W杯・初のアフリカ開催を記念して。

 中学校の通学路近辺で、当時自転車で高速で駆け抜けるアフリカ系の少年がしばしば目撃された。誰が言い始めたのか知らないが、中学の近くに“ガボン”大使館があったらしく(俺が当時知っていたのは“千昌夫”の家くらいで、詳しい場所は知らなかった)、そこの関係者の子女ではないか?ということから、また誰が言い始めたのか知らないが、少年は“ガボン”という渾名で、近所の中学生から、アフリカ系というだけで根拠なく、定かでもない国名で呼ばれるようになり、一部の在校生からはかなり露骨にからかわれていたらしい。と推測で言うのも、俺が現場を見ていないからだが、おそらくそのせいで、当時仲の良かった友人、N君が巻き込まれた事件がある。そしてその事件現場に居合わせた俺にとっても、スクリーンを通した“グバナン”大使館員との邂逅に匹敵する程度の、アフリカ系の人との触れ合いという意味で印象深い。
 それは俺とN君との中学からの下校中に起こった。例のごとく下ネタで談笑中の俺らの横を、件の“ガボン”少年(彼が“ガボン”人とは限らないが、当時の通称から以下便宜上、この名称で統一)がまたもチャリに乗って高速で通過しようとしていたのだ。だがタイミングが悪く、俺らの間には下ネタが炸裂中。駆け抜ける“ガボン”少年にかぶさるようにN君の爆笑がこだました。
 それによって、たぶん普段から同じ制服を来た少年たちにネタにされてナーバスになっている、“ガボン”少年にスイッチが入ってしまったのだ。俺らの前で急停止し、自転車を降りた“ガボン”少年は引き返すなり、“ジミー対山崎”ばりにN君の顔面を引っぱたいた。当然なぜ叩かれたか理解できないN君も逆上し、持っていた傘を“ガボン”少年の頭部にフルスイングして応戦。しかも返す手で傘の先端部が“ガボン”少年の眼に入り、出血こそしていないが真っ赤に充血し、傘が入った方の眼から涙が止まらない状態になってしまった。この悲劇に対し“ガボン”少年は毅然とN君の腕を掴み(つっても彼も何も仕掛けてないのだが)、傘が眼に入ったことで怖気づいた、特に腕っ節が強くもないN君をどこかに連れて行ったのだった…。
 何故かその時俺は幸運にも無音だったので、“ガボン”少年も俺に何かを言うでもなく、俺も“ガボン”少年の事情を知っているが故にN君に加勢することもためらわれ、言語の壁があるという思い込みから誤解を解く有効な方法も見つけられずに、その場に取り残された状態で帰るわけにも行かないので、N君の帰りを待つことにしたのだ。
 しばらくして“ガボン”少年に連れられてN君が戻ってきたが、どちらもケンカに発展したダメージのある外見はしておらず、かといって誤解が解けた様子もないが、コミュニケーションの取れないN君に業を煮やし、“ガボン少年”がN君を解放することに決めたらしいことが分かった。そして“ガボン”少年は、N君にではなく俺に向かって「トモダチ?」と聞いて来たのだ。それは思うに「お前は俺を傘で殴ったコイツのトモダチなのか?」と聞かれたように思い、頷いた。すると“ガボン”少年は何を納得したのか、置きっ放しになっていた自転車に乗り、高速で去っていった。
 徹頭徹尾、俺らに落ち度は全くなかったが、俺らが勘違いされるのもやむを得ないような、からかう奴らと同じ制服などの似た外見と年齢層をしていた、ということは大きいだろう。しかも結局アフリカ系というだけでどこの国の少年なのか全く分からなかった通称“ガボン”少年だが、彼がもしどこかのアフリカのどこかの国の大使館関係者だったなら、長じて日本と“グバナン”の友好に貢献するように、元気でいて日本とアフリカ某国の友好に尽力していて欲しいもんだ。と、長じてアフリカ系女性にしかほとんど興味がなくなった俺は望んでいる。
教訓:勘違イ、ヨクナイヨ!


 一観客として「鉄男 THE BULLET MAN」へ。純粋な新作であり、続編ともリメイクとも言える作品なのだが、今回はインターナショナル仕様というか、外国人キャストを主役に、ほぼ全編英語劇なので、塚本監督の海外への名刺的な、従来の自作への総括が窺えた作品である。それは「鉄男」というパッケージということではなく、焼けた拳銃を脚に押しつける「東京フィスト」的な描写や、実銃という設定で銃器を扱う者が大量に出て来たり(「バレット・バレエ」)、説得力のある女の裸の場面があるところ(「六月の蛇」)など、「鉄男」以降の作品についての発展したイメージの宝庫という点にある。また、複雑な情念を引き金とした壮絶な肉体変容はもちろん「鉄男II BODY HAMMER」を深化させたものだが、その変貌の苦痛や醜さにおいて、今回はクローネンバーグの(とりわけ「ザ・フライ」的な)エッセンスすらも感じるほどの痛々しさである。今回、その度を超した変容は、監督も少年時代に衝撃を受けたであろう「蔵六の奇病」的に哀しみさえ漂わせる深みを具えた。そのため監督演じる“やつ”こと“ザ・ガイ”との関係性も、壮大な都市破壊と、自作をパクった「ファイト・クラブ」への痛快な嫌みを交え、従来より一歩進んだ決着をもたらす点が画期的である。ただ海外リリースには日本人キャストの英語台詞がそれっぽく聞こえないので、これはジョニー・トーが「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」でテレンス・インを起用したような手法(吹き替え)でも良かったとは思う。


