俺なりに世界を変えようと、虚しく試みる。

 仕事を探したり、自分の道を見つめ直すということが、今さら過ぎて危なっかしくも楽しい。全てのテクノロジーから孤立したいという、かねてからの願いを実現しようとあがいているせいだ。おかげでだんだん俺自身の生命の形が見えてきた。もっと見なけりゃならないと思っている。まだ食ってはいるが、食を細めて、やつれて浮き上がる肋骨のように、生命を浮き上がらせなくては。そう言うには病んだ肉体は未だ完治していないので、金銭面から現実的に追い込みをかけてみたらどうだろうか、などと考えながら、風俗に行く事で金銭を浪費し、肉体を酷使してみるのだった。別に行きたかったわけではないが、ケツのせいで半年以上禁欲していたからだ。実際禁欲していても苦しいと思わない、性欲のなくなった自分に生命力の危機を感じた。性欲がなくなっても股間にぶら下がっている矛盾を呪った。だからこその、苦痛に満ちた射精。帰路についた時点で脚が筋肉痛になり、帰り着いた時にはケツから出血していた。ついでに脳からここに、何がにじみ出ていくのか楽しみにしながら、手術は失敗した事を確信する。



 一観客として「ハンコック」へ。アメコミ原作に見えてそうではないヒーローもの。「キングダム/見えざる敵」の監督とは思えない作品のチョイスだが、この監督は元々節操がないので仕方がない。それよりもウィル・スミスは単に目立てるかだけで仕事を選んでいるのは言うまでもないが、最近のチョイスが潜在的藤子・F・不二雄チックなのはなぜか?前回の「アイ・アム・レジェンド(地球最後の男…いや、流血鬼)」といい、今回こそ「Gガール」より「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」してる。ただ小池さん(句楽兼人)よりやる気がないんで、「〜レジェンド」よりウィル・スミス向きかも知れない。さらに目立てればシナリオも監督の意向も無視するのも常態化してるんで、オリジナル脚本にちりばめられていたはずのアメコミへのパロディやオマージュが圧倒的に欠落しており、予告編の刑務所シーンが本編は大幅カットされているのを見ても、それは言わずもがなだ。結果としてアメコミ的ヒーロー物語としては実に中途半端な味わいでカタルシスがなく、さらに笑えないのだ。それは強大な悪役を設定しなかったり、ヒーローが葛藤しない事が大きく、同時期に並んだヒーロー映画と比べても、全く黙殺された原因だろう。それでも、個人的には観終えた後、外で呆けている乞食を見る眼が若干変わった事を補足しておく。


 10月の映画の日、一本目は「アキレスと亀」へ。「TAKESHIS'」(タレントのたけし)、「監督・ばんざい!」(監督の武)に続いて、今度は“絵描きの武”についての作品。世間では「誰でもピカソ」などを通して彼のタレント性を堕落させた要因とされている絵画だが、その関係は遥か前、「たけしくん、ハイ!」の挿絵とかの頃からなんで、今に始まった事じゃない。作品自体は依然、加齢表現に記号的な意味しか求めないんで、“柳ユーレイ”→“たけし”という、「Dolls」の“津田寛治”→“三橋達也”みたいな無茶は横行しているが、アニメや字幕まで導入して、伝えにくい題材を扱うに当たり、かなりの配慮が見られる。絵描き本人の研鑽が、手法や世の移ろいで、点だけで線にならない苦しみをよく描けていて、これは個人的にも身につまされた。そうした流れに翻弄されるアートの空虚さを「アートスクール・コンフィデンシャル」でも暴いているが、連続殺人を交え露悪的に笑い飛ばしているのに似て、こちらも武らしい死体の山が築かれる。でも死の描写は従来の武映画と共通して即物的なため、俺にはビートキヨシの出演場面のみが大爆笑をそそる結果となった。物語はいかにも夫婦愛賛美のような見せ掛けで収束するが、結局、武にとって全ての女は母親の代用品だという事がよく分かる。


 10月の映画の日、二本目は「パコと魔法の絵本」へ。病院を舞台に、子供の空想が現実と侵食しあう構造は、奇しくも公開時期が重なった「落下の王国」に似ている。でも「ランド・オブ・ザ・デッド」と「東京ゾンビ」や、「ブラックブック」と「ラスト、コーション」みたいに時期が近く設定が似るのは往々にしてある事。しかもいずれも監督独自の唯美主義に貫かれながら、こちらは「落下〜」と対極でポップ&ゴージャス、原作が舞台なだけある、濃厚なミュージカルだ。この徹底振りが、そもそも異常でしかないミュージカルの口当たりへの違和感を無くしていて、すんなり物語に注視する姿勢へと観客を導くので、こうした手法は役者の取り組みも含めた激しい作り込みが成否を決する。そして中島監督は今回もこの賭けに勝った。もはや日本のティム・バートンと呼べるだろうし、バートンよりある部分ではその悪意が凌駕している上、1カットにちりばめられた情報量も圧倒的に多い。今回は簡単に絵になるという点で混血タレントを安易に使いすぎる気もしたが、今回最も見直した妻夫木聡みたいに、より俳優に手を加えて毒素を強めた作品を期待したい。今回も毒はあったけど、「ディック・トレイシー」+「ムーラン・ルージュ」みたいな、合成着色料ばっちりのお菓子の方が、劇場に子供は少ないんで助かります。


