昨年に倣い、もっと乱暴に。

 “あの時”の続きをしたくって、以下のような序列をつけてみたわけだ。こんなものが恒例になるのは馬鹿馬鹿しいが、無駄に意味を持たせるためには仕方がない。


1.「ウォッチメン

2.「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」

3.「ドゥームズデイ

4.「パニッシャー:ウォー・ゾーン

5.「レスラー」

6.「3時10分、決断のとき

7.「バーダー・マインホフ 理想の果てに」

8.「グラン・トリノ

9.「チェイサー」

10.「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」


 選出基準は去年と同じ。暴力描写の秀逸さ、殺伐(実社会からの反映)、劇場での鑑賞作品ということ。対象作品は90本弱から選定。各作品の順位やその内容如何に関しては、あまり多くを語る必要もないだろう。いずれも既に語っているから。


加えて、


 一観客として「イングロリアス・バスターズ」へ。家族を嬲り殺しにされていないので、その気がなくなったという設定なのか、ヒロインの個人的な復讐心が途中でどこかに行って、(タランティーノ自身の意図として)民族レベルの復讐心にすり替わっているのが、リベンジ・ストーリーとしては大いに不満。だが、それゆえに復讐の対象たるべきランダ大佐のエンディングまでの動きが活きてくるわけだが、逆にヒロインの魅力は出だしからない上に最後まで伸びない。それもこれも、実のところヒロインは“ユダヤ系フランス人”であれば誰でも成立したのであって、単純に起用において、メラニー・ロランによる手練手管により、タランティーノが最も激しい快楽を味わったから、というだけに過ぎない。恐らく事情は「パルプ・フィクション」でのマリア・デ・メディロスの場合と同じだろう。要するに、数年にわたり断片的にリークされてきた、マイケル・マドセンの出番だとか、「FDTD」、や「キル・ビル」、「グラインドハウス」とかにも登場する、アール・マッグロー保安官の過去が描かれるとかの構想は全部ボツったということだ。これも尺のために書き直したせいで、本人は続編やりたいらしいから、サイドストーリーとしての映画化を待つしかない。さらに短縮化するために、先代の映画館主、マギー・チャンのくだりも全カットされ、今回は東洋的なものが入る余地はなく、エルモア・レナード作品のように、全てが相関していた従来の作風とも違うので、かなりの異色作ではある。それはブラッド・ピットが出ている以外に日本の観客に訴えるものがないことを意味し、サミュエル・L・ジャクソンのナレーションも意識して少なめにされている。代わりに、マイク・マイヤーズのくだりが必要以上に強調されているのも意味不明だったりする。ただ、アジア的なものを排することで浮かび上がってくるのは、監督にとっての全てのヨーロッパ映画への愛であることは間違いがなく、とてもアメリカ映画とは思えないエレガントな空気が、作家主義と共に心地よく流れる。これは彼が映画を通してしか世界を理解できなかったからこそ到達しえた人間洞察とその深みの極点であり、全て映画的なフィルターを通した上で解釈された歴史、という点でも画期的だ。また、強いて過去の作品との関連を指摘すれば、後にノワールとして結実する、アメリカのパルプ・フィクション受胎の瞬間をヒロインの読む本でリアルタイムで表現しており、その姿は、ウンコしながらマンガを読むヴィンセント・ヴェガに通じるものがある。また同時に、そうしたサブカルチャーへの言及が、咄嗟に“アントニオ・マルゲリーティ”を名乗る登場人物が巻き起こす、驚天動地の歴史改変と共に、意図的な志の低さとして、最も評価すべき点なんだろう。


 一観客として「2012」へ。以前から日本をネタとして取り入れて来たエメリッヒの結論。日本の位置づけの縮小に加え、まずは先陣を切って戦いに赴いた、「ID4」との大統領の扱いの格差に着目すべき作品である。タイトルはマヤ文明の予言でも何でもないメッセージを起点としているが、物語のベースは旧約聖書ノアの箱舟に落ち着く。これだけのお膳立てがあれば、後はブッ壊せばいいんだから、二次元特撮の限界まで見せればいい。後に「アバター」を観て感じたのは、本作が二次元特撮の飽和状態(インフレーション)として、終わっていく“2012”を自ら示す羽目になっているということである。映画のテクノロジーに関しては別にそれでも構わないが、本作は物語に現実の世界情勢やそれにまつわる揶揄を織り込んでいるから単純ではない。よりにもよって中国(の統治するチベット)の扱いとか、予兆を見出すのがインドだったり、豪快に危機を逃げまくるのがロシア人だったりと、いわゆる“先進国”というものは既に幻想に過ぎないということを突き付けてくれる。映画自体は世界規模の丹波哲郎版「ノストラダムスの大予言」というか、ジャガーバックスのような、毒々しい分かりやすさに満ちていて、その破壊は美しくもあるので、実は全く終末論にも最後の審判にも見えないのだ。むしろ結果的に大ヒットしているという、中国の人々こそ安心していい。これが危機を訴えるものでないのはもちろんだが、風刺でもある以上、物語上大して役に立たされなかった我々(日本人、アメリカ人、フランス人、イタリア人、監督であるドイツ人も含む“先進国”の人間)が、これから最も苦しい思いで国家として死んでいくことに対する覚悟を喚起しているだけなのだ。だから作品で取り上げられている中国などは、それがいいとは言わないが、チベット弾圧を止めようが続けようが繁栄するよ。あるとするなら、先述の括りで言うところの我々が、「地獄の子守唄」ばりに、国として、民族として(もちろん文化としても)死刑宣告されていることを戦慄すべき映画なのだ。従って当然、ゾンビ映画のような、地表が維持されつつ人間性だけが崩壊していくような深みを期待してはならない。難を言えば、いつも通り子役の選択基準が大人に媚びており気持ち悪いだけでなく、主人公周辺の人間関係が「宇宙戦争」を想起させるのは、かなり作品全体を浅くして損している。ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]ラブホテル [DVD]ヘルボーイ ゴールデン・アーミー リミテッド・バージョン [DVD]ドゥームズデイ アンレイテッド・ヴァージョン [DVD]パニッシャー : ウォー・ゾーン [DVD]レスラー スペシャル・エディション [DVD]3時10分、決断のとき [DVD]グラン・トリノ [DVD]チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで スペシャル・エディション [DVD]イングロリアス・バスターズ [Blu-ray]パルプ・フィクション [DVD]フロム・ダスク・ティル・ドーン [DVD]キル・ビル Vol.1 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]キル・ビル Vol.2 【プレミアム・ベスト・コレクション】 [DVD]グラインドハウス コンプリートBOX 【初回限定生産】 [DVD]地獄の謝肉祭 [DVD]地獄の子守唄 (マジカルホラー (3))ノストラダムスの大予言―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日 (ノン・ブック 55)スマイルBEST ゾンビ ディレクターズカット版 [DVD]スマイルBEST ゾンビ 米国劇場公開版 [DVD]スマイルBEST ゾンビ ダリオ・アルジェント版 [DVD]宇宙戦争 [DVD]