し「ひかるのケツの穴はかわいい!好き!」と言われたために、そんな汚ねぇもんを好いてくれる人間は世界に二人とはいないだろうと思い、俺は結婚を決意した。でもそう言ったのは、そいつがただ狂っていたからだった。そして一つしかないその気持ちを使い果てしまった。今はもうない。それどころか、その主体も今にも消え入ろうとしている。でもな、その前にようやくお前の好きなケツの穴も、この世から消滅するぜ。残念だったな。もう観る事はできない。


 まぁウンコが出ない間は、観たけど書いていなかったことを、ひとまず頭からひり出しておく。


 5月の映画の日、一本目は「フィクサー」へ。それなりに身近でも、絶対に一般では関わらない陰謀と、その告発の顛末を描いているので、作品で本当に薬害問題とかの問題提起をしたいのか疑問が浮かぶ。深刻ぶっているだけなんじゃないかと。リアリティの面でも不都合な人間を消す手段があからさま過ぎて、物語から乖離している。監督が脚本でものにした「ボーン〜」シリーズのように、スパイものじゃないから、せめてその辺は地味でもリアリティ重視にした方が、問題意識は明確になったはずだ。あと、ジョージ・クルーニーは「オーシャンズ〜」のシリーズの印象のせいでキャリア的に損をし、ここでもそのイメージが邪魔して起用はマイナスに働いている。それでも、背負い込んでいるもののせいで、汚れ仕事から足を洗いきれず、次第に疲弊していく男の焦燥感は見事に描かれている。そんな鬱な展開の中、トム・ウィルキンソンのフルチンを清涼剤にしたかったのだろうが、俺はデレク・ジャーマン作品や「オルランド」に違わず、ティルダ・スウィントン映画としての側面が充分に清涼剤だった。彼女の脇腹の弛みに欲情できる自分を誇りに思う。


 5月の映画の日、二本目は「クローバーフィールド/HAKAISHA」へ。自画撮りを劇映画に持ち込む手法は、今までモキュメンタリー(偽ドキュメンタリー)としての導入が目立つが、これは完全素人の自画撮りという設定で展開するモンスター・パニックなので、映像的な粗が意図的に織り込まれており、お蔭で比類なき臨場感がある。しかし周辺の設定や事情が素人(一般人)の目線故に、最後まで明かされないので、その辺の周到さがストレートに評価されるのは難しいだろう。しかも臨場感は、ドラマ以外に、”手ブレによる酔い”でももたらされるので、気持ち悪くなっちゃった人はそれも映画としてアリなのかかが、善し悪しの分かれ目だ。俺も気持ち悪くなっちゃったが、その辺配慮した短い上映時間と、無名だが登場する女優陣が、主要キャラ全て美しいので、全然合格。でもまだタイトルも伏せられていた時点の予告編こそが、ジャンルが特定できないドキドキ感もあって、この手法としては一番効果的だったかもな。だから既に決定らしいが、この続編は蛇足だろう。


 5月の映画の日、三本目は「つぐない」へ。ジョージ・A・ロメロを勃起させられなかった映画ということで確認に。俺も勃起までは行かなかったが、悪くはない。基本的に悲恋モノだが、緻密な原作「贖罪」があるだけに、エモーショナルな展開よりは、タイトルの意味に着目すると、まさに「信頼できない語り手」の拭えない罪と、一生を賭けた決断が浮かび上がって来るという寸法。全体の要になる事件が起きるまでの夏の風景は瑞々しく美しいが、ここに”極貧乳+シャクレ”という一種の奇形美を持つキーラ・ナイトレイが配置されたことで、不道徳さや、病的なエッセンスが加わり、雰囲気だけで落胆する奴もいるかも知れないが、とても淫靡なものを観た気分になれる。原作はそうではないが、官能小説で抜けない人はダメかも知れない。あと、成長後の語り手として、ロモーラ・ガライへのスライドは極めてスムーズで、そこに技は感じたが、結局、後ろでバカ女がビニールバリバリさせてる程度の緊張感の映画、とも言える。


