これが「下げチン」であったならば...and more !

 そうではなくても、何となくその可能性を感じた。というのも、気づいたら俺がかつてバイトやなんかをしていた企業、在籍していた組織は、既にそのほとんどすべてが壊滅状態なのである。
 その考えに思い至らせた原因も、最近語学学校が潰れたせいで、かつて俺がそこでポスター貼りをしていたことを思い出したからなのだが、そこを起点にその前後に連なる流転に思いを馳せたら、会社が潰れていなくても俺の所属した部署は解散だったりで、たまたま全部そうだったということだ。その全てに特定の人物が関わっているならば、その良し悪しによって、そいつは俗に言う“(「上げ」or「下げ」)+(「チン」or「マン」)”ということになる。
 この場合、その組み合わせから言うと「下げチン」ということになり、単純にそうした負の力を発する傾向を俺が持っているなら喜ばしいことなのだが、恐らく実際はそうではない可能性が高い(むしろ、そんなものはないと証明された)ことが問題なのである。
 一般にこの世界を支配しているように見える法則として「エントロピーの法則」というものがある。要するに俺は、それを体感するほど生きてしまっているというだけなのだ。
 俺の生自体は別に長生きでも何でもないが、「エントロピー〜」が絶対的なものでなくても、この生きて来た時間はそれらの脆弱な人間による組織を解体するには充分に効力を発揮する時間であった、ということだけは言えるだろう。
 作り上げられた肉同士の関係は風化し、今あるものも次第に風化していくほかはない。その中で残っていき、これからそれを時間による消去法から、倫理ではなく選び取るべきものと俺に見せてくれるものは何なのか。それを測る基準は多分、生まれ育った“家族”に行き着くのではないかと思う。だがそれと同じものを形成していくには、俺自身も淘汰されるべきものとして、余りにも無力なのだった。
 だから移動していくのではなく、Uターンするような曲線を描くだろう。奇跡はここに止まっても、それだけで充分凄いことだったということだ。


 ギャガさんのご招待で「マイ・ブラザー」試写へ。アフガンで戦死したと思われていたが後日生還する、優等生だった兄(トビー・マグワイア)と、ムショ帰りだが兄貴への負い目から責任感に芽生えていく弟(ジェイク・ギレンホール)。ところが弟は“兄貴の嫁さん”と一線を越えつつあり、狂いながら兄貴も疑心暗鬼に駆られていた。と書くと、寒々したアメリカが舞台なもんで、現代版「ディア・ハンター」かと受け止めがちである。だが実は数年前のデンマーク映画ある愛の風景」の非常に忠実なリメイクで、戦争と家族の問題を扱っている点では「〜ハンター」よりテーマは深く普遍的である(暴力性は低い)。特に今回は「スパイダーマン」2→3における降板騒動で名前の挙がった二人が、実際にキルスティン・ダンストを介した“兄弟”でありながら兄弟を演じる点が感慨深かったが、兄嫁ナタリー・ポートマンも、あんまり劇中で「美人だろ?」と繰り返し言われるんで初めて美しいと思わされた。とはいえ既に「ディアボロス」や「グラディエーター」といった作品にて、近親相姦的イメージの強い役を連投したオリジナル兄嫁、コニー・ニールセンの方が、男に勘違いを抱かせる危うさがある。それでもマリファナ吸引場面や子持ち役へのチャレンジは、主要キャスト全員に共通して評価はできるので、何でも自国民の立場に再構築しないと理解できないアメリカ人向きには上出来のリメイクだ。また、このところ「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」など雇われ仕事を経たジム・シェリダン的にも、彼らしく余韻のある適度な重みが心地よい。 


 一観客として「アリス・イン・ワンダーランド」へ。これは撮影自体が3Dじゃないので、「コラライン〜」なんかと比べると飛び出し方が劇的に違う。結局設備が現代風で、無駄に金を取ることはあっても、飛び出し方が平面的なのだ。しかも非常に残念なことに、ディズニーが金出してるからコントロールが効かなかったのか、ティム・バートンの中にもう歪んだルサンチマンがないかのどっちかなのは間違いがないのだが、もはやバートン作品である必然性が全くないのである。アリスの話なのにポスターがジョニー・デップとなっていることからも分かるように、単なるディズニー印のジョニー・デップ映画(という誇大広告)であって、大盛況であったが誰もバートンなど求めていない雰囲気は露骨であった。もちろん物語上もデップこと“気違い帽子屋”の出番はそんなに増やせるはずもなく、「鉄板英雄伝説」における“偽ウォンカ”ことクリスピン・グローヴァーとの共演にこそ一番注目していたのだが、大した絡みもなかったのである。まぁ変態とはいっても童貞臭さが売りのバートンには酷だが、大人になったアリスの物語としては、記憶が欠落しているにしてもセックスのメタファーは欲しかったが当然皆無なので、元来残酷で歪んだ物語である原典に上書きされるものは何もなかった。ただし、“チェシャ猫”の浮遊感は完璧であるし、赤の女王の頭のデカさと、白の女王のパーツのデカさをそれぞれ奇形として解釈しているところはバートンの意地だろうか。しかし個人的に唯一爆笑だったのは、蛙がビビってるところだけなのであった。