 一観客として「処刑人II」へ。正式な続編ゆえにおさらいが必要だし、前作を観ていない奴は置き去りであるという点において監督の執念を感じる。実際パチモンもそこそこありながらも、満を持して自らの世界観を貫いたその姿勢を評価したい。つまり、物語の出来云々も重要ではあるが、こうした作品の成立自体が、永きを経て成就した復讐を見ているようで美しいのである。なのでボストンでかつて大暴れした兄弟を呼び戻す陰謀が、前作では単なる極悪な強敵だったはずの、親父の代にまで遡る因縁話になっていても、その物語自体がここまでのブランクを補完する気遣いに溢れており、その落とし所を見守りたい気分にさせられる。しかも、激しいアクション満載とは言い難いが、重くて軽い人間の死と発砲で埋め尽くされていて、銃を偏愛する人間には性的な満足感すら感じるほどの、この規模の作品では大盤振る舞いが見られる。さらに前作で死亡した濃いめの優男、“ロッコ”に代わり、クリフトン・コリンズ・Jr扮する“ロメオ”が処刑人兄弟に、それなりの自己満足を交えながらも必死でついて行こうとする様が何とも愛おしい。また、終盤のサプライズももちろんあるが、前作のウィレム・デフォーの遺志を継ぐ形で、現在世界で最も暴力の世界に巻き込まれるのが似合う女優、ジュリー・ベンツが頑張ってくれているのがラストの感動に繋がっている。だからこそ余計に、このまま終わらせずに更なる続編を(今度は早期に)、銃撃満載で実現して欲しくなること必至の幕切れに見えるのだ。 


 一観客として「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂」へ。監督がマイク・ニューウェルという、「ハリー・ポッター」をソツなく形にしたことでブラッカイマーが振ったと確実な人選だが、元は親しみやすい横スクロールかつ、発表当時は主人公の滑らかな動きのグラフィックが評価されたPC用ゲームなのを覚えている。俺が現実にプレイしたのは、実質そのゲーム的なリメイクであったメガドライブ版「アラジン」だけだが、高校の通学路にあった家電量販店のブースで幾度となく見た。そのスペック的な制約の中での流麗さを見る感動には程遠いが、物語はゲームの激しい上下移動を想起させるアクションで埋め尽くされており、原典への敬意を払うことを忘れてはいない。後半の地下トラップは「最後の聖戦」っぽいが、落ちる床がそもそもゲームのパクリなんだからしょうがない。アルフレッド・モリーナの次のブラッカイマー仕事に連なる前振りにも注目だが、「007 慰めの報酬」も含む、主人公の守護者女優と化したジェマ・アータートンが「タイタンの戦い」以上に色んな角度から堪能できるのは有り難い。とはいえ長尺の理由が、隣国への開戦理由として、つい最近の「グリーン・ゾーン」をデジャヴさせる、イラク戦争についてのアメリカへの皮肉を無理に盛り込んだりと、「フェイク」の監督としての社会性を込めたつもりと見られ、娯楽性に影を落としている。どうせペルシャならヒロインにイラン系のバハール・スーメキを起用するとか、ウザくないアプローチでも観てみたかった。アウトレイジ スペシャルエディション(DVD+ブルーレイ+特典DVD)鉄男 [DVD]鉄男II/BODY HAMMER SUPER REMIX VERSION [DVD]東京フィスト [DVD]バレット・バレエ [DVD]六月の蛇 [DVD]ザ・フライ (2枚組特別編) [DVD]塚本晋也読本 SUPER REMIX VERSION蔵六の奇病 (リイド文庫―Leed horror bunko)ファイト・クラブ [DVD]処刑人 [DVD]アドレナリン2 ハイ・ボルテージ  コレクターズ・エディション [DVD]ハリー・ポッターと炎のゴブレット 通常版 [DVD]フェイク エクステンデッド・エディション (2枚組) [DVD]プリンスオブペルシャ MCD 【メガドライブ】アラジン  MD 【メガドライブ】インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 [DVD]007 / 慰めの報酬 (2枚組特別編) 〔初回生産限定〕 [DVD]タイタンの戦い Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)