牛頭馬頭に願かけ、落ちてきたもの。

 俺は丑年で、つまり今年は年男だ。俗に言う厄年などとは違い、めでたいものなのだろう。だから色々願いが叶っているような、いないような、奇禍が連続している状態だ。さらに宿願成就には、牛頭馬頭に願かけするように、俺自身が丑であることからも、午へ乗馬をするのに適した時期とも考え、このところ乗馬を繰り返している。
 ちょうど「極道戦国志・不動」で高野拳磁扮する高校生が、ソープでの無銭入浴による全国制覇を狙って旅をしているように、色々な乗馬クラブの初回無料体験乗馬を利用して、各所を転々としているのだ。
 もちろん、そんな牛頭馬頭に願かけなどというのは抜きにしても、人間に比べ馬の方が信用できるし、失望させられることもないので、交流する価値があるからやっていることで、その得るところも大きい。船乗りガリヴァーの出した結論(あるいは最終的に狂気と解されるかも知れない着地点)は正しいのだ。また、俺は武士でもなんでもないが、馬攻めは武士の嗜みという点で、武士道をより深く理解するのにも役立つ。そして、その後の乗馬クラブ入会の勧誘は真摯に聞き入り、無碍に撥ねつけ、これを繰り返すのだ。しかし何を宿願としているか、教える気はないんで、誠意のない奴はテメエの胸に聞いてみな。
 その帰り道、小学一年生以来に鳥の糞が頭に落ちてきた!PCエンジン版「カトちゃんケンちゃん」なら、鳥は巨大な巻きグソをひり出すんで、死んでるところだ。当時は通学用帽子のツバ部分に落下して来て直接難は逃れたものの、直撃は初なので、「おれ、へそまげちゃうよ」というドット文字が脳内に閃いた。
 ちなみに俺は道でよく声をかけられる。険悪な表情と革ジャンを着用し、明らかな殺気を放つようにはしているのだが、道をババアや外国人から何の警戒感も抱かれずに聞かれる事が非常に多く(一応、丁寧に教えてやる)、果ては頭の足りない“イイ顔”の子供に話しかけられる事もある(この場合、さすがに相手にはしない)。
 要するに元来そういう不可解なモノの“引き”が強いようで、根拠はないが何らかのエネルギーを放射しているのかも知れない。ただでさえ通行人の少ない、僻地へ越してからのこの一年強でも、モルモン教徒からの勧誘や、日本語の話せないロシア人の女に手製のアクセサリーを売り付けられたりなど、異常な体験を重ねている。殺されるべきところを殺されず、鳥の糞を受けないところを受け止めてしまうこの引きがあるなら、早いところ宝くじの一つでも当たればいい。とはいえ、宝くじの高額当選など、実は殺人事件に巻き込まれる確率より低いんだけどさ。でも当たったら、全額燃やして見せてやるから、その時はお楽しみに。


 一観客として「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」へ。ある異種の反乱分子が、人類に宣戦布告する。その異種側からも人類の協力者が現れ、両者からも異端視される主人公は人類のため、異種と共闘して反乱分子に対峙する図式は、実は監督自身の「ブレイド2」と全く同じ構造だ。吸血鬼の亜種でしかなかった“死神族”が、今回は“エルフの王子+黄金の軍隊”と、役者まで同じである。だがそれはこの作品にマイナスではなく、監督が真に「デビルマン」の実写化に相応しいと証明するものとして讃えたい。元々主人公は世界の破滅に召喚されたので、彼のいる限り人類は滅ぼされるのだ。それでも彼に生きて欲しいと断言するセルマ・ブレア、死ぬほどいい女でありながら、飛鳥了の切ない想いを代弁しているだろう?そして彼女がいる限り、全世界の謗りを恐れず戦う主人公は、まさに不動明。さらに前作で設定の説明は済んでいるので、今回設定由来のギャグが多いのは当然で、展開もスムーズに。その上、極力実際の造形物で異形の世界を構築した努力は、分かる奴にしか分からない泣き所でもある。それだけでも凄いのに、日本の特撮やマンガ、そして(今のじゃない)アニメにも影響されている愛を作品を通じアピールする。これが離れ業と気づかなければ、日本人は自国文化がいかに凄いかも気づけないだろう。


