溜まったものは出しておく。

 溜めておくのは身体によくない。それは激しい怒りや悲しみで既に身をもって知ってしまったので、もう反射的に出す。
 だから溜めて溜めて出す、といった独特の楽しみも、次第に忘れつつある。これを繰り返すと、体内で前倒しの時差ボケのような現象が起きて、溜まってなくても出すようになってしまい、その傾向が加速する羽目になる。早めに寝ているとどんどん早めに寝ないと気が済まなくなるようなもんだ。
 実を言うと、この現象に関しても、生理的な意味で次第に身をもって体得しつつあるのだ。それは外で変な気を起こさないためと、変な気を起こしているところを誰にも見せないための、自己管理の成れの果てとして。
 だが同じ現象が脳内にも及ばなければいいと願いながらも、まずは脳内に溜め込んだものは出しておく。こればかりは出しても気持ちよくはないんだけどな。


 20世紀フォックスさんのご招待で「クレイジー・ハート」試写へ。ドサ回りの中年カントリー歌手の生き様を描いた、ジェフ・ブリッジスの集大成。それはこの作品が特にアカデミー賞を筆頭に、主役を評価する形で賞がもたらされていることからも自明だが、元々常態ではない役ばかりを多く振られて来た俳優だけに、今回はその培ったヨレヨレ演技の全てが投入されている。要するに「スターマン」の覚束なさや、マット・スカダーや「ビッグ・リボウスキ」系の各種の酩酊状態、音楽や表現への傾倒といった、ブリッジス本人のキャラまで投入しような赤裸々さが全編に漲っている。演者によっては共感されない、「レスラー」にも似た情けなさ全開のエピソードにどこまで耐えられるかは、ブリッジス出演作の経験値を問われているかのようで微笑ましく、寅さんにも近い愛すべきダメ(だが才能に恵まれている)男の旅路を、ロバート・デュヴァルコリン・ファレルがご祝儀のごとく援護射撃するので、総じての満足度も高い。しかし、この主人公的な話は日本の場合、ドサ回りの演歌歌手でも流しは成立しにくいので、理解のために直接変換しづらいのは事実。だが俺は身近な方として、奇妙なご縁から長年お世話になっている、和気優さんに重ねてしまった。和気さんは全然ダメではないが、弾き語りで全国を飛び回る様はそのままだ。先日、和気さんを追った「終わりなき旅」が、「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」で入選したが、旅先での俺の知らない和気さんの姿を、この両方から少し見せてもらった気がした。


 一観客として「シャッター・アイランド」へ。この原作者の作品は、明らかに「スリーパーズ」の影響下にある「ミスティック・リバー」のようなもの以外にも、探偵というリアリティのないものが繰り返し出る話も書いているので基本的に興味がない。それによく考えれば、(単行本が袋とじになっていたことから)読まずとも結末が想像できる原作なので、その映画にしても言わずもがなだ。映画だけで観る人も、それが望む方向性でなくてもミシェル・ウィリアムズが出る時点で結末はある程度読めるはずだし、さらに「洗礼」や「ドグラ・マグラ」とか、リメイクも進行中の「エンゼル・ハート(堕ちる天使)」などを既に知っていれば謎に惑わされることもない。当然、スコセッシ作品に謎を求める奴はいないので、別監督でも良かったが、その謎自身に後々覆されるにしても、暴力にしか興味のないスコセッシにとって、その欲求は“第二次世界大戦の爪あと”、“非米活動委員会”、“MKウルトラ計画”、“ロボトミー手術”など、時代を象徴するキーワードを描くことで果たされて見える。舞台となる50年代こそアメリカの腐敗と爛熟の根源なのだから、本当はジム・トンプスン作品程度の規模で、個人の狂気を突き詰めた方が持ち味は出るだろうが、スコセッシという“産業”にはもう無理なのかも知れない。だからこそ気乗りしない本作を消化して「沈黙」に至ることこそ、本来の望みなのだろう。それでも良心的に解釈すれば、(デ・ニーロやジョー・ペシが体現してきた)従来の外向的な狂気に対し、キリスト型の内面的な狂気を突き詰めて描いたものには見えるので、テーマを自身に引き寄せた監督の勝利であることは間違いない。キチガイや孤島といった舞台も極めてそれらしく描いているし、“ロールシャッハ”ことジャッキー・アール・ヘイリーとの初コラボレートも、出番が少ない割りに吉と出た。個人的には思わせぶりな態度が美しいエミリー・モーティマーの贅沢な起用こそ、息を呑む瞬間であった。   


 一観客として「アイガー北壁」へ。その名の通り、「アイガー・サンクション」と舞台を同じくした作品だが、ロングランしているので、「クリフハンガー」やら「バーティカル・リミット」的アクションを期待。しかし、実態はナチス政権が、未登攀領域を制覇した者に、ベルリン・オリンピック金メダルの授与を公言したことから、功を焦ったクライマー達の競り合いと、結果としての大失敗を描いたものであった。とは言っても、ナチはあまり物語に関係なく、ナチが出てくる映画としての楽しみは薄い。さらに、あくまで失敗例であり、「運命を分けたザイル」のようなサプライズもないので、その死を受け入れる豪快さは、過去に「激辛!アジアン・ムービー・ジャンキーズ」でも言及した、「K2/愛と友情のザイル(ハロルドとテイラー)」の“藤岡弘、”に勝るものではない。主役のベンノ・フュルマンは「スピード・レーサー」の警部という程度の認識で充分だが、「悪霊喰」のような異形性をアピールしないので、クライマー2名の登攀を見守るヒロイン、ヨハンナ・ヴォカレクの存在感が、「バーダー・マインホフ」の奔放な女闘士役とのギャップもあって突出している。確かに演者らも限りなく実景に近いロケーションで撮影に臨み、特殊効果も違和感ないレベルに留めているので、単に高いだけでなく寒いという、大小便などが心配になる迫真性はある。ただ、登攀自体が完全に絶壁を登るという、自然に逆らった行為なので、少しでもコンディションや装備に難があれば、即引き返した方がいいという教訓が一番大きかったりする。


