本当の勝負服(=覚悟服)について。

 基本、誰が何を着ようと自由な世の中であるはずだが、そんなものは建前でしかない。しかも外は悪意だらけの戦場なので、戦場に着ていく服がタフであるに越したことはない。それが分かっていない奴は有事の時にむざむざ殺されるだけである 常に現実として殺し合いが展開されているわけではない(一般的な解釈の戦場ではない)ので、虚栄心に基づく誇示(=ファッション性)はそれなりにあるのは、それが殺し合いの原因に発展することがあっても仕方がないことだとは言える。
 だがファッション性と堅牢さ、ファッション性と動き易さの共存は可能なはずであり、それぞれを追求しつつ、かつ着心地もいいという地平は、有事を考えれば一つの理想として必要だろう。例えば、有事に走れないなど、対処できない格好の奴は真っ先に死ぬ奴である。目立つ色の奴もしかり。
 ジョーカー「よく女子供が殺せるな」
 ドア・ガンナー「簡単さ、動きがのろいからな」
 〜以上、“殺す側”の非情でも率直な言い分。「フルメタル・ジャケット」より〜
 そのくせ死を許容するような覚悟もない奴がフラフラしているのが現状なのだが、本来外に出る(“=仕事に出る”)という意味においては、職場も戦場の軍隊と同じで、軍隊であるならば所属するものの別なく同じ軍装が徹底されるべきである。
 だからこそ、ある種の職場では無条件に非礼のないようにということも兼ねてスーツを着るという世界もあるのだ。そうした職種についての考えは、実際は単に考えもなしに行っている人間が大半で、実際はそんなことがないから言うのだが、個々がその認識をしっかり持てているのであればそれは素晴らしいことである。個人的にはスーツが動き易さや防護性に優れていないために、全く支持する考えではないが、現実がそうであるならば尊重できる認識だ。それはそのスーツが持つ禁欲性が、権威を尊重する人種には礼節を想起させるからなのだろうが、ただ実際は概念や精神論ばかりで制度として全く徹底されておらず、形骸化するのみである。
 なぜ徹底されていないのかは一目瞭然だが、誰もが気付かぬ振りである現状では、軍隊で人を隔てるものは階級以外に存在しないという事実さえも、考えに至る者が少ないに違いない。ある種の職場において、以上の思想からその構成員に一つの軍装を求めるならば、その禁欲性は遍く全ての構成員に徹底すべきで、ダブルスタンダードが許されるべき問題ではない。 そして禁欲とは、肌の露出では断じてないし、戦場における余計な肌の露出は死を招くものでもある。それでも露出がしたいなら、戦場においては集団からの放逐や、戦場での死についての覚悟が必要なのは言うまでもない。
 従って、その覚悟を逐一各人に強いず、規則も遍く徹底されていない組織は、もちろん組織として不完全であるし、いかなる信用も置けないものである。徹底できないなら、全て放棄する組織の方が、軍隊的な機能はさておき、人間の自由意志の帰結として信用できるのは間違いがない。やるなら、遍く。できなけりゃ、さっさとやめちまいな(ここでは“外に出る”=仕事に出る、という枠に当てはまらない奴はただの穀潰しなので除外した)。


 一観客として「グリーン・ゾーン」へ。ハッキリ言って、「もうオチは分かっているんでしょ?(伊達邦彦風)」と観る前の誰にでも聞きたくなる、イラク大量破壊兵器探索を描く作品である。こう言ってしまえば物語自体は予め結果が判明している「ワルキューレ」的にならざるを得ず、そこにサスペンスを見出せるのか?という向きもあるだろうが、実際それは全て見せ方次第であることが証明された好例であったのだ。 ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンのコンビとしては初めての実話ベース作品であり、監督は過去に「ユナイテッド93」等でそのドキュメンタリー的活劇を確立しているが、よりその手法を洗練した作品として結実している。しかし手持ちカメラ撮影の部分は毎度のごとくかなり酔うのは仕方がないが、「ボーン」三部作のような特殊な状況下の格闘がなくても緊張感が持続するのは、脚本のブライアン・ヘルゲランドも交えた物語や視点の分散、切り替え、統一など、表現的な試行錯誤の成果と言え、状況把握もしやすい。活劇に寄り過ぎた「ブラックホーク・ダウン」や、兵士の愚行を突き放し過ぎた「リダクテッド」などを例に出すまでもなく、これらを超えた現代戦争アクションの最新型であると言い切って良い。また時期の近い同背景の作品、「ハート・ロッカー」と対称的に、戦争そのものをマクロに捕らえようという努力が随所に見られ、「米英の仕業でこのような有様になってしまったのだ」と言わんばかりに劇中度々挿入される、戦火に包まれたバグダッドの俯瞰映像に、スペクタクルと裏腹の戦慄を禁じえない。


 一観客として「パリより愛をこめて」へ。アメリカ人俳優がリュック・ベッソンに呼び出しを食らい、おフランスに出張するフォーマットは同じなため分かりやすいが、「96時間」の監督の新作である。前作が意外にハードな描写を追求したアクションとして収穫だったように、本作も軽いバディ・ムービーと思わせながら、アクション的に過剰な描写を散りばめて、適度にひやひやさせてくれる。ヘナチョコ担当、ジョナサン・リース=マイヤーズはともかく、巷ではトラヴォルタがハゲを開き直ったせいであまり気にされていないが、頭が怪しかったのは「ビー・クール」辺りから明白だし、そもそも彼は「ブロークン・アロー」やら「フェイス/オフ」にて、ジョン・ウーの銃撃戦を実体験した猛者なのであって、ベッソンがそのスキルを借りたかったのは間違いない。張り込みに売春宿を使い、折角だからと売春婦とファックに励むのもヨーロッパならではだが「トラヴォルタinヨーロッパ」といえばベタでも“ヴィンセント・ヴェガ”である。従って今回、“ヨーロッパのチーズバーガー”こと、“チーズ・ロワイアル”も現物がとうとう登場するのも本作渾身のネタらしいのだ。しかしその陰に隠れ、現在世界的に注目されている、フランス周辺における“ブルカ禁止法案”を後押しする論調で物語が運ばれる点は、ベッソンの政治的意図が垣間見え、空恐ろしくも要注目である。それでも「96時間」や「アルティメット」同様続編も期待したいが、次はフランス以外にならざるを得ず、またタイトルに難儀しそうなのはご愛敬だが、多分それはないな。 フルメタル・ジャケット [DVD]野獣死すべし デジタル・リマスター版 [DVD]ユナイテッド93 [DVD]ボーン・アイデンティティー [DVD]ボーン・スプレマシー [DVD]ボーン・アルティメイタム [DVD]ブラックホーク・ダウン [DVD]リダクテッド 真実の価値 [DVD]ハート・ロッカー [DVD]パリより愛をこめて Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)96時間 [DVD]ビー・クール [DVD]ブロークン・アロー [DVD]フェイス/オフ 特別版 [DVD]パルプ・フィクション [DVD]アルティメット [DVD]