 10月の映画の日、三本目は「ウォンテッド」へ。冴えないサラリーマンが異世界での闘士として覚醒する、どっかで聞いた導入と、その後の徹底した暴力による第二の覚醒。ルトガー・ハウアーは出ない。観ればすぐに分かるが、「マトリックス(=子宮)」を母として、「ファイト・クラブ」を父に生まれた物語として、あからさまなオマージュが捧げられている。そしてこの作品における異世界は殺し屋たちの生きる裏社会だ。彼らに殺し屋よって構成されている組織の長、主人公を殺し屋に仕立て上げる様々な導師たち、そして敵対している謎の殺し屋。同じ世界に生きる父親のイメージに満ち満ちている。また当然、暴力による覚醒を与えてくれたのが父である限り、いつか父を殺さなければならないという、全編を色濃く覆う“父親殺し”のメタファー。だから主人公の初ターゲットは恥ずかしげもなく“ダーデン”という。様々な父親に囲まれた主人公は、全ての父親を殺し切るという裏テーマに向け、銃を振って弾道を変える“ガン=カタ”みたいに無茶な暴力描写満載の疾走感は、今年ベスト入り確実の気持ちよさ!ティムール・ベクマンベトフ監督は、今回は出稼ぎ仕事のようだが、「デイ・ウォッチ」に続くロシアンやりかけ三部作「TWILIGHT WATCH」を完結させたら、またアメリカで撮るか、ファンタジー抜きの純粋暴力映画復帰を熱望する。


 10月の映画の日、四本目は「アイアンマン」へ。「エルフ」や「ザスーラ」の監督だけでなく、ジョン・ファブローは「スウィンガーズ」の頃からシナリオも兼任していた役者だが、今回は伝統あるコミック実写化だけに出演どころではなかったのか、チョイ役に留まり監督に専念。それだけに実写化向けのリアリティ獲得や、整合性導入に遣われた神経は半端ではなかった。現実味を帯びた試作機・マーク1の創造、完成機・マーク3における色の理由などにその苦心の跡が覗える。マシーンとしての造形や動きも見せ場の連続で、特に敵のアイアンモンガーは、やや動きが「ロボコップ2」のケイン入っているが、手がけたスタン・ウィンストンの遺作となるほどの力作。ただ同じ社長ヒーロー、「ダークナイト」とはそもそも原作の出発点が違うため、マンガっぽさは拭えず、主人公が心を入れ替えたウェイン・ゲールにしか見えないのは同じ役者なんで仕方ない。物語も日本での浸透はいまいちだが、既に三部作契約がなされ、続編への伏線になり得る描写が多いので、次回以降の展開には事欠かないだろう。むしろ続編どころか、MARVELならではの大ネタがエンドロール後に仕込まれているために、最終的に大きな流れに収束して行く事は不可避で、やはりMARVELの「インクレディブル・ハルク」同様、心配かつ楽しみではある。


 ワーナー・ブラザーズさんにご招待いただき、「252 生存者あり」試写へ。巨大台風で引き起こされた洪水により、地下鉄構内に閉じ込められた人々と、彼らを救出するレスキュー隊員(被災者の兄)の奮闘が並行して描かれる。「日本のディザスターを作る」という意志が設定やカットから明確に伝わるため、物語は要点が絞られ、あくまで具体的だ。ジャンル映画のツボを弁えており、展開も速く無駄がない。大半がハリウッド製である過去のディザスター作品と比べても、リスペクトすべき点を素直にしているので、元ネタとの比較があえて容易に作られているのはスタッフの自信の表れだろう。手間とカネがかかる事で定評のある、水を使った撮影もかなり多く、設定をSFにせずにこの成果というのは、閉じ込められる方の主役である伊藤秀明に“水もの”ジャンルの豊富なスキルがあればこそだ。結果、描写的にもかなりリアルで、災害こそが真の主役となるジャンル映画が日本で展開されている。兄弟の確執は「バックドラフト」、閉じ込められた人々は「デイライト」、一般人が特技を持ち寄り危機を脱するのは「ポセイドン・アドベンチャー」であったり、洪水や雹は「デイ・アフター・トゥモロー」など、実に研究しているのだ。また、被災する一般人の意外なキャスティングにも細かい計算があるので要注意。ASIN:B001D58WY2キングダム/見えざる敵 [DVD]アイ・アム・レジェンド 特別版(2枚組) [DVD]地球最後の男 [DVD]少年SF短編集 (2) (小学館コロコロ文庫)藤子不二雄異色短編集〈3〉ウルトラスーパーデラックスマン (ゴールデン・コミックス)Gガール 破壊的な彼女 (特別編) [DVD]TAKESHIS' [DVD]監督・ばんざい! <同時収録> 素晴らしき休日 [DVD]たけしくん ハイ!(上) [VHS]Dolls [ドールズ] [DVD]アートスクール・コンフィデンシャル [DVD]ランド・オブ・ザ・デッド [DVD]東京ゾンビ プレミアム・オブ・ザ・デッド (限定生産) [DVD]スマイルBEST ブラックブック [DVD]ラスト、コーション スペシャルコレクターズエディション [DVD]ディック・トレイシー [DVD]ムーラン・ルージュ (ベストヒット・セレクション) [DVD]ウォンテッド [DVD]マトリックス 特別版 [DVD]ファイト・クラブ (ベストヒット・セレクション) [DVD]リベリオン -反逆者- [DVD]ナイト&デイ・ウォッチ/ディレクターズ・カット DVDダブルパック (初回生産限定)ASIN:B001D56SHAエルフ~サンタの国からやってきた~ [DVD]ザスーラ [DVD]スウィンガーズ【字幕版】 [VHS]ロボコップ2 [DVD]ダークナイト 特別版 [DVD]ナチュラル・ボーン・キラーズ 特別版 [DVD]ASIN:B001D58WIIバックドラフト [DVD]デイライト (ユニバーサル・セレクション2008年第10弾) 【初回生産限定】 [DVD]ポセイドン・アドベンチャー コレクターズ・エディション (初回限定生産) [DVD]デイ・アフター・トゥモロー [DVD]