知ってから吐くのが“言葉”だったよな、確か。

 少し前、知的障害者をガキどもが集団で公園などで狙いをつけ、痛いかどうかいちいち聞きながら、そのリアクションを見て面白半分に集団暴行を働いていた、極めてイタイ事件があった。ガキどもは知的障害者を、さも身体障害者のように略称し、狙ってたらしいんだが、その呼称を聞くたび、ガキどもの認識不足と、(摘発後も開き直る)馬鹿さ加減もさることながら、この蔑称について奥歯に物が挟まったような心の動きを俺の中に生じさせる。つまり、動揺というか、混乱だ。
 この呼称が“世間一般でも”通用している“蔑称”と初めて知ったのは、俺が高校に上がってからだった。それを使っている同級生に対し、“身体的障害者と知的障害者の区別の付いてない奴”と半分馬鹿にしながら、意味を問い質すことも、その用法の間違いを指摘するまでもなく、即座に、完璧に理解している俺がいたのだ。
 それはなぜか?それは俺にとって、この蔑称を明言しないことが意味するように、俺は高校に上がる以前から、それはそもそも蔑称ではなく、固有名詞として知っていた呼称だったからだ。要するに、俺はこの言葉を、単に用法を間違えた蔑称として使いたくないだけでなく、特定の個人に対して“晒し”をしたくないために明言しない、ということになる。
 だからこの蔑称について知らない奴はそれでいいし、それ以上書く気もない。だが恐らく、これが分かる奴は全国にかなりいるだろうし、そいつらは全てとんでもない思い違いをしている(あるいは、過去にしていた)ということになる。
 それは先述のように、障害者全般を一括りにして、しかも蔑称化するという底の浅さだ。結局こういう奴は、先のガキどもも含めて、幼少期からごく当たり前に多彩な障害者と触れ合ってなかったんだろ?身体に各種の障害を抱えた生徒が一般に学校に通うというのは、今でもある程度あるだろうし、俺の小中学校でも当たり前にあった。しかも彼らは俺の学校では成績優等生が多かったので、そういう同級生と普通に会話してたし、放課後一緒に遊びに行ったことも数知れない。中学の頃などはさらに会話に下ネタ濃度が高まって、年代相応に、タガが外れた下品さで盛り上がったりしていたほどだ(でも全員童貞)。そのため、ナガブチによる“金子正次”猿真似映画「オルゴール」まで、この時一緒に行ってしまった…。
 しかしそれとは別に、俗に“特殊学級”と呼ばれる、学年を超越した指導を知的障害児に施すためのクラスが小学校の時などは存在しており、現に俺の小学校にもそれは存在して、そこに所属している同じ学年の生徒は、体育の時間だけ俺のクラスの授業に参加していた。そこで学年も一緒なら、組体操などの班も一緒だった少年に、奇しくも全国的に通用してしまう蔑称と同じ発音を、その氏、名、いずれかに持った少年がいたのだ。
 故に俺の中では高校に上がって件の同級生による発言を聞くまでは、蔑称という認識ではなかったし、その彼との体育の授業を思い出す、往時の単なる呼称である。それでも、そこから彼の属性に連想が発展していくことで、一般の見当違いな蔑称を聞いたときも、どういった属性の人間を指しているか、即座に判明したというわけだ。むしろ、「何でこんな奴が彼のことを知っているのか?」と初めは驚いたほどに、耳で馴染んだ固有名詞とダブったのだ。
 また、“特殊学級”に話を戻すと、当時のその学級名は、なぜか“春特有の植物の名前”をしており、名称の時点で通常のクラスとは異彩を放つように命名されていた。そのことで逆に、俺の小学校や、地域の人間がほとんど持ち上がりで入学する中学でも、そのクラスの名称こそが蔑称として機能していた。
 よって、俺はそうした経験を高校でして以来、ある程度親密になった人間には、その出身校における特殊学級の有無と、それらが存在した場合の名称を聞くことにしているのだが、基本的に“植物の名称”という点では全国的に一致している傾向にある。この結果からすると、個人的には、本来ローカルでなければ通用しない呼称が、そうして全国的に蔑称として機能してしまうような、“特殊学級”のネーミングの方が問題ではないかという気がしてならない。
 ちなみに、俺個人の見解を超越して、世の中に“言ってはいけない言葉”というものは存在しない。これは断言だ。あるのは、話す相手との関係性において、相手を慮るが故に自粛する、各人の道徳があるだけだ。だから先述のガキどもは話にならないにしても、あくまでも“言いたい奴”に限っての話だが、どうしても言いたけりゃ、誰に対する蔑称でも差別発言だろうがいくらでも言えばいいし、その発言による謗りも覚悟の上なら、顔も、名前も晒した上でどんどん言うべきなんだ。俺は別に「蔑称を使うな!」なんて傲慢極まりない綺麗事を言う気はさらさらないし、単純に言葉狩りは絶対に容認できない、最も憎むべき俺の敵だ。
 ただ、認識違いの蔑称を使うのは問題で、自分の馬鹿を晒すだけにしかならないから、それを注意しろということである。例えば、飲んだくれて路上で寝ている“労務者”を“ルンペン”とか“乞食”と呼ぶのは適切ではない。彼には帰るドヤがあるかも知れないし、別に食べ物を恵んでもらっているとは言い切れないのだから。単純に、教育による言葉の峻別でも、そうした無意識で不本意な差別や、馬鹿なガキの愚行を止められたかも知れないし、少なくともその認識は改めることができたはずだ。そして認識が変われば、良し悪しは抜きにしても、対象への向き合い方が変わるのは間違いがない。


