美醜なんぞどうでもいいんだよ。

 俺を古くから知る奴ほど、俺が女に対して面食いだと思っているらしい。実際鑑定する立場としての視点ではそうした部分もあるため、俺もかつてはそれを認め、「愛しのローズマリー」のジャック・ブラックのように、私生活もそのままかのように烙印に甘んじてきた。
 しかし、周囲からの指摘や自身の内省によって、実は全然そんなものを求めていないと分かってしまい、以来けっこうな時間が経過している。もちろん内面の要素も大きいが、外見の好みについてのみ考えると、結局のところ俺は美醜ではなく、視覚による自身の混乱を相手に求めているだけなのだ。脳内でその外見を反芻し、美醜の判定がつかないまま混乱し続けたいらしく、恐らくはそれが、俺にとっての“恋する”状態であって、相手に興味を持ち続けられる原動力のようだ。
 だから、一見して美人だと分かる女には、話をして内面に魅力を感じるのは別にしたら、全く興味も湧かないし、殺菌された表現のように、不快感すら感じるのだ。極端な話、それは知的な関心が向けられる分野全般に言えるのかも知れず、ハッキリした答えが最初から提示されてしまえば、それ以上追う必要もない。よく考えた結果美人だろうがブサイクだろうが、結果は問わないし知りたくもない。よく考えている時間だけが持続することが重要なので、恋している時、相手の美醜など考えていない。
 つまり、答えは最初から求めてないので、大きな混乱が与えられ、それに惑わされ続けることができるなら、俺は最高に幸せだろうと思うし、そんな対象がいれば、仮に錯覚でも混乱を考え続ける中から、恋だの愛だのを見出すだろう。そしてその錯覚やら混乱やらのうちに一生を終えてしまえるなら、これほど素晴らしいことはないし、女もただ俺を混乱させておけばいいんだから楽だろうな。
 さらに言ってしまえば、俺には女の外見は解く必要のない謎であって一向に構わず、内面の要素に対し、人間としての歩み寄りや共感だけがあればいい。女を女として特別視して理解するつもりもないし、それなら理解できないままでいい、ということになる。ただ一点、“理解できないものだ”というだけは理解したい。
 ましてや存在しない“女子”などという概念などから理解する必要もない。俺自身も今まで“男子”であったことなど一度もないし、この世にはチンコとマンコしか存在しないのだから。学校でガキを分類するのは単に便宜上の問題であって、ありもせぬものをあるかのように作り上げた奴らの口上は、現実から目を逸らさせようという卑劣な手段でしかない。
 昔から俺は、見た目のせいなのか、小難しいことばかり言うからか、または単なるお世辞なのか、真実のために求道的な人間と勝手に見られてきたが、きっと実際は無理やり難しく、単にしつこく考え続けたいだけの人間に過ぎないんだと思う。そんな感じで「本当に好きなものは何か?」とかしつこく考えてるついでに、女の外見についての見解を思い出したんで、一応書き留めておこうかと。


 ファントム・フィルムさんのご招待で、「ノーボーイズ,ノークライ」試写へ。「絶対の愛」やら「ブレス」では主体的な役ではなかったが、「チェイサー」で犯人を演じていた時、ハ・ジョンウはその優しげな風貌から、事件の冷酷で異常な手口の迫真性にトリッキーな形で助力していた。今回はその風貌の効用がストレートに生かされ、本来の持ち味が確認できる。韓国からの運び屋と、手引きする日本のチンピラの、チンピラ同士の下克上と友情の顛末。妻夫木聡が主役で、「ジョゼと虎と魚たち」やら「メゾン・ド・ヒミコ」のシナリオによる作品というのが一応売りだが、今回は犬童一心監督ではなく、韓国の監督なので、甘さの中に時折重い暴力描写が見え隠れするのが今までとは違う。同時にシナリオの主張も依然強く、家族愛みたいなウェットな部分にも力が入ってたり、お約束のボケ老人描写も健在なので、一見ライトでも、一本芯の通った展開を見せる。今回の作風は犬童監督の不在も作用しているだろうが、俺は“東京12チャンネル”のテレビ番組「もんもんドラエティ」内の「お茶の子博士の怪奇劇場」で披露された短編8mmで、狂気の殺人鬼を演じていた犬童監督に、ショックで号泣させられた被害者なので、この際別の意味で気持ちを切り替えて向き合えた。また、作品全体を覆う“人魚”のイメージなど、邦画主導だと甘くなりがちなファンタジー要素もシナリオには見受けられるが、物語として必然性もある上に、監督がシビアな視点も温存しており、ギリギリの範囲で許容できる。その一端を担うのが「アキレスと亀」で武の娘を演じた徳永えりで、今回も逆境に疑問を持ちながら脱出には踏み切れない、妻夫木の愚妹を演じて、その殺伐としたノーメイクと頭の悪そうな切れ方に磨きをかけた。バカといえば、彼女の夫を演じた柄本明の息子には全く興味がなかったが、自身への色眼鏡も意識することで、能無しの二代目役を身近に引き寄せ、リアルなバカ像へと昇華させた点は評価できる。なお、日本側キャストのど真ん中に、韓国暴力映画界の名脇役、イ・デヨンを“在日ヤクザ”として配した引き締め効果は絶大で、これは妻夫木のアジア人気を下地にした、キム・ヨンナム監督流の新しいアジア映画の提案と受け止めたい。


