川が涸れたら、Pissed offまで飲み垂れ流せ。

 以前ここで、血液から赤血球が除去されたものが涙腺から流れ出すので、「涙は結局血であるのだ」ということを、知った驚きとともに記したことがある。だが実際の俺に涙や、それを流させる感情は今や非常に衰弱しているので、映画や読書を通して涙する以外は、わが身にどんなことが起きても泣くことができなくなっている。
 だから、泣けないままの人間としては、例として「最近射精をしてないな…」というような観点で言えば、俺の肉体に血から濾過されてきた涙は“溜まって”いるのであって、そういう意味では涙の“抜き時”として、たまにはわが身のことで泣きたい。もう泣かずに六年も経過しているのだ。
 だから、泣いてしまったらどうなるか、例として「最近セックスをしてないな…」というような観点で言えば、腰の振り方、互いの呼吸の合わせ方、果てはどこに入れていいかわからず、萎えてしまうような事態が起きかねないので、そういう意味では人間の残骸が辛うじてフラットを維持しているだけのため、今度こそ壊れるかも知れず、泣きたくない。あんな極限からここまで細々、死にながら生き永らえて来たのだ。
 それでも、酒の力を借りて感情的になるなど、“酔っている”との周囲の寛容を見込んで狼藉に走るバカは世の中に多い。殊に泣くためにその手口を使う大バカもいる。ならば俺も酒の力で泣けるまで酔えばいい、と思うこともあるが、完全に麻痺している俺は、ただ飲み続け、いつも気がつけば朝になっている。
 誤解を避けるために書いておくと、俺は酒が強いのではなく、単に麻痺しているためだと感じている。なぜなら、かつて坂口安吾も同じようなことを書いていた記憶があるが、実は酒を旨いと思ったことなど、生まれてこの方一度もないのだ。酒は口に留めずに、その嫌な味とともに飲み下す。そして荒れた胃袋が痛みとともに吸収し、酩酊がもたらされるまで待つ。
 こう書くと、結局酔ってるんで、情動は泣く方向にもシフト可能では?と感じる向きもあるだろう。しかし、俺がこれまでずっと享受して来た酩酊は、現実の虚しさを、ほんの束の間軽く麻痺させてくれるだけのもので、それ以外は極めて醒め切っている。だったら身体を壊してまで飲まなければいいんだが、その“現実の虚しさを、ほんの束の間軽く麻痺させてくれる”代用品は、少なくとも俺の生きる世界には存在しないんだ。
 よって、泣きたくなったら酒を飲んでみたりはそれなりに試みても、体内を巡るアルコールは涸れた“眼底の川”に涙を補給する前に、小便になって大放出されてしまうのだ。ここまで書いたら、もう分かるよな。つまり、俺が飲んで小便に行く回数が、だんだんと上昇し、小刻みになってきたら、俺はチンポを通して泣いているのだ。そうやって出せない涙をトイレに垂れ流してるのだと解釈して構わない。でもその時ツラは、間違いなくヘラヘラ笑いを浮かべているだろうが。


