真空パック、分包された日々の意味。

 仕事を探す。仕るべき事であるか見極める。そういう時間を過ごしていると、雇用保険の世話になっていても極力金遣いはセーブしがちになる。省エネとして動きも緩慢に。余計な事はしなくなり、金を使うようなことも自制する。当然外出は控え、豚箱で過ごした日々に似てくる。そして、その非人間性は、一日も最低限に、ラインに乗ってパッケージングされているようだ。まるで一日の生活自体を、「これが一日分の薬」みたいにコンボで渡されるように。
 でも本当のところ、一応言っておくが、生活は量で量れないんだと今の視点からは主張しておきたい。そりゃもう分かりきっていた事だけど。一日分の残飯、一日分の労役、一日分のパチンコ、一日分の借金やオマンコに耽溺している方々は見たくないだろうが、やっぱり生活は一日一日が“質”なんだよな。視点が変わっても改めて思う。よって計量に基準はないし、実はその必要もない。だから突き詰めれば、絶対の時間がなければならない謂れはそもそもないんだ。別に狂った時計を修理に出す事も、買い換えることだって必要ない。要するに、全ての時計は日の満ち欠けに逆らって狂っているし、故に破壊されるべきだってことさ。
 ところで、現在俺が処方されている痔の薬は、「ボラザG」という。一日分、一回分、無菌であるかのように綺麗に真空っぽく、その流線型の形状に沿ってパッケージングされている。名前だけは偉そうな「ボラザG」は、ケツ穴へ卑屈に入るために流線型なのだ。
 かの「パシフィック製薬」の「パシン」に始まった話じゃねぇが、前から薬のネーミングのいい加減さは気にしている。「“ボラ”ギノール」でも「プリ“ザ”」でもない“あいのこ”の「ボラザ」だ。怪獣かよ。しかもダメ押しに「G」。「G」といっても効能別やバージョンによって、「A」to「Z」があるわけじゃないことは百も承知だ。単に痔の薬だから「G」なんだって駄洒落がバレバレの安直さ。それを生真面目そうにネーミングしているところに痺れる。だから肛門に注入する。腰振ってる暇があれば、世界のこうしたいい加減さを突く方が、はるかに意味があるかも知れない。



 一観客として「イントゥ・ザ・ワイルド」へ。全てを捨てて単身アラスカを目指し、当地で不慮の死を遂げた青年、クリス・マッカンドレスを追った原作「荒野へ」も名著だが、想像で埋められる部分は埋め、クリス自身の物語に仕上げたショーン・ペンの手腕は見事だ。原作から、時には蛇足でもある著者の見解や独白を排除したことで、従来の作品よりは明朗な冒険物語として監督自身の力量も一皮剥けた。今回は興行収入的にもペン監督史上最高のヒットとなっているし、初のCG導入による描写やロケの多用など、作品に込められた気合も段違いだ。しかも、エンドロールに協力者としてジャック・ニコルソンをクレジットするなど、相変わらずの律儀な作り込みも微笑ましく、クリスと知り合う老人を演じたのが「クリープショー」のハル・ホルブルックだったりするところは渋い。おそらくこの辺が監督の言う「インディアン・ランナー」の姉妹編という所以なんだと思いたい。もちろん映画的にはこれで充分だが、クリスの死の原因には意図的に削られていると思しき描写がいくつかあり、この映画から興味を持った人は、映画もビジュアルとして本を補完する部分を持つだけに、何としても原作によって事実との差異を補完して欲しい。恐らくそれは、クリス自身の目指したものに、観客自身がより深く触れて欲しいと言う、監督からの謎掛けだ。なぜなら彼には映画では語りきれない、確かな思想があるから。



 一観客として「僕らのミライへ逆回転」へ。帯磁気体質になったジャック・ブラックが、知らずにビデオ屋のデータを全て消去したため、消したタイトルを借りに来た客向けに速攻で自己流の要約リメイクをでっち上げる。その貧乏臭くも馬鹿馬鹿しい出来が評判になり、とっさに「スウェーデン製リメイク(=sweded)」と嘘をつくが、人気は高まる一方で次々に作り続けなければならない羽目になる。特撮不要の「ドライビングMissデイジー」から、リメイク自体必要なのか不明な「アローン・イン・ザ・ダーク」まで、作中でスウェーデン製への変換を結構な本数こなしており、物語の大半がミシェル・ゴンドリーらしい創意工夫のあるリメイク手法披露に費やされるかと思った。しかしそれだけで物語が持つはずもなく、後半は結構意外性のあるビターな展開となっていく。FBIからその剽窃咎められ、ビデオ屋も潰されるが、培ったDIY精神で単なるパクリに終わらせず、拡大したムーブメントを挙げてモニュメントを残そうとするのだ。それは既にスウェーデン製が独自性を獲得し「嘘から出たまこと」となった事を意味する。原題のエッセンスが全く残ってない邦題がとにかく酷いが、一見コメディ風でもそこに留まらない深みがあることは、本作以降、現実に“sweded”作品を撮る奴が続出しているのを見ても明らかだ。