 一観客として「WALL・E ウォーリー」へ。なぜか涙が止まらない。「街の灯」がベースと作り手は言明しているが、そこからチャップリンの記号性が剥ぎ取られると、彼がいかにフリーキーだったか、自然と浮き上がる。主人公はロボットに擬えられているのに、あるのは要するに切実な童貞性だったのだ。しかも700年もこじらせっ放し!従って“手を繋ぐ”大切さと暖かみが主題なだけでなく、開腹状態のイヴに見られる生々しいエロスはチャップリンの屈折した性癖も同時に晒され、彼がなければ「ロリータ」も存在し得なかった事実を思い知らされる。一応ウォーリーもプレス機能で腹部に格納スペースを持っているが、イヴに比べりゃ労務者がパンツの中に物を隠す程度のもんだ。他にも全体に過去のハードSF映画からの高度な引用が見られるが、荒廃した地球に残されたロボットの孤独という設定で、実は子供を劇場から排除するよう設計されているのが心憎い。そりゃ子供の究極の恐怖は親とはぐれる孤独だからな。そういう意味で台詞の少なさだけでなく、劇場がうるさくない画期性もあるが、総じて映画的エッセンスの濃密な拾い物だ。難点を言えば、シンゴの部品を集めてもモンローにしかなれなかったように、ロボットの自我覚醒を一度きりの奇跡として描く冷徹さがあっても良かったし、そもそも人間は余計かも。


 ワーナー・ブラザーズさんにご招待いただき、「イエスマン “YES”は人生のパスワード」試写へ。「チアーズ!」の監督によるジム・キャリー映画だが、「ナンバー23」とかで迷走したんで、こうしたコメディ出演での軌道修正は正しい。ジム・キャリートム・ハンクスになれないのは「マジェスティック」で明らかじゃないか。もういい加減“俳優”というステータスは諦めて、笑い一筋に開き直るべきだ。「ディック&ジェーン 復讐は最高!」で改心したように見えただけに、まだ油断は出来ないが。話は「ライアー・ライアー」系統の、誰からのいかなる要求も拒絶しないことを科した男に起きる“わらしべ長者”的人生の逆転を描いている。それは男が誓いを立てる契機が自己啓発セミナーにあるように、常に危険を選択するニーチェ的な思想として、観客の人生にも大きな啓発を投げかけており、単なるコメディには終わってない。少ないが起爆力のある下ネタもあるし、セミナーの導師がテレンス・スタンプなのも無意味に強力。近頃見かけず心配していた、「ブギーナイツ」店長兼、カリート・ブリガンテの舎弟、ルイス・ガスマンも変わらぬ醜さで嬉しい。しかしゾーイー・デシャネルはなぜいつも前髪を下ろしているのか?瑕疵のある“美女”には興奮するので、傷跡でも隠してるなら、俺だけに内緒で見せてくれ。極道戦国志 不動【デラックス版】 [DVD]ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)カトちゃんケンちゃん 【PCエンジン】ヘルボーイ [DVD]ブレイド 2 ― コレクターズ・エディション [DVD]デビルマン 全5巻セット 講談社漫画文庫DVD ウルトラQ 全7巻セットみどりの守り神 藤子F不二雄SF短編シアター[ビデオ]魔王ダンテ 1―オリジナル版 (KCデラックス)街の灯 [DVD]ロリータ (新潮文庫)ロリータ (新潮文庫)ロリータ [DVD]2001年宇宙の旅 [DVD]サイレント・ランニング (ユニバーサル・セレクション2008年第9弾) 【初回生産限定】 [DVD]ショート・サーキット [DVD]猿の惑星 [DVD]わたしは真悟 (Volume1) (小学館文庫)チアーズ! [DVD]ナンバー23 アンレイテッド・コレクターズ・エディション [DVD]マジェスティック 特別版 [DVD]ディック&ジェーン [DVD]ライアー ライアー:デラックス・エディション [DVD]わらしべ長者―日本民話選 (岩波少年文庫)ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)ツァラトゥストラはこう言った 下 (岩波文庫 青639-3)ブギー・ナイツ [DVD]カリートの道:スペシャルエディション [DVD]