 ワーナー・ブラザーズさんにご招待いただき、「ICHI/市」試写へ。勝新太郎が確立したことに揺るぎはないが、北野武が完全に解体したことで、誰によっても改変や再構築が可能になった「座頭市」。まぁ過去には「ブラインド・フューリー」というのもあるが、本作は三池崇史演出、哀川翔主演による舞台版「座頭市」と同様、その余波で動き始めた成果の一つと言える。従って瞽女が主人公でも「めくらのお市」のリメイクではないのだ。綾瀬はるかが臨んだのはあくまで座頭市であって、一見「僕の彼女はサイボーグ」と同系統の役に見えるが、ストイシズムと感情の抑圧故の無表情と受け取れ、それなりに厭世的な雰囲気が出ている。アイドルを主役としながら、「座頭女子高生ナミ」のようにイロモノに走らなかっただけでも、最近少なくなったシリアスな時代劇として大いに評価できるし、柄本明の起用は、北野武への返礼とも受け取れ、監督の意気込みを感じる。本作では主人公の市に居合いを仕込んだ盲目の男(オリジナルの市?)の存在が示唆されているが、これを刺激として、より多様な解釈による「座頭市」の出現を待ちたいものだ。本来、「座頭市」は勝新太郎にとっても実験であったはずで、今後の増殖もまた実験的であればあるほど、その状況は大いに勝さんの遺産が生かされているのだから。ちなみに最大の収穫は窪塚洋介で、事故った人間特有の表情が、やくざ役には独特の凄みと説得力を与えており、復帰後の窪塚仕事では現時点で最高のものが観られる。


 一観客として「靖国/YASUKUNI」へ。国の援助金で作られていながら、政治的主張があるのは問題として、騒動を引き起こしたが、確認したところ、それっぽくても理路整然としないので、特に問題視に値しないと感じた。俺が観たときは最前列を「関係者席」として封鎖しての上映だったが、ドキュメンタリーの問題作という意味では「ゆきゆきて、神軍」などとは指向も違うのは分かるが、それほど強烈なインパクトはない。説明的な演出は極力排除されているので、監督はこの混沌を未だに引きずっている日本の歪みとカオスを生のままに表現したかっただけのようにも見える。ならば勝手に合祀され、取り下げてもらえない遺族を取材するだけでも、充分に不条理は伝わるだけに、AV女優のインタビューみたいな、靖国刀の刀匠へのインタビューは、靖国刀御神体とのミスリードを誘う演出なのか、監督自身が本気でそう思っているのか判然としないが、明らかに付け足しっぽい。これがあると説明の排除が小細工の隠蔽に見えて、せっかくのラストの空撮がもったいないぞ。


 SPOさんにご招待いただき、「シルク」試写へ。幽霊の実在とその組成について、理屈は謎でも、それなりの説得力で、アクション等も織り交ぜ、ジャンルの枠を越えて見せきる作品。監督以下、台湾主導で制作されているが、江口洋介も出演しているように、アジア圏のスタッフが様々な形で関わっているようだ。もちろん舞台は台湾で、物語にも当地の信仰や死生観も強く反映されているために、紛れもない台湾映画ではある。ただ、世界市場を意識しているが故に、繊細かつハードな世界観が構築されており、江口洋介も、同じ企画が日本であっても、多分受けなかったであろう狂気のキャラクターを嬉々として演じており、見直した。頬を撃たれた人間の反対側の頬から砕けた歯が飛び出すような、味わいの暴力描写と、グロ度高めのホラー演出も特筆されるべき作品だが、江口だけでなくチャン・チェンの確かな演技も、ゲテモノ色を抑え、作品をシリアスに見せるのに一役買っている。また、暴力的なまでに美しく撮られているカリーナ・ラムや、他にもチェン・ボーリン、バービィー・スーなどのアイドル勢も充実しており、隅々まで華がある。ジョン・ブアマン監督 脱出 特別版 [DVD]野望の王国完全版 6 (ニチブンコミックス)フィクサー [DVD]オルランド 特別版 [DVD]つぐない [DVD]贖罪〈上〉 (新潮文庫)贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]座頭市(デジタルリマスター版) [DVD]座頭市 <北野武監督作品> [DVD]ブラインド・フューリー [DVD]僕の彼女はサイボーグ スペシャル・エディション [DVD]座頭女子高生ナミ [VHS]靖国 YASUKUNI [DVD]ゆきゆきて、神軍 [DVD]