 一観客として「いのちの戦場―アルジェリア1959―」へ。意味的に“内なる敵”のような原題に対し、実に困った邦題だが、長らく政府は戦争とは認めずとも、実際ほぼ独立戦争ってのはよく分かる。敗色濃いフランス部隊が戦況を充分認識しても、大部隊投入を止められず、アルジェリア人同士でもFLNアルジェリア解放戦線)側とフランス側で分かれてるのは、企画から関わっているブノワ・マジメルが宣伝で語るように、確かにベトナムっぽい。だが、FLNが現地人に行う残虐行為の数々や、フランスもそれを空爆の口実にしたりしており、どっちもどっちだが独自の描写ではある。ただ、アルジェリアを“アメリカにとってのベトナム”と結びつけるコンセプトをフランス映画で実現するからには、数多のベトナム戦争映画のようにFLNを悪役にした方が話は分かり易かったはずだ。物語は、主人公が結構ピュアな奴なんで、「シン・レッド・ライン」のような着地点になるのは仕方がないが、描写には「プライベート・ライアン」臭はなく、凄惨な描写の少なさだけでなく、内面的にも「戦争のはらわた」などを通過してしまった人間には物足りないだろう。とはいえ、小・重火器ともに、マガジンがみんな横や上部にある銃が多数登場し、銃器的にも面白いビジュアルかつ、60年代のヨーロッパ軍装というだけでも新鮮に見える。


 一観客として「激情版 エリートヤンキー三郎」へ。これは鈴木則文監督の「伊賀野カバ丸」、「コータローまかりとおる!」、「ザ・サムライ」に連なる学園ものでいて、「ビーバップ〜」的な不良コメディや「不良番長」まで高度な邦画オマージュが満載の作品だ。キャストの一部重複は、テレビ版の仕切り直し以外の意味がある。今風の出だしで拍子抜けさせるのも計算で、テレビ続投の小沢仁志・和義扮する極悪兄弟の悪行を描く回想場面は、ドドーンと波間に三角マークが!しかもスーパーが全部手書き回転文字という実録風。これで東映配給に意味が出るし、前述ジャンルの正統な血統証にもなる。しかも劇中、少年課の刑事・竹内力のテーマがあり、タイトルが役名からの「久能シャロック」で、シャッフル・ロックで“シャロック”という、「番長シャロック」+「県警対組織暴力」という奇跡の合体で幻のジャンルを復興。あと三郎の覚醒、凶暴化描写は完全に(TV版)「ハルク」だ。さらに有毒廃液を浴び怪物化するヤンキーの主観映像は熱感知画像になっており、要するに「ロボコップ」、「プレデター」と「悪魔の毒々モンスター」の三重ネタなんだから凄い。ただ、こうしたネタが若者や、原作ファンには通じなかったとしても、“おバカ”と言わず徹底して“バカ”と貫く姿勢は、その区別がつくなら評価できるはず。


 20世紀フォックスさんにご招待いただき、「バビロンA.D.」試写へ。ヴィン・ディーゼルのアクション復帰作にして近未来SF。一度は「キャプテン・ウルフ」などで脱アクションを試みたが、やはりその強面ゆえ、自分にはジャンルが限られると悟ったのは正しい。だが従来との同一視を避けた葛藤が、スタッフやキャストに反映されている。主にフランス勢で全体を固め、新味を出しているのだ。そして監督のマチュー・カソヴィッツは、前作「ゴシカ」までの、娯楽路線に転じて以降特有のビザール感を出さず、SF的未来観をストレートに仕上げている。依頼により謎の少女を護送するという、やや「トゥモロー・ワールド」似の展開だが、東欧やアジア、果てはロシアからアラスカを経て、アメリカが決戦場となるスケールと各国のビジュアルで独自性を見せた。重量級の見せ場にvsジェロム・レ・バンナ、軽量級に共演のミシェル・ヨーを配することで、格闘的なバランスも計算されている。カルトの教祖がシャーロット・ランプリングなので、SFアクションだけに「メタルギア」の某キャラ的な働きを期待するが、特になくてもクールな妖艶さは相変わらずで満足。また、人間が身体器官等に執着しない時代設定と判明する折りのキーマンとして、メロンビジアンが出てくるが、これは俳優が同じなだけで警戒しなくていい。オルゴール [DVD]スズメバチ コレクターズ・エディション [DVD]ホステージ [DVD]シン・レッド・ライン [DVD]プライベート・ライアン アドバンスト・コレクターズ・エディシ [DVD]戦争のはらわた?Cross of Iron? [DVD]ビー・バップ・ハイスクール [DVD]不良番長 [DVD]県警対組織暴力 [DVD]超人ハルク オリジナルTV:スペシャル・コレクション Vol.2【ユニバーサル・セレクション1,500円キャンペーン2009WAVE.1】 [DVD]インクレディブル・ハルク デラックス・コレクターズ・エディション 【Amazon.co.jp 限定リバーシブル・ジャケット仕様】 [DVD]ロボコップ <新生アルティメット・エディション> [DVD]プレデター [DVD]悪魔の毒々モンスター [DVD]バビロンA.D. (特別編) [DVD]キャプテン・ウルフ [DVD]ゴシカ [DVD]クリムゾン・リバー [DVD]トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション [DVD]メタルギア ソリッド 3 スネーク イーター PlayStation 2 the Bestマトリックス リローデッド [DVD]竜二 [DVD]