 ワーナー・ブラザーズさんにご招待いただき、「ワールド・オブ・ライズ」試写へ。イスラム過激派組織に対するCIAの暗闘を描く、リドリー・スコットの新作。最近常連化しているラッセル・クロウと、スコット組初のディカプリオという、共演自体は「クイック&デッド」以来の顔合わせでもある。ディカプリオ的には「ディパーテッド」や「ブラッド・ダイヤモンド」に連なる、脱・優男路線と言えるが、今まで以上にヒゲが伸びてたりするところは、本人なりの工夫だろうか。物語は世界を股にかけた諜報戦でも、現在進行形で実在の人物や国をモデルにしているので、リアリズムを維持した上で整理され、実に明快。テロがテーマなので爆破シーンは当然多いが、「ブラックホーク・ダウン」以来の、RPGを多用した派手な銃撃戦やカーチェイスもあり、アクションにも重点が置かれている。従って題からの連想ほど、虚実ない交ぜの駆引きには主眼を置いてないが、無人偵察機視点の多用が、見えているのに細部が判然とせず手も出せないもどかしさが、サスペンスの盛り上げには効果的であった。お決まりの残酷描写も拷問シーンで存分に生かされており、類似テーマを扱った「シリアナ」を意識してか、より豪快に仕上がっているのも、かつて「プライベート・ライアン」に発奮した監督の、暴力へのこだわり故だろう。



 パンドラさんにご招待いただき、「チェチェンへ アレクサンドラの旅」試写へ。アレクサンドル・ソクーロフの新作は、えらく挑発的な作品だ。題名どおり、アレクサンドラという老婆が、一応戦火真っ只中のチェチェンにいる孫に会いに行くのだから。しかも作品自体はあくまで彼女の視点で、混濁、あるいは耄碌しているともいえる、時には無邪気で、全てを悟ったかのような視点で貫かれ、実際の戦闘は僅かに遠景で爆撃の様子が一瞬映るのみ。彼女は孫だけでなく、全ての兵士(殆どがガキ)に孫と同じように接し、駐留地を出てはチェチェン人の市場で買い物をし、具合が悪ければ地元の人に介抱され、日常のまっとうな付き合いを繰り広げる。そもそも彼女には戦場の時間は存在しないのだが、映画はあくまでその彼女の体感時間にこだわって進められていく。結果、その静謐な時間こそが痛烈な戦争批判として作用する。かつて「シン・レッド・ライン」は、行軍する兵士を呆けたように見やる原住民の姿が衝撃的だったが、戦争に対し、綺麗事の平和ではなく、日常のリアルを置くことで、大義のない戦争のアホらしさを暴いているのだ。これには老婆を演じた歌手、ガリーナ・ビシネフスカヤの、実年齢由来の動きや話し方が大きく作用しているので、彼女の起用、風格、存在感が作品に意味をもたらしたと言える。



 20世紀フォックスさんにご招待いただき、「ミラーズ」試写へ。アレクサンドル・アジャの新作であると共に、キーファー・サザーランド久々の映画主演作。「フォーン・ブース」等を通してキーファーの円熟は感じていたが、その持ち味がアジャとの共同作業でどう出るかと思えば、単に超常現象ホラーである事から、当時かなり斬新だった吸血鬼映画「ロストボーイ」(「アメリカン・サイコ」にすら描かれた当時の巷のズリネタ、ジャミー・ガーツも出てる)に出演していたことを買っての起用かも知れない。それに、かつては二世俳優ながらチンピラ演技に定評のある役者として「スタンド・バイ・ミー」や「ヤングガン」などをものにしているキーファーにしてみれば、同僚を誤射した事により転落していく元刑事という役は、まぁ似合っている。そこである建物の夜警を始めたことから、鏡に潜む邪悪な存在と対峙することになるが、今回も実は韓国映画「Mirror 鏡の中」のリメイクだ。でも原典を尊重しながら設定を変え、血の量も増えているので、過程において極悪度は上昇。しかも女優陣はポーラ・パットンやエイミー・スマ−トなどいつもながら外れなし。そこは「ヒルズ・ハブ・アイズ」同様、単なるリメイクには終わっていない。次回作もまた「ピラニア」のリメイクなんで心配だが、デビューからの流れが「ハイテンション」、「ヒルズ〜」、そしてシナリオ担当の「P2」と来たので、本当は単に狂った人間の殺し合いを描いたものだけを期待している。ASIN:B00130HI5G荒野へ (集英社文庫)クリープショー [DVD]インディアン・ランナー [DVD]クロッシング・ガード [DVD]プレッジ ― スペシャル・エディション [DVD]ドライビングMissデイジー デラックス版 [DVD]アローン・イン・ザ・ダーク [DVD]クイック&デッド Hi-Bit Edition [DVD]ディパーテッド (期間限定版) [DVD]ブラッド・ダイヤモンド [DVD]ブラックホーク・ダウン スペシャル・エクステンデッド・カット(完全版) [DVD]シリアナ [DVD]プライベート・ライアン アドバンスト・コレクターズ・エディシ [DVD]シン・レッド・ライン [DVD]ロストボーイ [DVD]フォーン・ブース (ベストヒット・セレクション) [DVD]スタンド・バイ・ミー コレクターズ・エディション [DVD]ヤングガン [DVD]ヤングガン2 [DVD]Mirror 鏡の中 [DVD]サランドラ コレクターズ・エディション [DVD]ヒルズ・ハブ・アイズ [DVD]ハイテンション アンレイテッド・エディション [DVD]ピラニア コレクターズ・エディション (初回限定生産) [DVD]P2 [DVD]キングコング対ゴジラ [DVD]