 ブロードメディア・スタジオさんのご招待で「コネクテッド」試写へ。リメイクはオリジナルへのリスペクトなのはもちろんだが、敬愛ゆえの挑戦状でもある。だからリメイクは出演俳優のエゴを満たすよりも、原典を超えねばならないのだ。リメイクが蔓延ってその本義が忘れられがちな昨今、“バッタもん天国”だった香港が正義の鉄槌を下した。それが香港初の正式リメイク権取得となる本作だ。オリジナルの「セルラー」も原案ラリー・コーエンの才気が光る好編として記憶に残るが、「フォーン・ブース」と対を成す、“電話二部作”の一本という印象が強い。最近は「悪魔の赤ちゃん」のリメイクなど、ラリー・ブームが起きているが、俺はリメイク版「マニアック・コップ(地獄のマッド・コップ)」の完成を待ってる程お気に入りだ。ちなみに「フォーン〜」は、監督ジョエル・シュマッカーのフィルモグラフィ的に「フォーリング・ダウン」と並ぶ、“都会の狂気二部作”としても位置づけたい。話を戻すと、キム・ベイシンガーが若者に助けを求めるだけのオリジナルから、互いをシングルの子持ちにして、人間関係の盛り上がりを強化、あえてルイス・クーに冴えない男を演じさせ、男として、父としての復権も盛り込んで底上げしたのは成功。彼は「エレクション」の、天政会三代目・松村保を髣髴とさせる演技が素晴らしかったので、ベニー・チャンの前作「プロジェクトBB」のコメディ寄り演技に違和感があったが、今回は必死さでそれを払拭、オリジナルのクリス・エヴァンスのマッチョ男より切実だ。頼りなさがポイントだったウィリアム・H・メイシーの警官も、ニック・チョンにより男気指数が急上昇、「ブレイキング・ニュース」に通じる正義の熱演を見せる。舞台も香港への変更でアクションも激化、高低差を意識した場面転換やカーチェイス、動脈切りはないが重い暴力描写が充実しているので、二時間近い長尺化も必然性が高い。あとは悪役のジェイソン・ステイサムの男汁にどう対抗するか懸念されたが、リウ・イエは終始ティアドロップ装着&白髪頭で、表情を封印したのは大正解。オリジナルで粋だったエンドロールも完璧に再現され、実際は圧勝ながら、最後まで紳士的に気持ちのいいリメイクだ。


 一観客として「愛を読むひと」へ。西ドイツを舞台とした童貞喪失物語に、戦争が影を落とす話であるわけだが、この邦題は勘弁してくれ。劇中、ケイト・ウィンスレットが脱ぎまくっている上、男の回想をメインに話が進む割には、肝心の童貞喪失および、やりまくりのプロセスが美化されているとは言えないのが辛い。男の童貞喪失など、所詮はその場のノリの忌まわしいものでしかないので、振り返るからには徹底的に美化して描かれなければならないのだ。百歩譲ってエロくなかったにせよ、せめて胸キュン要素は(美化の手段として)必須であるべきなのに、それもない。これは殊に胸キュン要素に敏感な俺の感性が鈍磨しているのではなく、ドイツの話がドイツ語でなく英語劇になっているため、白けて感情移入を阻んだのも大きい。通常、優れたポルノグラフィほど、演出や語り口は巧みであるべきなのだが、初めは期待してもその後は盛り上がらず、陳腐と言わざるを得ない。基本的に老いたルックスの脳内シミュレートが容易にできる女優なので、ありがたみを感じない脱ぎなのだが、彼女の裸とセックスなら、「日陰のふたり」の方がはるかに陰湿なエロがある。また、主人公が後年引きずる愛憎について、主人公の内面が描き込まれていれば、まだ物語の展開上は納得できたのだが、結局主人公は筆おろしの相手にどういう感情を抱いていたか最後まで分からずじまいで、女の方もその掘り下げを拒むような行動の連続と来た。まぁ大筋としては原作に忠実ではあるのだが、若い頃の主人公にいい加減に美少年を配置したせいで、老成した主人公と全く似てなかったり、ある人物が老いると、その親を演じたレナ・オリンが子の老後を続けて演じる有様で、ウィンスレットだけは一つの役の一生を演じるなどバラバラである。しかも、極めて個人的な話ではあるのだが、キャストが被っているので歴史の重みを強調するためにモノクロで撮影された「シンドラーのリスト」とどうしても比べてしまう(故に劣る)し、適度にメロドラマっぽい原作に、過去の映画的に受けた要素を乱暴に継ぎ接ぎして、極めて安っぽくなってしまったのは作者に謝った方がいいぞ。久しぶりに頭に来たが、たまにはこういうのも経験しないとな。愛しのローズマリー (特別編) [DVD]絶対の愛 [DVD]ブレス [DVD]チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]ジョゼと虎と魚たち [DVD]メゾン・ド・ヒミコ [DVD]お茶の子博士のホラーシアター~TV「もんもんドラエティ」より~ [DVD]アキレスと亀 [DVD]悪い男 [DVD]パク・チャヌク リベンジ・トリロジー (初回限定生産) [DVD]ARAHAN アラハン (ユニバーサル・セレクション2008年第9弾) 【初回生産限定】 [DVD]セルラー [DVD]フォーン・ブース (ベストヒット・セレクション) [DVD]悪魔の赤ちゃん [DVD]ダニエル 悪魔の赤ちゃん [DVD]マニアック・コップ [DVD]フォーリング・ダウン [DVD]エレクション~黒社会~ [DVD]仁義なき戦い 完結篇 [DVD]プロジェクトBB ディレクターズ・カット デラックス版 [DVD]ブレイキング・ニュース [DVD]愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]日陰のふたり【字幕版】 [VHS]シンドラーのリスト スペシャル・エディション 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]