 一観客として「息もできない」へ。確かに俳優の自作自演によるチンピラ話という意味では「竜二」に通じるものがある。だがその実態は「チ・ン・ピ・ラ」に近く、“金子正次”というよりは、その無断盗用に過ぎない“ナガブチ”の「とんぼ」的である。そもそも作品自体がやくざ的なものを描こうとしているのではないので、深くこうした視点で断じる必要もないが、貧困や格差に基づく社会派作品であるため、低予算を逆手に取った登場人物の貧乏臭さ、ダサさにおいては大変なリアリティがある。ただ、やはり低予算なので、暴力の不快さを描くには(それをリアルという向きもあるだろうが)、殴打における重みのない音が陳腐で仕方がないのだ。それは複雑な家庭の事情の割には画面からも説明が少ない、という観客に委ねる部分の多さと相俟って、後半のエモーションを殺いでしまい損をしている。確かに終盤一番力の入った暴力描写の時間差攻撃は、金の使いどころを心得ている心のこもり様であるが、最終的に一番暴力的だったのは子供の振り回す枝が主人公の目に入ってリアルに痛がっているところだと思う。主役はもちろんのこと、舎弟役も今後同じ路線で行って欲しいが、何よりこうした不満点を解消した次回作が気になる監督(主役)の作品であることは間違いがない。だが、上映前にわざわざ画面で注意しているのに、カサカサとコンビニ袋から終始菓子を食うババアを本気でハンマーで殴ろうかと思ったのは事実。ライズで日曜ラストにこのババアを発見したら、観客は全員、コイツを処刑する権利があるはずだ。ただし、一切無音が条件だがな。


 一観客として「タイタンの戦い」へ。既に予告で分かっていたが、やはり実際に観ると飛び出す演出が意識的にされており、3D感という点では素晴らしい。そしてコマ撮りのモンスターをCGに置き換えているのだから、レイ・ハリーハウゼンの全仕事を否定したものなんじゃないか?という素朴な疑問に対しても、様々な引用によるデジャヴの嵐ながらも非常にテンポが良く、映画として完全に別物かつ佳作だったのだ。特に日本版ポスターを車田正美先生に依頼しているように、リーアム・ニーソン達神々が聖衣(クロス)着用で眩いのは斬新だ。今回ポセイドンの影が劇的に薄いのが「パーシー・ジャクソン」との大きな違いではあるが、その分ペガサスが白ければ“後藤恭子”に主題歌を歌って欲しかったほどファンタジーしている。とはいえ、サソリとの闘いは「スターシップ・トゥルーパーズ」における“タンカー・バグ”とのそれであり、盲目の魔女のデザインはギレルモ・デル・トロ作品の影響(“ペイルマン”や“死の天使”)が直感的に想起される。さらに怪物に変形させられた先王と“ジン”に至っては「300」の“エフィアルテス”や“不死軍団”で、こうした単純な引用がナイス。また、ヒロインに「プリンス・オブ・ペルシャ」と同じ女優を起用するところなどは俺の行動が読まれているとしか思えない。しかし、たった一つの難があるとすれば、かつて、小学館の入門百科シリーズ「天文学入門・宇宙と星のふしぎ」の“アンドロメダの挿絵(裸)”で抜いた過去のある人間としては、やはりギリシャ神話に坊主頭は浮いて見えて仕方がないのだった。ディア・ハンター デジタル・ニューマスター版  【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]ある愛の風景 スペシャル・エディション [DVD]スパイダーマンTM2 デラックス・コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]スパイダーマンTM3 デラックス・コレクターズ・エディション (2枚組) [DVD]ディアボロス [DVD]グラディエーター 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]マイ・レフトフット [DVD]イン・アメリカ/三つの小さな願いごと [DVD]父の祈りを 【ザ・ベスト・ライブラリー1500円:2009第1弾】 [DVD]ボクサー [DVD]ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]アリス・イン・ワンダーランド ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]コララインとボタンの魔女 スペシャル・エディション [DVD]鉄板英雄伝説 (特別編) [DVD]チャーリーとチョコレート工場 [DVD]竜二 [DVD]チ・ン・ピ・ラ [VHS]チンピラ?TWO PUNKS? [DVD]タイタンの戦い 特別版 [DVD]パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 [DVD]スターシップ・トゥルーパーズ [DVD]パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]ヘルボーイ ゴールデン・アーミー [DVD]TOKUMA Anime Collection『アリオン』 [DVD]おしえてアイドル 80’sアイドル・コレクション 徳間ジャパン編 初恋進化論300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]宇宙と星のふしぎ―天文学入門 (小学館入門百科シリーズ 31)