 一観客として「96時間」へ。ハッキリ言ってこのタイトルは、そのリミットの根拠が特にないから意味不明。つまりタイトルは邦題も「TAKEN」でいい。これだと、既に動き始めている続編を、「96時間 PART2〜帰ってきたふたり〜」にする訳にも行かんし、困るぞ。まぁ「アルティメット」の監督だけに制約のある設定はお手の物だろう、と言いたいところだが、これまたリュック・ベッソン脚本なのだ。とはいえ、ベッソン脚本作品の中でもかなり面白い部類なのは、監督以下キャスト等の功績にしておきたい。というのも、事前情報では親子版「フランティック」というか、アクション寄りの「ハードコアの夜」かと思っていたが、実際は構造的にはセガールの「沈黙の聖戦」と同じで、そこに「ホステル」やら「イースタン・プロミス」風味を加えたものだったのだ。そんないいとこ取りの設定の中、娘奪還に爆走する親父がリーアム・ニーソンなのが、やや功を奏している。完全に新境地と言えないのは、知性派に見えるニーソンが193cmの格闘体型を誇る、元「ダークマン」だというだけでなく、ジェダイ・マスターを初めとして結構アクションしているからである。それでも娘を奪われた復讐心というより、時間に追われていることから、比較的ノー・マーシーに拷問や殺戮を繰り返すので、その爽快さと重々しい暴力性は素直に評価したい。ただ、敵の正体についての鍵を握る男がせっかくチャールズ・マンソン似なので、もっと有効に使って欲しかった。女優的には、“ゼニア・オナトップ”であり、“フェニックス”(つまり立派なアクション女優)であるところの元妻、ファムケ・ヤンセンがうろたえているだけで、さらにバカアクションへの貢献が期待できるホリー・ヴァランスが出てくるのに、ただの歌手役というのは肩透かしだった。こうしたキャスティング的な難点は確かにあるが、今回は暴力を磨かずに来た娘の自業自得であり、正直続けようがない話なので、続編がどう展開することになるか非常に気になる。ちなみにクライマックスで敵が使うナイフの形状が特殊で美しく、そこも注目。


 一観客として「グッド・バッド・ウィアード」へ。そもそもタイトルが「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」へのオマージュであって、物語の構造も各特性を持った三人の男が入り乱れ、終盤の三すくみに至るという点では同様である。だが作品全体では、元ネタのマカロニより、ジャンルそのものへの憧憬が強い。また、マカロニだけではないからこそ、開巻早々大陸横断鉄道が登場するのは、マカロニが本家と融合した象徴に「ウエスタン」を引用しているようにも見えるのだ。それに、とにかく開放的なロケーション撮影に幸福感が漂っており、クレーン撮影を多用した、冒頭の見渡す限りの地平線には、鳥肌を通り越して涙が出てきたぜ。非アメリカ圏でマカロニ愛を掲げたものには、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」があるが(「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」はマカロニの実質ロケ地のスペインなので別)、ファンタジーとしてセットを使ったりなどしているのに対し、本作は現実の時代背景に基づいているので、極端な武器(戦法)の登場もトリッキーな展開もなく、実景ロケと話の面白さで純粋に引っ張るのは頼もしい。しかもマカロニ引用曲をサントラに多用していた、「キル・ビル」から孫引きみたいに引用された「悲しき願い」は、オリジナルと違い歌なしの方が、チョン・ウソンによるウィンチェスター銃のスピン・コッキング射撃(この辺が「勇気ある追跡」とかの、ジョン・ウェイン系正統派からの引用になる)や、馬チェイスの疾走感が映えるので正解。あとは俺がタイトルを知って一番気になってた、オリジナルで有名な、例の台詞だが、一見なく、ただ字幕監修の不調法である可能性も否めないため、日本語吹き替え版を待つとしよう。タイトルと言えば、オリジナルと違う部分こそが見せ場という強調でもあるので、“ウィアード”担当のソン・ガンホはその宣言に恥じない大暴れ。なので当然、チン出しもしてるらしい次作「Thirst」は、ヴァンパイア映画でもあるので期待は高まるが、それに気をとられて、日本軍将校・白竜の大活躍&シャウトも見落としたくはない。坂口安吾全集〈15〉 (ちくま文庫)96時間 [DVD]48時間 [DVD]48時間 PART2 帰って来たふたり [DVD]アルティメット [DVD]フランティック [DVD]ハード・コアの夜 [DVD]スティーヴン・セガール 沈黙の聖戦 特別版 [DVD]ホステル 無修正版 コレクターズ・エディション [DVD]ホステル2 [DVD]ダークマン [DVD]スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス [DVD]ゴールデンアイ (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]X-MEN トリロジー (ボーナスディスク付) 〔初回生産限定〕 [DVD]DOA デッド・オア・アライブ [DVD]続・夕陽のガンマン [DVD]ウエスタン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ [DVD]マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾 [DVD]キル・ビル Vol.1 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]キル・ビル Vol.2 【プレミアム・ベスト・コレクション】 [DVD]悲しき願い’60s to ’9勇気ある追跡 [DVD]