 一観客として「TEKKEN」へ。格闘ゲームの映画化なので、他のジャンルのゲームに比べて縛りは緩そうだが、案外暴走もなかったんでシリーズ化は期待できる。やはり「死の標的」や「ラピッド・ファイアー」をものにしているドワイト・H・リトルだけあって、久々の本編だが無駄なく楽しめた。基本的に格闘ゲームに登場するキャラは実在の人物をこっそりモデルにしていることが多いので、実写化するならば当人にオファーした方がいいに決まっているが、元ネタが了承するとは限らない上、ギャラも高い。さらに存命でない場合もあるため、過去の格闘ゲーム映画化を見ても分かるように、オリジナルとは違った視点(敢えて離れること)で、新たなイメージ確立に努めている。しかし、それでも最低限動ける人間でないと務まらないので、かつてケンシロウを演じたゲイリー・ダニエルズをブライアンに配したり、そこそこ気を遣っているのは分かる。とはいえ、ハゲが不自然ゆえにキャラとして強烈な、ケリー=ヒロユキ・タガワ演じる平八は、今回アクションがないため勿体なく、同じく格闘大会に参加しないタムリン・トミタが、主役と錯覚するほど出番が多いのも事実。ただ、珍しく素顔で登場しているルーク・ゴスや、とても動けそうにないクリスティが無駄にフォトジェニックなのも実写ならではのお得感である。だが、何と言っても一番影が薄い主役が、既に「ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション」に出ていても後回しにされている点に、「ユニ・ソル」でこの男を探すのに躍起になる自分を確信したね。  


 一観客として「フェーズ6」へ。で、一応世界は映っている限りでは滅びつつあるように見えるけど、結局その原因はどんな酷いウィルスなの?頭からケツまで集中して観てもそれが分からない。要するに雰囲気だけで、物語へのふくらみや観客がその前後あるいは背景を類推するだけの材料が全くないまま転がっていくのだ。だから実は非常にローカルな話なのかも知れないし、主人公たちもバカばかりであるだけでなく、状況的に何をしたらいいのか全然分かっていないのである。これじゃ麗しいパイパー・ペラーボをバイキン遊びの対象にしているだけにしか見えない上に、無理矢理「キャビン・フィーバー」と同じギャグでウィルス禍を強調したつもりになっていても不十分である。しかもこうした映画にはスケールの大きい“いじめ(的)描写”を少なからず期待する向きも多いと思うので、もっと麗しいエミリー・ヴァンキャンプも犠牲にしたり、チンポをリステリンで洗う配慮が欲しかった。防護服やテントの多数登場に、やや「ザ・クレイジーズ」だとか「ラビッド」的なものを期待もしたが、せめて「ドゥームズデイ」でも参考にして欲しいところである。こりゃ本当にリメイク版「The Crazies」に期待せざるを得なくなっちまった。しかし、今回のクリス・パインは「スモーキン・エース」における“トレモア兄弟”の長男を継承したバカそのもの。「Thor」も待ち遠しい“カークの親父”が、「パーフェクト・ゲッタウェイ」で小汚い悪党を演じていたように、新世紀におけるエンタープライズの艦長はアウトローの役もできなくてはいけないということだな。スターマン [DVD]800万の死にざま [VHS]8 Million Ways to Die [VHS] [Import]ビッグ・リボウスキ【廉価版2500円】 [DVD]レスラー スペシャル・エディション [DVD]第1作 男はつらいよ HDリマスター版 [DVD]少年院ロックシンガー全国弾き叫びロード、16000kmシャッター アイランド [DVD]スリーパーズ<DTS EDITION> [DVD]ミスティック・リバー 特別版 〈2枚組〉 [DVD]洗礼 1 (ビッグコミックススペシャル)洗礼 2 (ビッグコミックススペシャル)洗礼 3 (ビッグコミックススペシャル)ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)ドグラ・マグラ [DVD]エンゼル・ハート [DVD]堕ちる天使 (ハヤカワ文庫NV)沈黙 (新潮文庫)グッドフェローズ [DVD]カジノ 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]最後の誘惑 [DVD]アイガー・サンクション 【ベスト・ライブラリー 1500円:アクション特集】 [DVD]クリフハンガー [DVD]バーティカル・リミット CE [DVD]運命を分けたザイル [DVD]K2 [DVD]スピード・レーサー [DVD]悪霊喰 [DVD]死の標的 [DVD]ラピッド・ファイアー [DVD]北斗の拳【劇場版】 [DVD]ユニバーサル・ソルジャー [DVD]ユニバーサル・ソルジャー ザ・リターン [DVD]キャビン・フィーバー スペシャル・エディション [DVD]ザ・クレイジーズ [DVD]The Crazies [DVD]ラビッド [DVD]Rabid [VHS] [Import]ドゥームズデイ アンレイテッド・ヴァージョン [DVD]スモーキン・エース 【スモーキン・エース2発売記念!】 [DVD]スター・トレック スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]パーフェクト・ゲッタウェイ [DVD]